発電時に温室効果ガスを出さないため、気候変動や地球温暖化への対策のひとつとして重要視される、再生可能エネルギー。2024年4月には、世界の7か国が電力のほぼ100%、他40か国が50%を再生可能エネルギーで賄っているというデータも発表されるなど、その急速な広がりが感じられる(※1)。
一方で、私たちがここで一度立ち止まって考えるべきことがある。それは、CO2削減に効果的な再生可能エネルギーの発電プロセスにおいて、人間以外の生き物を犠牲にしていないかということだ。
この問いを正面から突きつけてくるのが、風力発電機に衝突して命を落とす渡り鳥の数の多さだ。例えば、米国だけで、年間平均234,000羽もの鳥が風力発電機への衝突で死亡していると推定されている(※2)。
渡り鳥が巨大な風力発電機に衝突してしまうのはなぜだろうか。理由は、鳥の視覚にある。鳥は、人間とは異なり目が顔の側面についており、視力は優れていても基本的には横を見ながら飛んでいるため、自分が向かう前方向はほとんど見えていないのだという。時折前方を確認することもあるというが、通常は開けた空間を飛んでいるため、その頻度も高くないのだ。
こうした鳥の習性を起点に生まれた解決策のひとつが、ノルウェー自然研究所の研究者たちによって発表された。それは、風力発電機のブレードのひとつを黒く塗ることだ。
これにより、ブレードが回転するときにチラつき効果が生まれ、渡り鳥が飛びながら風力発電機を認識する確率が高くなるのだという。実際にノルウェー最大の陸上風力発電所であるスモーラ風力発電所で行われた実験の結果、渡り鳥の衝突を70%近くも減らすことができたそうだ。
また、イギリスでは風力発電機のブレードや支柱を以下のように黒と白のストライプで塗装することが、同じような原理で鳥の衝突率を下げる効果があると主張する研究者たちもいる。
一方、鳥の視覚に頼る解決策は不十分だとし、この問題に「音」を用いて取り組む研究者たちもいる。
米バージニア州のウィリアム・アンド・メアリー大学の研究者たちは、「ヒスノイズ」と呼ばれる白色雑音が、鳥が建造物との衝突を避けるのに効果的だとしている。実際に屋外の通信塔にノイズを発するスピーカーを設置して行った実験では、鳥が通信塔を回避する行動が確認できたという。研究者たちは現在、この方法を沖合風力開発に活かすためエネルギー会社と交渉中だ。
鳥の視覚や聴覚を理解することで、問題の解決に一歩近づく今回の事例。多様な生き物の命を守る方法として、あらゆる分野に適用できそうだ。
また、風力発電に限らず、ある面では環境負荷を削減する取り組みが、他方で生物やエコシステムを傷つけることにつながっていていないかどうか、私たちは注意深く見ていく必要があるのではないだろうか。
※1 Seven countries now generate almost 100% of their electricity from renewable energy in ‘irreversible tipping point’ moment
※2 Estimates of bird collision mortality at wind facilities in the contiguous United States
【参照サイト】These tricks make wind farms more bird-friendly
【参照サイト】Seven countries now generate almost 100% of their electricity from renewable energy in ‘irreversible tipping point’ moment
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