近年、SNSやインターネットには、膨大な情報と、ディープフェイクに代表される巧妙な加工技術があふれている。その中から、どれが事実でどれが虚偽かを即座に見極めるのは容易ではない。特にフェイクニュースは、人々の感情を巧みに刺激し、怒りや不安を煽ることで急速に拡散される。それは誤情報として広まるだけでなく、社会的な分断や信頼の喪失を招く危険性もあるのだ。
若年層は特に、日常的にオンライン情報に接している分、誤った情報にアクセスする機会も増えており、メディアリテラシー教育の重要性がますます高まっている(※1)。こうした背景の中で注目を集めているのが、オンラインゲーム・Bad Newsだ。Bad Newsでは、プレイヤーはあえてフェイクニュースの発信者となり、フォロワーをどれだけ獲得できるかを競う。
このゲームの仕組みは、現実の情報操作でよくみられる炎上、感情的な言葉、陰謀論などのテクニックを使って影響力を広げるというものだ。学生たちは情報を「作る側」に立つことで、人を動かしやすい言葉や、信頼を集めやすい表現を身をもって知ることができる。悪意ある情報操作の手法を疑似体験することで、プレイヤーは現実の情報に対する「認知的抵抗力(cognitive resistance)」を養うことができるのだ(※2)。
Bad Newsはゲーム形式のため学習のハードルが低いだけでなく、実際に情報の信頼性を読み解く判断力を育てる効果が確認されている。2024年に発表された研究では、Bad Newsを実際に使った学生たちは、ゲームの後にフェイクニュースの識別スコアが向上したことが報告された(※3)。
現在このゲームは英語やスペイン語などに対応しており、日本語には非対応だ。日本語版が登場すれば、日本の教育現場でも活用が期待される。たとえば高校の情報科やメディアリテラシーの授業で、理論では伝えにくい「フェイクニュースの誘惑」を体感的に学ぶツールとして導入すれば、学習効果はさらに高まるだろう。
私たちは日々、膨大な情報の中から「何を信じるか」を選び取っている。あなたが次に目にするニュースは、本当に信じるに値するものだろうか。フェイクニュースを「作る」立場から、それを批判的に考えてみるのもいいかもしれない。
※1 Tackling online disinformation Shaping Europe’s digital future European Commision
※2 ※3 Bad News in the civics classroom: How serious gameplay fosters teenagers’ ability to discern misinformation techniques Journal of Research on Technology in Education Taylor & Francis Online
【参照サイト】Bad News
【参照サイト】Computer game may help students better spot disinformation, new study shows
【参照サイト】Bad News in the civics classroom: How serious gameplay fosters teenagers’ ability to discern misinformation techniques
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Edited by Megumi