銀行が「成長しない事業」に投資?オランダのTriodos Bankが描くウェルビーイングな経済とは

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銀行が、成長「しない」事業に資金を提供すると聞いたら、どう思うだろう。なぜそんなことをするのかと驚くかもしれない。

現行の社会システムにおいて銀行は、経済成長の促進を善として事業をおこなう。世界銀行も「長期的な成長のために」各国がとるべき政策などを提示している(※1)。この潮流に反して、成長から脱した経済である「ポスト成長経済」を宣言した銀行がある。

世界で最もサステナブルな銀行の一つとして知られる、オランダのTriodos Bank(トリオドス・バンク)だ。2023年11月、同社は「ポスト成長経済に向けた2024年予想」として以下にあげる3つの資料を公開した。そのタイトルと目次を見てみよう。

  • ポスト成長への道筋:長期投資の2024年予想
    1. 導入
    2. 今日の経済における成長
    3. 成長は生態学的課題
    4. ユーロ圏におけるポスト成長型への道のり
    5. 成長なくして反映できる経済の構築
    6. ポスト成長型金融
  • 成長への依存が気候アクションを脅かす:先進国経済の2024年予想
  • 権力、不平等、そしてポスト成長:新興市場の2024年予想

このうち、1つ目の「ポスト成長への道筋:長期投資の2024年予想」にはToriodos Bankの社会経済に対する姿勢が明確に示され、以下のような要点にまとめられる。同社が成長主義からの脱却に重点を置く理由や、ポスト成長経済の未来に向けた道筋を提示している。

「ポスト成長への道筋:長期投資の2024年予想」要点

  • 経済活動が気候変動などの生態学的課題の要因であり、GDPの上昇と共に資源利用が絶対量で減少する絶対的デカップリングの行く先は暗い
  • 連帯と充足性を優先するため、全体のウェルビーイング向上に向けた富の再分配が必要
  • ポスト成長経済に向けた3つの転換
    1. 供給の転換:循環・再生経済へと移行しながら環境フットプリントを低減させる。重点分野として農業と製造業を指摘。
    2. 需要の転換:ものの保有よりも経験(特にローカルなもの)の優先へ移行。現在の資源集約的な慣例から離れるため、社会・環境的ケアを促進。
    3. 余暇の転換:労働よりも余暇の時間の優先へ移行。基本的ニーズをカバーする賃金を確保しつつ、労働時間の短縮により生態学的な負担を軽減。
  • ポスト成長へ向かうための金融セクターの6つの転換
    1. すべての金融を現実の経済効果と再結合する
    2. 真に役立つ価値を生む投資活動をおこなう
    3. 債務を実経済の成長ニーズと一致させる
    4. 金融セクターと投資ランドスケープを多様化させる
    5. 金融機関の目標を複数資本の創造に置き換える
    6. 短期的利益を超えて長期的視野を持つ

つまり、これら3つのシフトの道のりは、労働時間の短縮による生産と消費の意識的な減少を想定しているという。そのすべてが、経済成長に非常に大きな悪影響をもたらすとToriodos Bankは言及する。それでも同社は、特に先進国の経済成長は人々のウェルビーイングとイコールではないことから、永遠の成長に対する依存から脱却しなくてはならないと指摘した。

ただし、ポスト成長経済においても、業界によっては成長が伴うという。ケアやアート、文化といったセクターは成長が見込まれる一方、採掘やエネルギー、金融セクターは規模の大幅な縮小が予想されると示した。

Image via Toriodos Bank

ほか2つの資料においても、先進国と新興国にわけてそれぞれの経済予想が述べられている。前者ではアメリカ、ユーロ圏、日本、イギリスを対象としたデータが並び、再びポスト成長経済の重要性が指摘された。後者ではより気候変動そのものや不平等などの課題について分析が成されている。

文章のなかで何度も使用されたのが「addiction to growth:成長への中毒」という表現だ。あえて「dependency:依存」という言葉よりもさらに一歩踏み入った表現にすることで、課題に対する危機感が伝わるのではないだろうか。

いま一度、本記事を振り返ってみてほしい。これまでの内容すべてを語っているのは研究者ではなく、銀行だ。45か国にわたる5,000以上のプロジェクトと投資に資金提供し、資本の流れを左右する立場にある銀行が、こうしてポスト成長経済を提唱している。これは気候変動対策として大きな進歩になるだろう。

永続的な成長へ懐疑的な視点に関心を示すのはToriodos Bankだけではない。欧州委員会は、ポスト成長に向けた研究に対し、2023年から6年間にわたって990万ユーロ(約15億5,000万円)の研究費を提供すると発表した(※2)

果たしてToriodos Bankは、先進事例と風変りな企業、どちらに転じるだろうか。同社のように一歩を踏み出した企業に追随して、投資家や他の企業も成長への依存から抜け出す流れは生まれるのか。日本企業の動向も含め、注目していきたい。

※1 世界経済の成長:「制限速度」が30年ぶりの低さに
※2 ERC Synergy Grants 2022 – project highlights

【参照サイト】Triodos Bank Economic Outlook 2024: towards a post-growth economy|Triodos Bank
【参照サイト】Over Triodos Bank | Duurzaam bankieren sinds 1980
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