廃棄食材を救うオランダの人気レストラン「Instock」が店じまい。事業転換にかけた想いとは

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とある社内ビジネスコンテストから、彼らのフードレスキューの旅は始まった。

2014年、当時オランダの大手スーパーチェーン・アルバートハインの社員だったBart Roetert、Selma Seddik、Freke van Nimwegenは、フードレスキューのためのレストラン・Instockを立ち上げた。3人は、スーパーマーケットで毎日大量に廃棄される食品に対して問題意識を持ち、これらを有効利用する方法を模索していた。特に、「賞味期限が近い」「食材や在庫が過剰にある」「見た目が良くない」といった理由で廃棄される野菜や果物といった食材を救出することが課題だったという。

そして、2014年1月に行われた社内のビジネスコンテストで「廃棄食材を使ったレストラン」というアイデアを提案し、それが見事採用されたのだ。アルバートハインからの支援を得て、2014年6月に「Instock」をポップアップストアとしてアムステルダムでスタート。2015年6月には常設レストランを開店した。

地域のスーパーマーケットやベーカリー、生産者から廃棄予定の食材を調達し、一流シェフによる高品質な料理をリーズナブルな価格で提供する。Instockは新しい形態のレストランとして注目を集め、連日多くの人が足を運ぶ人気ぶりとなった。その後アムステルダムの店舗に加え、ユトレヒトとデン・ハーグにも新たに常設レストランを展開し、3つの店舗を運営するまでに成長した。

店じまいをする前のInstockアムステルダム店舗前(筆者撮影)

レストランから卸売業者への大転換

廃棄食材を素晴らしい食事に生まれ変わらせるInstockの取り組みは瞬く間に広がり、毎日多くの食材が寄せられるようになった。その量は、Instockのレストランで取り扱える以上の量にまで増加。処理しきれないと廃棄になるため、彼らは一定量以上の受け入れを断らざるを得ない状況に直面した。そうして、さらに多くの食材を救出し、無駄を減らす方法を模索するようになったのだ。

そんな中、Instockはこれまでのレストラン事業に加え、2019年に廃棄食材を食の提供者らに広く使ってもらうための食の流通事業「InstockMarket」をローンチ。オランダで活躍する多くのシェフらにフードレスキュー・ヒーローになる術を提供するため、まだ食べられる廃棄食材を流通させる卸業者としての事業を開始した。

その後の2020年、新型コロナウイルスの流行によりにレストラン業界全体が厳しい状況に置かれることとなり、Instockも例外なく打撃を受けた。こうした状況を受けて2020年5月、Instockはユトレヒトとデン・ハーグの2つのレストランの閉店を余儀なくされた。

さらに2022年にはアムステルダム店の閉店を決定。Instockにとってこれは容易な決断ではなかったというが、これを機に、卸売業者InstockMarketとして完全に事業を転換。これまでより大規模に食品廃棄物の削減に取り組むことができるようになったのだ。

フードレスキューセンターの創設で、救出する食材は2倍に

食の卸業者としての新しいビジネスモデルは、食品廃棄物を削減するだけでなく、購入コストの削減や食のあり方を考え直すためのストーリーを提供することで、顧客であるケータリング事業者のメリットを最大化できる。実際に他の食の卸業者に比べ、InstockMarketの扱う食品は3割ほど安い。

さらに2022年、Instockは消費期限が短い食材の的確な管理と迅速な配送、食材・食品の透明性担保のためのソフトウェア開発のために投資を受けて資金を集めている。

2023年には、アムステルダム市内南東に位置するディーメンに約1700平米の「フードレスキューセンター」を新設して、配送センターとオフィスをこの場所に移転。この拠点の新設に伴い、2022年に比べて約2倍もの食材をレスキューすることに成功した。

2023年アムステルダム市内南東に位置するDiemenにオープンしたフードレスキューセンター(InstockMarketのYoutube動画より)

こうして彼らは「廃棄食材」の問題に真正面から向き合い、その効果を最大化。オランダ国内で新しい流通の仕組みを生み出そうとしている。

アムステルダム市のホテルや学校との協業

また2024年にInstockは、アムステルダム市と、市内でグリーンなホテルの運営に取り組むGreen Hotel Club、食料廃棄撲滅のために活動するSamen Tegen Voedselverspillingとともに、市内ホテルでの食料廃棄を目指すキャンペーン「No Waste Challenge 020」にナレッジパートナーとして参画。食料廃棄の現状把握と行動計画策定・進捗のモニタリングをサポートしている。

その他、学校と連携して子どもへの循環型の食育プログラムを行ったり、フードレスキューセンター内にある「インスピレーション・ルーム」にて様々な企業向けワークショップを行ったりもしている。

2024年7月、誕生から10周年を迎えたInstockは、自社のフード・レスキュー・センターのすぐ近くにある自然のなかのブリュワリー、ハウス・オブ・バードにてパーティを行った(InstockMarketのYoutube動画より)

2024年7月、Instockは開業から10年の節目を迎えた。現在InstockMarketは200社以上のサプライヤーと提携し、600人のシェフに商品を提供している。この取り組みを通して、これまで470万キログラムのCO2を削減し、環境に対してポジティブなインパクトをもたらしてきた。

2024年にはBコープ認証も取得。さらにはオランダのみならず一部ベルギーでの事業も開始している。今後は様々な組織・機関との連携を強化しながら、さらなる量の食材をレスキューし、食料廃棄撲滅に取り組んでいくだろう。

【参照サイト】InstockMarket
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Edited by Megumi

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