6,200万トン──これは、2022年に世界で発生した電子廃棄物(E-waste)の量であり、そのうち正式に回収・リサイクルされたのはわずか22.3パーセント(※1)。さらに、2030年までにこの廃棄量は8,200万トンに増加すると予測されている。
電子廃棄物は、ただ資源を無駄にするだけでなく、処理を怠れば長期的な環境負荷や健康被害をもたらしかねない。それでもこうして増え続ける数字は、大量生産・廃棄を前提とした仕組みが簡単には変化しない現状を物語っている。
一般的な電子廃棄物には、コンピューターやスマートフォン、家電製品といった、私たちの生活に馴染みのある製品が多く含まれている(※2)。つまり電子廃棄物を減らすためには、消費者向け商品のデザインと、それが故障した際の消費者の行動、その両方がカギを握ることとなる。
ここに着目して誕生したのが、リペア可能な電気ケトル「Osiris」だ。ドライバーを使って底面のネジ2本を外せば、アルミニウム製のベース部分を解体することができる。内部の交換が必要な電子機器はオレンジ色のケースに収められており、ユーザーはそれを丸ごと取り出して、交換部品と入れ替えるだけでケトルを修理することができるという。
これは、イギリスのデ・モントフォート大学を2024年に卒業したGabriel Kay氏が、在学中に開発したもの。商品名は、古代エジプト神話において死と復活の神とされる「オシリス」にちなんで付けられた。
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このアイデアの実用化において要となるのは、製造者による取り替え部分の継続的な提供と、消費者によるその部品の利用。Gabriel氏はそのアクションを促進するために交換パーツをすべて一つのケースにまとめる工夫を凝らしており、ウェブマガジンSODAでこう語っている。
私は、(消費者が)怖がらず修理のプロセスを行えるようになるためには、複雑な電子部品を隠せば良いことに気づきました。そうすれば修理も、掃除機のダストバッグを取り外したり、リモコンの電池を交換したりするような、メンテナンスのような感覚になるんです。
さらにOsirisのデザイン過程を経て、Gabriel氏はリペアしやすい製品づくりのルールを見出していた。それが以下の6点だ。
- 最終工程はシンプルであるべき
- 最終工程は、限られた道具の使用で達成されるべき(家にあるもので修理可能)
- 最終工程は、可能な限り短時間であるべき
- 最終工程は直感的であるべき
- ユーザーは、電気部品そのものを見るべきでない(ユーザーの修理への恐怖心を防ぐため)
- ユーザが修理にアクセスすることに伴う、生産の追加コストをできる限り小さくするべき(企業が修理を採用する動機付けとなるように)
こうした学びが共有されることで、修理しやすいデザインのあり方は浸透していくだろう。欧州を中心に法整備が進む「修理する権利」は、間違いなくその追い風となる。より多くの企業がその権利を保障し、Gabriel氏が提案するようなルールを取り入れることができれば、素人では修理が難しそうな電化製品も“電池を入れ替える”感覚で当たり前に直すことができる社会に近づくはずだ。
※1 Global e-Waste Monitor 2024: Electronic Waste Rising Five Times Faster than Documented E-waste Recycling|UNITAR
※2 Electronic waste (e-waste)|WHO
【参照サイト】UK student invents repairable kettle that anyone can fix|The Guardian
【参照サイト】Designing out e-waste one kettle at a time|SODA – Creative Online Design Magazine
【参照サイト】Osiris|James Dyson Award
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