欧州に巨大な円を描く「巡礼路」が誕生?人と自然をつなぎ直す3,000キロの自転車道

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日本にも海外にも、都会にも地方にも……周りを見渡すと、各地で気候危機に立ち向かい、より多くの人がより良い生活を営むことができるよう、力を尽くす人や組織がいる。この事実は、この上なく私たちの背中を押してくれる。

一方で、単独で起こすことができる変化には、限界もある。気候危機による被害を最小限に抑えるにはあと数年しか残されていないとも言われている中で、私たちはより大きなつながりを大切にし、知恵や技術を共有し、より柔軟かつ適応力のある体制を整えることが重要ではないだろうか。

そんなつながりを、国境を超えて築こうとするプロジェクトが欧州で立ち上がった。総距離3,000キロにもおよぶ、徒歩や自転車でめぐる“巡礼ルート”を構築するランドスケープ・アート・プロジェクトの構想「Circle4Change」だ。これは新たに道路を築くプロジェクトではなく、ルート上にある地域の組織や人をつなぎ、長期的なネットワークとして機能することを目指す。後にこの巨大な円形のルートが、自然と調和した地域のあり方や暮らし方を学ぶ旅路となる見込みだ。

欧州の地図上に大きく丸い円が書かれている

Circle4Changeウェブサイトに掲載されているルート|出典:Circle4Change

主催者であるブルーノ・ドゥーデンス氏をはじめとしたアーティストたちは、2025年からこの円形のルートに沿って旅を開始し、各地域の地元組織や住民から、ストーリーを集めながら、その地で人と自然の調和した未来を体現する文化プロジェクトを展開していく。

その道中、地域社会のメンバーが共同で管理・運営するコレクティブガーデンの設置や、誕生日に木を植えるバースデーツリーの活動などを地域住民とともに行い、同プロジェクトへの参加を募る。その後は、3年ごとに同コミュニティ全体でイベントを開催し、各地を回るツアーなどを計画しているという。

一行は、オランダ北部の街・レーワルデンを出発して、円の反対側であるスロベニア西部の街・ノヴァ・ゴリツァで折り返し、レーワルデンに帰ってくる。オランダ、ドイツ、ポーランド、チェコ、オーストリア、スロヴェニア、イタリア、フランス、ベルギーという欧州9カ国をめぐるプロジェクトだ。

同プロジェクトは、環境哲学者のグレン・アルブレヒト氏が提唱する、Symbiocene(シンバイオシン:共生新世)をテーマの一つに掲げる。これは新たな時代の捉え方の一つであり、生命に有害な物質の排除や生分解性への移行、再生可能エネルギーの利用、そしてあらゆる規模での種間の共生関係の尊重と創造、保護、修復によって特徴づけられる(※)。このことから、哲学者のローマン・クルツナリック氏が唱えた、良き祖先(Good ancestor)という考え方を軸に置き、未来の世代にとって良い先祖となるよう行動する長期的な視点を重視する。人類が生態系や気候に大きな影響をもたらす時代にあることを示すAnthropocene(アントロポセン:人新世)と対照的だろう。

団体名をサイトに掲載するだけのコミュニティではなく、まさに地に足をつけて各地を行脚するアプローチは、ともに語らい、ともに汗を流した仲間としてより強いつながりを築くはずだ。距離にして、おおよそ北海道の端から沖縄の端までに値する巨大な輪。これが人の輪となり、自然と人を結ぶ輪となっていくだろうか。

An Invitation to the Symbiocene – By Glenn Albrecht

【参照サイト】Circle4Change – Europe
【参照サイト】Could art redefine our relationship with nature?|Springwise
【参照サイト】The Good Ancestor|Roman Krznaric
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