メンタルヘルスは“おしゃべり散歩“から。ちょっとおかしな1,000の質問で対話を促す、街歩きプログラム

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歴史上の偉人たちの中に、散歩を愛した人物は多い。

カント、キルケゴール、ディケンズ、アインシュタイン、ベートーヴェン……彼らは名作を生むインスピレーションや思考の整理、健康のために散歩をしていたと言われている。実際に、散歩には創造性を高める効果があり、歩いているときは座っているときと比べて活動成果の創造性が60%も高まるのだ(※)

ただし、名作を生み出そうとしていなくても、散歩は役に立つようだ。少し心が重くなるような話題を切り出すときや、ずっと抱えていた悩みを打ち明けるとき、席について面と向かうよりも歩きながら話す方が心地よく切り出せたという経験をした人は多いのではないだろうか。

そんな散歩の効果に着目して生まれたのが、散歩をしながらおしゃべりすることでメンタルヘルスの改善を図るプログラム「Walk Club」だ。イギリスのメンタルヘルスショップ・Self Shopが始めた。オンラインで事前に登録した参加者が集まり、資格を持つセラピストによるガイドのもと、ウォーキングペアが決められ質問リストを会話のきっかけにしながら街の中を散歩するというものだ。1時間半のプログラムが、市内数か所で月に1度ほど開催されている。

Image via Self Space

質問リストは全部で1,000個、ペアの関係性に合わせて100のカテゴリーに分かれている。「友だちになるために」や「落ち込んでいる人向けに」など聞いたことのあるものから「創業者とビジネスオーナー向けに」「飛行機で知らない人と話すときに」などユーモアに溢れたものまで、そのカテゴリーは幅広い。たとえば「仕事中のコーヒー休憩のおしゃべりに」の中には「もし自分の会社を有名人に例えるなら誰?その理由は?」「ここで働き始めて身につけた、最も奇妙で予想外のスキルは何?」などの質問があげられている。

Self Shopは通常、店舗内にて臨床心理学者やカウンセラー、芸術療法士、トラウマ専門家など、さまざまな専門家によるセラピーを提供している。同社によると、イギリス国内では61%の人が生活に行き詰まりを感じ、59%は何らかの変化が必要だと考えているなど、セラピーの必要性が高まっているという。しかし、公の場でカウンセリングを受けに行く姿が見られることにハードルを感じる人も多いだろう。このギャップを埋めるべく、店舗に入るよりハードルの低い「街歩き」をメンタルヘルスケアの入り口にしようと考えたのだ。

市外に住む人でも同じプログラムを体験できるよう、質問リストは同社のホームページで無料で公開されている。これをダウンロードして家族や友人を誘えば、どこでもWalk Clubを楽しむことができる。

筆者は、こうして散歩しながらおしゃべりするというプログラムを何度か経験している。組織内のメンバーでメンタルヘルスを考えるために公園で2人1組になって散歩したり、大学生向けサマープログラムでアクティビストの仲間と「自分にとって幸せな瞬間とは何か」を共有したりした。

実践してみて印象的だったのは、沈黙が怖くないことだ。うまく言葉が出てこなくても、考えている間は環境音がそれとなく場をつないでくれて、必ずしも相手の表情を見続けなくても大丈夫。そんな緩やかな時間の流れが、本音を引き出してくれたのかもしれない。

セラピーやカウンセリングにハードルを感じる人が多い一方、改まって「散歩に行こう」と誘うこともなんだか気恥ずかしいかもしれない。そんなとき、Walk Clubの取り組みや質問リストの存在が良い言いがかりになればと願う。「偉人の真似だ」と言って誘ってみても良いかもしれない。

https://www.apa.org/pubs/journals/releases/xlm-a0036577.pdf

【参照サイト】Walk Club|Self Space
【参照サイト】Self Space launches therapist-guided Walk Club for mental fitness and social connection|TrendWatching
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