2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻開始から、まもなく3年が経つ。
日本の大手メディアによる報道が減っている中で、現地で生きている人々の存在を想う機会は遠のいているかもしれない。
改めて、ウクライナで今を生きている人々に光を当てると、復興の道のりでジェンダーによる偏見を乗り越えて、地域の再建に取り組む団体と出会った。北部・チェルニヒウ地域で住宅のがれき清掃・修繕をおこなう非営利組織「Repair Together」によるプロジェクトだ。

Image via Repair Together
軍が同地域を退陣した2022年4月に設立され、当時、国内外からボランティアが集まってきた。しかし、本格的に“建築”となった途端に男性優位の環境になってしまったという。共同創設者のDaria Kosiakova氏は、同国のソリューションメディア・Rubrykaにこう語る。
「Repair Togetherでは、いつも男女ほぼ同数のボランティアが清掃に参加し、女性のほうが多いときもありました。しかし建築となると、プロの現場監督として雇った男性たちが場を支配するようになってしまいました。チームにプロの建設業者がおらず、そうせざるを得なかったのです。
彼らは女性に壁土で穴を埋める以外に何も教えようとしませんでした。何より『建設現場にいる女性は船に乗っている女性と同じ、必要ない』と発言したり、『女性はキッチンにいるものだ』とジョークを言ったりしていました」
そんな固定観念を覆そうと、同組織内のプロジェクトとして、女性のみの住宅建設チーム「Velyke Divnytstvo(The Great Women’s Build)」が立ち上げられた。これは決して男性を排除する意図はなく、人間が平等であることを示すものと位置付けているとのこと。

Image via Repair Together
実は、ウクライナでは1993年から2017年まで、女性が大工や船・列車・長距離バスの運転手、消防士、溶接工などの職に就くことは、健康に悪影響であるとして禁止されていた。その職種は450にも及んだという。この法令は差別に反対する国内の法令と矛盾し、2017年に撤廃されたのだ(※)。
建築の現場で、女性の参加に対して否定的な意見が上がったことには、こうした背景が強く影響していたのだろう。現在は、女性リーダーとの協働経験のある男性の現場監督がチームを率いており、建材が重すぎるときは分割したりロープを使って持ち上げたりとアイデアを持ち寄り解決しているそうだ。
まもなく4年目を迎える、Repair Togetherの活動。持続させていくにはボランティアの心身のケアも大切だ。DJによる音楽を盛大に響かせて踊りながら清掃したり、川に飛び込んで休憩したり、食事を共にしたりと、バーンアウトしにくい環境をつくっているという。
これまでに組織全体で4,000人以上のボランティアを動員し、2022年10月時点で160棟の家のがれきを片付け、20棟の家を修繕した。2025年1月には学校の解体・修繕も始まっている。
まだ、戦火は収まっていない。ただ、この最中にも、人々がジェンダーや肩書き、年齢の垣根を越えて協働し、まさにその手で市民の暮らしを立て直している。どちらの側面も心に留めながら、3年という節目に至っている現実と向き合いたい。
※ Ukraine’s Health Ministry opens up previously banned 450 professions for women|Euromaidan Press
【参照サイト】Repair Together
【参照サイト】All-women teams in Ukraine defy stereotypes and rebuild homes destroyed by war|Rubryka
【参照サイト】The All-Female Teams Rebuilding Homes in Ukraine|The Reasons to be Cheerful
【参照サイト】‘We take care of each other’: the young Ukrainians rebuilding more than just homes|The Guardian
【参照サイト】Repair Together: The volunteers rebuilding Ukraine’s war-damaged homes • FRANCE 24 English|FRANCE 24 English YouTube
【参照サイト】Ukraine’s Health Ministry opens up previously banned 450 professions for women|Euromaidan Press
【参照サイト】Euroviews. Women are saving Ukraine’s wartime economy
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