企業はリジェネラティブな未来をどう描けるか。「三井化学フォーラム」で見た脱プラの“先”

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Sponsored by 三井化学株式会社

「もう一度想像してみよう。リジェネラティブな未来を。」

そんな問いを自らに投げかけ、新たな未来を描こうと試みているのが三井化学株式会社だ。同社は2024年3月22日、東京・八重洲で「三井化学フォーラム2024」を開催し、多様な企業がリジェネラティブ(再生的)をテーマに議論を交わした。

リジェネラティブとは、地球環境の持続可能性を追求することにとどまらず、地球環境を再生しながら、生態系全体を繁栄させていく考え方だ。気候変動やサステナビリティに意識を向ける人々の間で、地球規模の社会課題を解決するための新しい概念として注目されている。

そんな「再生」の過程に、企業はどう関わっていくことができるのか。今どんな壁を乗り越えなくてはならないのか。本イベントのトークセッションを追うことで、その鍵を探っていきたい。

三井化学が描く、リジェネラティブな未来とは?

イベントは、同社代表取締役社長の橋本修氏によるオープニングセッションと共に幕を開けた。橋本氏は、この「リジェネラティブな未来」の実現に向けて、幅広いバリューチェーンの人々と共に考えることの重要性を説いた。

同社の取り組みとして示されたのは、長期経営計画「VISION 2030」だ。2021年以降CO2削減など新しい波が訪れていることに対し、橋本氏は再び原料転換の時が来ると予想。バイオマスとリサイクルへの転換により、リジェネラティブな社会の構築を目指していくという。

カーボンニュートラルサーキュラーエコノミーが推進されるものの、一つの企業では変わらない。企業間でのコラボレーションを促進させよう──そんな思いを共有し、イベントがスタートした。

イベント当日は録画にてメッセージを寄せた橋本社長。

基調講演と三井化学の取り組み

基調講演にて登壇したのは、『人新世の資本論』著者で経済思想家である、東京大学大学院 総合文化研究科 准教授の斎藤幸平氏だ。脱成長についても語ってきた斎藤氏は、資本主義を生きる企業のフォーラムにおいて一体何を呼びかけたのだろうか。

基調講演

斎藤幸平が考えるリジェネラティブな未来について

斎藤氏は「企業と脱成長は相性が悪いのですが」と切り出して笑いを誘い、「脱成長の視点から捉えたバックキャスティングと真のイノベーションのあり方を探る」と位置付けて講演を始めた。

斎藤氏は、化学製品が多く製造されている今日、大企業による取り組みは十分でないと語った。その考えは、同氏が脱プラ生活を試みたものの、その生活は大変どころか不可能に近く、味噌を工場まで受け取りに行ったなどの実体験から生まれている。個人のアクションに限界がある一方で、SDGsも個人アクションに矮小化され、今の生活を続けるための免罪符になっていると言及した。

実際人間の活動による地球への影響は大きく、斎藤氏は、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義して限界点を表したプラネタリーバウンダリーの9項目中6項目が超過していることを指摘。格差の拡大や、富裕層のCO2排出による不公平な気候変動リスクについても批判した。

この現状を踏まえ、電力やモビリティなどを含め、産業のシステムを抜本的に変える必要性を説いた。なぜなら、現在の危機はこれまでのものとは異なるからだという。今までは「もっと成長すれば良くなる」と予想ができたが、今回は行き過ぎた資本主義によって課題がさらに深刻になる。今の生活を続けるほど悪くなるという新たな状況に対処する必要があるのだ。

東京大学大学院 総合文化研究科 准教授の斎藤幸平氏

東京大学大学院 総合文化研究科 准教授の斎藤幸平氏。

この危機への対処方法として、二つの方向性が存在するという。一つは、さらなる技術発展に期待するもの。バイオエネルギーを使いながら二酸化炭素を回収・貯蔵する仕組みであるBECCSや、ジオエンジニアリング、AIなどが解決の手立てとして期待される。しかし斎藤氏は、これらマイナスの技術の存在が現行のやり方を変えない言い訳になり技術開発が進んでいないことや、コスト面の課題が残ることを指摘した。

もう一つは「脱成長」の台頭だ。エネルギー利用が過剰なものを循環型にしても、変わらず過剰であり、追加のエネルギーは少なからず必要となる。このことから斎藤氏は、循環型への転換に加えて脱成長に踏み込むことが必要だと説いたのだ。

では、真のイノベーションとは一体どんなものであるのか。斎藤氏は、断絶的な変化や問題が定期的に生じるような時代に入ることを前提とした「脱成長型イノベーション」が必要であると語った。人口減少や高齢化などの制約を受け入れ、新しい豊かさを探ることが、次なるイノベーションであるという。「真にリジェネラティブな未来に向けてのバックキャストは、制約を受け入れることから始まる」と締め括られた。

会場には、展示コーナーも。斎藤幸平氏が脱プラ生活にトライし、改めてプラスチックを無くすことは難しいと感じた体験記が展示された。

特別セッション

続いては、さまざまな視点からプラスチック問題に取り組む企業をゲストに迎え、特別セッションが行われた。

1. 脱プラの現状について考える

一つ目のテーマとなったのは「環境に良いストローとは何か」だ。この観点から事業を推進する国内ストローメーカーであるシバセ工業の磯田氏が取り組みを紹介した。

海洋プラスチックの解決に向けて紙製への移行が進むストロー。しかし、「分解しないバイオマスプラスチック」を用いたストローを製造・回収し循環させる方が、紙製ストローよりもCO2排出量や環境負荷が低いという(※)。そこで同社では敢えて、プラスチックストローのバイオマス化に優先して取り組んでいる。

これに対し、斎藤氏は「素材を変えることで別の問題が発生するという事例ですね」とコメント。ただしプラスチックを使用し続けることが最善ではないとして、常により良い素材や利用方法を模索していくことや、石油に依存する社会構造を変えることの重要性も議論された。そうした意味でも、プラスチックのバイオマス化は有効な手段と言えるだろう。

セッションで意見を交わした、三井化学の松永氏(左)、斎藤氏(中央)、シバセ工業株式会社の磯田氏(右)。

このセッションでファシリテーションを務めた三井化学の松永氏は、プラスチック大量廃棄の代替案が、豊かさとのトレードオフになりがちであると指摘。同氏は、現状のシステムから移行しながら本当の豊かさを取り戻す考えの助けとなるのが、斎藤氏の提唱する「コミュニズム的な思考」ではないかと語る。斎藤氏は、脱プラにおいても循環型にすることが本質的な解決策ではないことを改めて強調し、次のように述べた。

「循環型になっても、その円が大きすぎると持続可能にするのは不可能です。そこで過剰さを認めて別の豊かさを考えていく上で、『コモン(公共財)』という考えがヒントになります。地球も人生も有限であるなかで、無限の成長とエネルギー利用を続ける社会のあり方は、人間に幸せをもたらさず、地球にとっても持続可能でない。むしろ、成長しなくて良いならば、色々なものをシェアできる社会が、別の豊かさをもたらしてくれるのではないかと思っています」

安易な取り組みではなくその課題の本質を捉えること。さらに、事業やサービスが生み出す「豊かさ」を定義し直すこと。気候危機にある今、どちらもあらゆるアクターが一度立ち止まって考えたい重要な視点だ。

2. リジェネラティブな社会の実現に向けて ~ブランドオーナーの挑戦~

二つ目にテーマとなったのは、まさにイベントのメインである「リジェネレーション(再生)」に取り組む企業の取り組みだ。日本マクドナルド株式会社の牧陽子氏、ネスレ日本株式会社の嘉納未來氏、株式会社竹中工務店の松崎裕之氏が登壇した。

日本マクドナルド株式会社では、2050年までにGHG排出ネットゼロという目標に向けて商品パッケージの再生素材への切り替えを実施。バージンプラスチックの利用を減らすことを重視する一方、国内3,000店舗で適応させる素材や仕組み構築の難しさも示した。

ネスレ日本株式会社では、気候変動や需要急増によってコーヒー豆の栽培・製造が危惧される「コーヒーの2050年問題」に言及。農家の暮らしやウェルビーイングを守るため、土壌を修復・改善しながら自然環境の回復への寄与を目指す再生農業への移行支援を加速させている。

株式会社竹中工務店では、資源循環において木材が重要となると捉え、国内の木材利活用を促進させている。同社は森林の荒廃だけでなく国内林業の衰退も課題と捉え、木材の循環が地域社会にも利益をもたらすような仕組みの構築を目指すという。

日本マクドナルド株式会社の牧氏(左)、ネスレ日本株式会社の嘉納氏(中央)、株式会社竹中工務店の松崎氏(右)。

ここで一つ、重要な問いが投げかけられた。「その先で何のためにやっているのか」という問いだ。

日本マクドナルド株式会社の牧氏は、「おいしさと笑顔を地域の皆さまに」という同社パーパスのもと、笑顔が続くことを重視して子どもをステークホルダーとして捉える中で、次の世代の暮らしを考えることが重要だと語った。ネスレ日本株式会社の嘉納氏は、「食べることは身体だけでなく心の健康に関わる」として、作り手の暮らしを支えながら、よりポジティブな「消費」を捉え直したいという。株式会社竹中工務店の松崎氏は、大型開発が本当に必要であるかを聴衆に問いかけ、「地域の残すべき姿」を考えていくことが重要であると強調した。

各企業が描く未来や目標は、どれも惹かれるものばかりだ。これが利益の副次効果としてではなく、事業の根幹において本当に追求されていくならば、持続的なリジェネレーションも実現するのではないかという前向きな可能性が感じられた。

3. マスバランス方式バイオマスポリオレフィンの実用化と課題

最後に、マスバランス方式を導入した日本生活協同組合連合会の取り組みだ。マスバランス方式とは、原料から加工・流通の過程で特定の性質を持った原料とそうでない原料が混合される場合、その特性を持つ原料の投入割合に応じて、生産する製品の一部にその特性を割り当てる手法のこと。

同社のプライベートブランドであるCO・OPでは、利用者の声を反映した商品作りを行ってきた。環境負荷の低い素材を求める声の高まりを受け、2023年7月に味付のりのパッケージを皮切りにマスバランス方式を採用したという。

マスバランス方式が採用された味付のりのパッケージ。

同社では2030年までに、容器包装を25%削減し、再生・植物由来プラスチックの利用を合計50%以上へ引き上げることを目標としている。しかし一部商品の包装に使用しているポリプロピレンはバイオマス素材での置き換えが難しいことから、マスバランス方式によるバイオマスポリプロピレンの採用に至ったという。

まず一歩踏み出すことで、企業内部から変えることができるのだと感じられる取り組みだ。

生協の身近な食品パッケージが生活者の気づきに。マスバランス方式のバイオマスプラ「Prasus®」

4つのソリューション

それでは、こうした変革を可能にする技術とはどのようなものか。4つの取り組みを扱ったトークセッションの様子を紹介する。

1. バリューチェーン横断的な連携を通じたケミカルリサイクルの実現

今、世界で模索されているプラスチックのリサイクル。EUにおいても2024年3月に「包装材と包装廃棄物に関する規則案」が暫定合意に至っており、再生プラの使用率についても盛り込まれたことが話題になった。使用済みプラスチックを原料に戻すケミカルリサイクルは、従来困難であった資源循環を実現可能にする点で、マテリアルリサイクルを補完するソリューションとして注目されている。

三井化学は、ケミカルリサイクルの事業化について早い時期から世界トップクラスの総合化学メーカーBASFジャパンとの協業検討を発表してきたりするが、今回日本の油化事業者である株式会社CFPから廃プラ分解油を調達し、大阪工場のナフサクラッカーへ投入開始、新規事業化に至った。花王株式会社が関与した廃プラから再生プラスチックを製造し、花王製品に再び使用するという循環型スキームの実装に向けた共同検討も開始したという。

三井化学がケミカルリサイクルを事業化。花王と共に創造力で廃棄を減らす「リサイクリエーション」が鍵に

2. メカニカルリサイクルへのアプローチ:実証実験設備で共に進める品質改善

廃棄プラスチックのメカニカルリサイクルの事例の一つとして、神戸市ふたば学舎での取り組みがシェアされた。ある特定のプラスチックを生活者が洗浄し、ふたば学舎のステーションで回収。それら生活者から回収した素材を三井化学がリサイクル材に変え、街に置くベンチに使用することで生活者のリサイクルへの関心向上に取り組んだ。「どのように回収すればいい素材になるのか」「化学メーカーが技術的なエッセンスを入れることでさらにリサイクルが促進できる」ということを実感したという。

三井化学株式会社 モビリティソリューション事業本部 複合材料事業推進室 加茂公彦氏。イベントは、オンラインとオフラインのハイブリッド形式で行われた。

3. プラスチック素材のトレーサビリティを可能にする資源循環プラットフォーム

廃プラを資源としてリサイクルさせる社会的要請が強まる中でも、リサイクルにおけるコスト面や技術面に加え、材料の由来や含有物質の明確化などトレーサビリティの担保は課題だ。サーキュラーエコノミー推進にはデータ連携が欠かせない中で、三井化学ではブロックチェーン技術を活用し、プラスチック素材のトレーサビリティを可能にした資源循環プラットフォーム(RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォーム)を構築した。

ユースケースの一つとして、石塚化学産業が紹介された。同社は、廃自動販売機を解体して取り出したPC樹脂・PMMA樹脂から再生プラスチック材を製造し、RePLAYER®ブロックチェーンプラットフォームによってトレーサビリティを付与して販売を行う。また、プライムポリマー社からは、樹脂ペレットを販売する際の使用済み包装(樹脂袋)を回収し、洗浄・粉砕処理・再生樹脂を製造、再び樹脂袋に戻す取り組みの中でプラットフォームを活用。再生材を使った製品販売における品質管理体制の強化を目的として実証実験が進んでいる。

4. 欧州市場におけるサステナブルな自動車開発

最後に登場したのは、ドイツのミュンヘンに拠点を置き、自動車とモビリティ産業の開発に携わるARRK Engineering GmbHのDr. Jens Ramsbrock氏だ。事例紹介の中では、BMWのドアパネルに使用された、素材のCO2吸収率が高い植物由来のケナフ繊維についてや、ボルボは自社だけでなく、部品を届けるサプライヤーの持続可能性についても高い基準を持っていることなどがシェアされた。

また、欧州のサーキュラーエコノミー規制だけでは産業界の推進が十分ではない中で、NCAPと呼ばれるプラットフォームが生まれている。様々なOEMが自主的に自社のLCA(ライフサイクルアセスメント)を掲載することができ、これによりどの車種がどれくらいのCO2を排出しているかを見ることが可能だ。現在ARRK Engineeringでは、こうしたデータ掲載のために各社が活用できるソフトウェアを活用しているという。

ARRK Engineering GmbH / Sustainability Management Dr. Jens Ramsbrock。

編集後記

農業分野でのイメージが強かったリジェネラティブという概念が企業のフォーラムでメイントピックとして語られること、さらには脱成長まで話題が及ぶことに、はじめは驚きもあった。だが、それだけ環境問題をめぐる議論が至る所で進んでいるということだろう。このような議論がより多くの企業、市民へと広がる兆しがあることに希望を感じた。

ただし、現在の経済システムの延長としてリジェネラティブな社会のあり方を捉えていては、同じ課題を生んでしまう。紹介した取り組みを進め、さまざまな技術を導入しながらも、それがどんな未来に通じ、どのような豊かさを提示しているのかを注視することも忘れてはいけない。現在と地続きではない社会だからこそ生まれる、企業の新たな役割や暮らしの異なる豊かさをともに描く旅路は、すでに始まりつつある。

大量生産・大量廃棄の文化から脱することは簡単ではない。だからこそ、リジェネレーションや脱成長というテーマのもとで集う場が、企業間の未来への視点を合わせ、気候危機という大きな課題の解決に向けて協働するきっかけとなるのではないだろうか。

三井化学株式会社、株式会社メンバーズ(2024)「ストローのLCA比較でみたプラスチックとその代替」

【参照サイト】三井化学フォーラム2024|三井化学株式会社
【参照サイト】VISION 2030|三井化学株式会社
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Written by Natsuki Nakahara, Erika Tomiyama

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