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限りある資源の有効活用が叫ばれる昨今、リデュース・リユース・リサイクルといった「3R」の概念自体は私たちの生活に根付きはじめている。使用済みペットボトルを資源ごみとして出している人も多いのではないだろうか。
プラスチック循環利用協会によると、2021年における国内の廃プラスチック総排出量は824万トンにも上るという(※1)。そのうち、ごみとして焼却されたり埋め立てられたりしているのは13%ほどで、残りのおよそ717万トンがリサイクルされている(※2)。
しかし、ここで課題がある。リサイクルされている717万トンのうち、過半数を占める511万トンは、廃プラスチックを燃やす際に生まれる熱エネルギーを回収して発電などに活用するサーマルリサイクルに利用されている(※3)。サーマルリサイクルはあくまでもエネルギー回収にとどまり、真の意味でプラスチックの再資源化は進んでいないのが実情だ。
こうした現状を打破すべく、ケミカルリサイクルの社会実装を目指し、三井化学株式会社、花王株式会社、株式会社CFPの三社が立ち上がった。三社の協業により実現する、新しいカタチのリサイクル促進プロジェクトとは?
マテリアルリサイクルを補完するケミカルリサイクル。その課題は?
2024年3月に行われた会見で、三井化学グリーンケミカル事業推進室の丸山大輔室長は「現在、廃プラの約7割が焼却処理されている状況です。三井化学としては、これをマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルに転換していき、資源の循環を図っていきたいと考えている」と話した。
マテリアルリサイクルとは、廃棄されたプラスチックを粉砕・洗浄して、新しいプラスチック製品の原料として再利用する手法のこと。プラスチックごみの削減と廃プラスチックの資源化による温室効果ガス排出量削減が狙いだ(※4)。
一方で、一度廃棄されたプラスチックを再利用するため、臭気が残ってしまったり樹脂の品質が劣化していたりするという課題もある。
こうした課題の残るマテリアルリサイクルを補完する試みとして、注目を集めているのがケミカルリサイクルだ。ケミカルリサイクルは廃棄されたプラスチックを化学的に分解して原料レベルにまで戻し、もう一度プラスチック製品の原料として活用していく手法のこと。フレッシュな原料そのものに戻してから再度プラスチックを製造するため劣化がなく、臭気などにも対応できるのがメリットだ。
このように既存のリサイクルシステムを補完することができるケミカルリサイクルだが、課題も指摘されている。もっとも大きな課題は「コスト」だ。ケミカルリサイクルは廃プラの収集コストだけでなく、新たにケミカルリサイクルのための設備投資が必要になる。実際のところ、ケミカルリサイクルが利用されているのは、2021年の国内の廃プラスチック総排出量のうちわずか4%ほどで(※5)、使われ方も高炉での還元剤やガス化がメインとなっており、プラスチックに戻すケミカルリサイクルの取り組みはまだまだこれからである。
日本初バイオ&サーキュラークラッカー。新しいカタチのリサイクル
今回、三井化学らが打ち出した新規プロジェクトは、マテリアルリサイクルが難しい廃プラスチックを対象とした、ケミカルリサイクルの推進だ。
もともと三井化学は2022年、「世界を素(もと)から変えていく」をキーメッセージとした2つの新ブランド「BePLAYER®︎」「RePLAYER®︎」を立ち上げている。「BePLAYER®︎」は、プラスチックの原料を石油からバイオマスにすることで、カーボンニュートラルを目指す取り組み。「RePLAYER®︎」は、廃棄プラスチック等を資源として見立て直し、リサイクルすることでサーキュラーエコノミーの実現を目指す取り組みだ。
今回のプロジェクトでは具体的に、廃棄されたプラスチックをCFPの技術で油に変換し、その油を原料にして、三井化学のクラッカー(化学製品を製造する装置)へ投入。マスバランス方式によるケミカルリサイクル由来の化学品・プラスチックの製造・販売を開始した。マスバランス方式とは、「原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料やリサイクル由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法」である。バイオマス・リサイクル社会の実現に向けて、マスバランス方式は重要な役割を果たすと考えられている。
3月の中旬に最初の原料をクラッカーに投入した。このときの心境について、CFPの代表取締役の福田奈美絵さんは会見にて次のように語った。
「ケミカルリサイクルに取り組んで15年ほど経ちますが、自社の装置を使って国内のお客様に(プラスチックの原料となる)油をおさめるというのは初めてでした。出荷のときは、スタッフ一同感動しながらもほっとした気持ちが大きかったように思います」
今後もCFPは、廃プラスチック由来の熱分解油の安定供給を目指すという。
使ったら捨てる、この当たり前を変える「リサイクリエーション」
こうした企業の協業を経て、三井化学のクラッカーで再生されたプラスチックはどのように市場に出回るのだろうか。ここで登場するのが、花王だ。シャンプーや洗剤の容器など、花王の製品パッケージでプラスチックは多く使用されている。今回発表されたプロジェクトでは、花王が関与した廃プラスチックをCFPで油化し、その油を原料に三井化学がプラスチックを製造、再度花王製品へと戻す、という循環型のスキームである。
「使ったら捨てる、この当たり前を変えていきたいという想いがあります」と、花王の購買部門の特命統括補佐を務める矢野政志さんは語る。
花王では、使い終えたものを再び資源に戻す「リサイクル」と、新たに価値を創造する「クリエーション」をかけ合わせた「リサイクリエーション(創造)」を合言葉に、地域やパートナー企業と共に循環型社会への新しいシステム・ライフスタイルの提案を行っている。たとえば、神奈川県鎌倉市、徳島県上勝町などと連携し、回収したつめかえパックを再生樹脂にして、「おかえりブロック」と名づけたブロックを作った。「おかえりブロック」が地域に戻ってくることで、資源循環が実感できるというユニークなプロジェクトだ。
今回、その「リサイクリエーション」の一環で行うのが、一度使った容器を洗浄・加工して同じ容器として再利用する水平リサイクルの取り組みだ。花王の化粧品のボトルには、ケミカルリサイクルしたPET樹脂を採用。2021年6月に化粧品ブランド「トワニー」でこのPET樹脂を導入したのを皮切りに、今後さらに水平リサイクル事業を進めていく方針だという。
また、これまで複数のフィルムが使用されていてリサイクルが難しいと考えられてきた、詰替えパックの水平リサイクルにも三井化学グループとの取り組みで成功している。再生した材料を約10%使用した洗剤の詰め替えパックを2023年5月にリリースした。
この取り組みについて、矢野さんは「複数の種類のフィルムを使っているこういったパウチ素材はリサイクルしにくいため、なくしていくべきではないかという風潮もあります。しかし花王としては、パウチはボトルよりもプラ使用量を大幅に削減できたり物流効率も高く、欠かせない素材であると認識しています。だからこそ『パウチもリサイクルできるんだ』と証明することが必要です」と語っている。
素材としての優秀性を考慮すれば、プラスチックにしか補えない機能もある。また、代替品を探すにもLCA(ライフサイクルアセスメント)全体を考慮する必要があり、単純に他のものに置き換えればいいというわけではない。だからこそ、こうしたリサイクルの社会実装に向けた取り組みは欠かせないのだ。今後、私たちの手元にこの取り組みから生まれた製品が届くことを期待したい。
※1.2.3 プラスチック循環利用協会(2023)『プラスチックリサイクルの基礎知識2023』
※4 環境省(2016)「マテリアルリサイクルによる天然資源消費量と環境負荷の削減に向けて」
※5 プラスチック循環利用協会(2023)『プラスチックリサイクルの基礎知識2023』
【参照サイト】花王公式HP
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Edited by Erika Tomiyama