日本の気候変動、どうなる?気象庁が全国・都道府県別の最新予測を公表

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2100年には、桜が「咲かない」かもしれない──こんな未来を想像できるだろうか。

気候変動が起きていることを理解していても、数十年後の暮らしを想像することは難しい。そんな本音を抱えている人は、実は多いのではないだろうか。各地で気温上昇による「地球の不調」が見え隠れする中で、今一度、自身では気づきにくい足元の変化を理解し、その先に続く未来を知ることも重要だ。

その理解を助けてくれる報告書が、文部科学省・気象庁から発表された。2025年3月26日に公表された『日本の気候変動2025 ー大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書ー』だ。2020年の初公表から5年を経て、最新の調査結果と知見が盛り込まれた第二版が作成された。

報告書では、IPCC第5次評価報告書に倣い、工業化以前と比較した2度上昇シナリオと、4度上昇シナリオに基づいて日本の気候変動を予測(※1)。前者は、パリ協定の2度目標が遵守された世界、後者は、追加的な緩和策を取らなかった世界で生じ得る気候の状態に相当する。

主要トピックであった気温と降水に焦点を当てて、報告書の観測結果と将来予測を紐解いていきたい。

※1 ◯度シナリオとは、工業化以前と比較した地球の平均気温の上昇を◯度以内に抑えるための施策が行われた想定の社会を指す。その社会では最終的に◯度まで上昇してしまう可能性があるとされる

近年の猛暑・大雨は地球温暖化なしに起こり得なかった

気温の観測からは、新たに近年の猛暑と気候変動の関連性が示された。2018年7月や2023年7月の夏など、近年の猛暑事例のいくつかは地球温暖化による気温の底上げがなければ起こり得なかったことが明らかになったという(※2)

気温の将来予測においては、年平均気温が次のように予想されている。日本の数値は20世紀末と21世紀末を比較したもの、世界の数値はIPCCのデータ(※3)に従ったものだ。日本の平均気温は世界平均よりも高くなる可能性があることが分かる。

2度上昇シナリオ 4度上昇シナリオ
日本の年平均気温 約+1.4度 約+4.5度
世界の年平均気温 約+1.1度 約+3.7度

どちらのシナリオでも、日本では猛暑日や熱帯夜の日数が増え、冬日の日数は減ると予想されている。さらに、工業化前の気候で「100年に一度」と危惧される高温の日が、4度上昇シナリオではほぼ1年に1回発生するほど、頻度が高くなることも新たに公表された。その「高温」自体も約5.9度上昇するという。つまり、かつての猛暑日は“普通”の日になり、さらに暑い日々が頻繁に起こるかもしれないのだ。

21世紀末(2076~2095年の平均)における日本の年平均気温の変化の分布(単位:℃)。左は2度上昇シナリオ(RCP2.6)、右は4度上昇シナリオ(RCP8.5)での予測である。いずれも20世紀末(1980~1999年の平均)との差を示している|出典:文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2025」本編

暑さと同様、日本各地で被害をもたらしている大雨の悪化も懸念されている。報告書では、大雨の頻度や強度が増していることも地球温暖化の影響であることが明らかにされた。そして今後も、その傾向が続くと予想されている。工業化前の気候で「100年に一度」とされていたレベルの大雨の頻度が、2度上昇シナリオでは約2.8倍、4度上昇シナリオでは約5.3倍になるとの予測が公表されたのだ。

この他、雪や台風、海水温などの観測と予測も掲載されている。また、都道府県別の気候変動の観測結果・予測を掲載したリーフレットも公表された。世界で議論されている気候変動が、自分の暮らす地域にどう影響を与え、どのような未来が予想されるのか。一見の価値はあるはずだ。

気候変動を知る・伝えるデザインと機会創出を

こうした実情が国の機関から公表されていることは、国内で気候変動対策に取り組む人々の足並みを揃えるのに大きな役割を果たすだろう。しかしアクションを起こすには、まずこの情報が広く伝わる必要がある。気候変動について伝え議論を促す「気候コミュニケーション」が重要なのだ。

日本での具体例として、2024年冬に環境団体POW JAPANがアウトドアシューズブランド「KEEN」や、アウトドアブランド「パタゴニア」などと連携したキャンペーン「雪がなくなったら、全員負け」は広く反響を呼んだ。気候・エネルギー政策を議論するために、政策のことだけを伝えるのではなく、気候変動によるウィンタースポーツへの変化に着目した「好きな雪遊びができなくなるかもしれない」というメッセージが、多くの人の関心を集めたのだろう。

そして、伝える立場として大きな役割を果たすのがメディアだ。NHK民放6局が共同キャンペーン「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」を展開したり、国内の気象予報士・気象キャスター44名が「日常的な気象と気候変動を関連づけた発信」を目指す共同声明を出したりと、気候危機に対するメディアの姿勢にも変化が生まれている。

政府機関がデータを公開し、企業やメディアがその情報を人々の感情に届くメッセージやデザインに再編集して届ける。こうした連携が、気候変動という複雑な課題を社会全体で共有し、行動へつなげるために欠かせないのだ。

急激には変わらない気候。その中で「異常」に気づくために

報告書が示しているのは、気温の底上げに加えて、場所や季節によって1度を大幅に超える日が増え、極度の大雨も増えるということ。気候変動の議論で語られる「平均気温の上昇」は、あらゆる地域で、毎日の気温が、おしなべて1度上昇することを意味するわけではないのだ。

だからこそ、「異常な暑さ」「異常気象」という言葉に慣れてしまってはいけない。それは身近な地域で気候変動が現れている証拠かもしれないのだ。それを見落とさず、各々が属している業界や地域の文脈に織り交ぜて伝え直し、同時にアクションを起こすことが必要とされている。

※2 現実の条件と、地球温暖化が発生しなかった条件でシミュレーションを実施し、極端現象の発生頻度・強度に対する地球温暖化の影響を評価するイベント・アトリビューションという手法によるもの|気象庁・文科省(2025)『日本の気候変動2025 ー大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書ー』
※3 IPCCのSSPシナリオに基づく予測結果。2081~2100年の平均値を1986~2005年の平均値と比較したもの|IPCC, 2021: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to theSixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 2391 pp.

【参照サイト】「日本の気候変動2025」公表 温暖化対策へ報告書|気象庁・文科省
【参照サイト】NHK民放6局連動の環境スペシャル番組、国連のSNSムーブメントに参加|NHK
【参照サイト】100年後の桜開花予想 温暖化はお花見にも影響、東京でも桜が咲かなくなる?|ウェザーニュース
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