代表チームのサッカーユニフォームが穴だらけ?太平洋の島国が作った「消えゆく公式ウェア」が示すこと

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マーシャル諸島共和国という国をご存じだろうか。5つの島と29のサンゴ礁で構成された島国で、約4万人が暮らしている(※1)。飛行機を使ってもグアムから3時間、ハワイから5時間、オーストラリアから7時間かかる太平洋に浮かぶ国だ。

太平洋の島国と聞くと、常夏の美しい楽園を思い浮かべる人も多いかもしれない。しかし、マーシャル諸島には2つの大きな課題が存在しているのだ。

1つ目は、気候変動により国が存亡の危機にあること。海面上昇の影響で、国が沈む可能性があるのだ。実際、このままのペースで気候変動が続き、海面が1メートル上昇すれば首都マジュロの建物の40%が失われる可能性がある。また街の96%はすでに洪水の危険にさらされており、住民は常に暴風雨の恐怖に怯えながら暮らしているという(※2)

もう1つは、国連加盟国193か国のうち、唯一サッカーの国際試合を実施したことがないこと。マーシャル諸島サッカー協会は2021年に設立されたばかりで、FIFAには未加盟だ。そのため、ワールドカップなどの国際大会にも参加できない。

そんな中、2030年までにFIFA加盟を目指す同国のサッカー協会は、クリエイティブな代表ユニフォームを発表した。マーシャル諸島が抱える2つの課題を知ってもらうために、「消えゆくユニフォーム」を開発したのだ。

No Home Jerseyと呼ばれるこのキャンペーンでは、多くのサッカーチームと同じように、SNSなどで新ユニフォームがお披露目された。注目したいのは、各プラットフォームで投稿を重ねるにつれて、ユニフォームの袖、腰回り、肩、背中などが少しずつなくなっていくことだ。

まるで少しずつ、穴が空いていくようにも見えるユニフォームだが、これはマーシャル諸島の現実を表している。多くの人に気づかれることなく、国はどんどん沈んでいるのだ。最終的に穴だらけになってしまったユニフォームの異常さを見逃す人はいない。

また中央には「1.5」の数字があしらわれている。この数字はCOP26で合意された「1.5度目標」を象徴しており、この目標が守られないとマーシャル諸島が消えてしまうことを表現している。また、ユニフォームにデザインされた豊かな動植物は同国を象徴するもの。このまま気候変動が進めば、そんな動植物もやがて消滅してしまうだろう。

国が沈んでしまえば、サッカーができる状況ではなくなってしまう。気候変動を理由に、すでに国外に避難してしまった人も少なくない。

マーシャル諸島の代表サッカーチームを作ることは、国民が競技を楽しみ、自国に誇りを持つためだけではないという。世界的人気のスポーツを利用して、マーシャル諸島の現実を知ってもらいたいのだ。

マーシャル諸島サッカー協会のマーケティング・ディレクターであるMatt Webb氏は公式動画内で以下のようにコメントしている。

海面上昇を遅らせることはできないが、(このユニフォームを通して)マーシャル諸島のストーリーを世界に伝えることで、私たちのチームの認識を上げることはできると考えています。

このユニフォームは2024年12月よりプレオーダーが開始されており、受注生産で販売予定だ。このユニフォームの話題性により、より多くの人が気候変動を自分ごととして捉え、マーシャル諸島の人々がサッカーを楽しめる日々が続くことを願いたい。

※1 マーシャル諸島共和国(Republic of the Marshall Islands)基礎データ
※2 Climate Change in the Marshall Islands

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【参照サイト】Official Site of The Marshall Islands Soccer Federation

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