カナダで始まった市民出資の形「コミュニティ・ボンド」。まちの重要拠点を、みんなで“買い支える”

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【特集】幸せなお金のありかたって、なんだろう?今こそ問い直す、暮らしと社会の前提

お金は、ただの紙切れでも数字でもない。生き方や価値観、人間関係、社会制度にまで影響を及ぼす「見えざる力」だ。便利で、時に残酷で、そして人間的なこの仕組みは、いつから私たちの当たり前になったのだろう。自己責任が求められる働き方、そして「お金がない」ことを理由に後回しにされる福祉や環境対策──議論は世界中で交わされているが、日々の暮らしの中でお金の本質を見つめ直す機会は少ない。だからこそ今、問いたい。「お金」とは何か、そして私たちはそれとどう向き合っていけるのか。本特集では、経済だけでなく、文化人類学や哲学、コミュニティの現場など多様な視点からお金の姿を捉え直す。価値の物差しを少し傾けてみた先に、より自由でしなやかな世界が見えてくることを願って。

お金は、ものやサービスを得るために私たちの生活に欠かせないものだ。その使い道は、個人の暮らしだけでなく、社会や経済全体に影響を及ぼす。だからこそ、「良いお金の使い方」とは何かを考えることは、より良い社会のあり方を考えることでもある。

その一つが、「コミュニティ・ボンド」という革新的な資金調達の仕組み。地域住民が自らの資金を、地元の社会インフラや公益的なプロジェクトに“投資”という形で提供できる仕組みだ。一定額を債券として投資すると、毎年または満期時に利息を受け取ることができる。つまり、支援と収益を両立できる、いわば「社会的投資」の一種である。

これを実践したのが、カナダ・トロントに拠点を置く「センター・フォー・ソーシャル・イノベーション(CSI)」だ。CSIは、社会や環境の課題解決に取り組むスタートアップやNPO、個人を支援してきた。

CSIは2004年に設立されて以来、順調に成長を続けていたが、ニーズの拡大に伴い、新たな拠点の取得が必要になった。しかし、建物の購入と改修には680万ドルという巨額の資金が必要であり、通常の銀行ローンや市の融資保証だけではまかないきれなかった。

そこでCSIはコミュニティ・ボンドの仕組みを利用し、必要な資金を地域住民から調達することに成功。結果として、安定した運営基盤を確保し、より多くのソーシャルイノベーターたちの活動を支えることができた。

コミュニティ・ボンドの仕組みの大きな特徴は、借り手が債券の価格や金利、期間などの条件を柔軟に設定できる点にある。助成金にありがちな複雑な手続きや、従来の金融機関が求める厳しい基準に縛られることもない。そのため、より迅速かつ柔軟に、社会的価値のあるプロジェクトを前進させることができるのだ。

私たちが銀行に預けたお金が、どのように使われているのか分からない。そんな不透明さに違和感を覚えたことはないだろうか。もし、自分のお金の行き先を選べるとしたら。しかもそれが、地域や社会をよくするために使われるとしたら。それは一つの希望になるだろう。

コミュニティ・ボンドは、まさにそんな「意思あるお金の使い方」を可能にする手段だ。それは、選挙の投票のように、自分の意志を社会に反映させる行為とも言える。お金をただ消費するのではなく、未来への「投票」として活用する。この視点を持つことが、持続可能な社会への一歩になるかもしれない。

【参照サイト】FUTURE OF GOOD
【参照サイト】CommunityBonds.ca
【参照サイト】rabble.ca
【参照サイト】The CSI Community Bond
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Edited by Megumi

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