現代の学校教育において、スマートフォンは「厄介な存在」だろう。無限の情報へのアクセスを可能にする学習ツールになりうる一方で、SNSへの依存や集中力の欠如、誹謗中傷の温床にもなっているのが現状だ。
世界中で「学校でのスマホ利用」に関する議論が白熱するなか、米国では、フロリダ州が2023年に小中学校でのスマホ利用に制限または禁止を要請して以来、その波が広がり、2025年9月時点で35州が学校でのスマホ利用を制限している(※1)。
では、実際にスマホの使用を制限または禁止したことで、本当にポジティブな変化が生まれているのだろうか──その答えは、ケンタッキー州の学校が見せてくれる。図書室に来る生徒たちが大幅に増え、紙の本を手に取り始めたのだ。
ケンタッキー州の議会は2025年3月、例外を除き、少なくとも授業中の生徒の携帯電話の使用禁止方針の導入を各教育委員会に義務付ける法案を可決(※2)。つまり、授業中の使用は一律禁止され、授業以外の時間の利用は学校に委ねられた。
その結果、同州の各学校で図書室の利用が増加。バラード高校では、始業から終業まで携帯電話の使用を禁止したところ、全校生徒2,189人に対し、2024年8月には貸出が533冊だったのが、2025年8月には891冊となり、67%も増加(※3)。オールダム郡高校では、以前からスマホ利用を制限してきたが今年度からスマホをしまう場所(The Phone Home)を用意したところ、貸出冊数が昨年の3倍になった(※4)。
同じ現象は同州のプレジャーリッジパーク高校や、ジェファーソン郡の公立学校(JCPS)全体でも起き、図書室の利用率や本の貸出数が大きく伸びている(※5, 6)。
オールダム郡立高校の司書デニス・オブライエン氏は、Spectrum News 1の取材に対しこう語った。
ここに来て話をする子は100人から120人くらいだと思います。(中略)彼らは会話をし、互いに交流しています。こうした個人的なスキルが戻ってきているのです。5年前だったら、きっと静かだったでしょう。子どもたちは顔を合わせることもなく、ただ携帯電話を見つめているだけでしたから。
また、同校で図書室補助をしている学生のイジー・リッチーさんは「他の生徒たちとのコミュニケーションが以前よりずっと増え、先生たちとの会話も増えました。前よりも良いコミュニティになったと思います」
と、Spectrum News 1の取材に答えた。
読書以外にも、生徒たちは“かつて当たり前だった”休み時間の過ごし方を取り戻している。友人とトランプに興じたり、ただおしゃべりをしたり、外に出て休息をとったりしているのだ(※7)。
スクリーンタイムの削減がメンタルヘルスに良い影響を与えることは、近年の多くの研究で示唆されている。今回の「図書室への回帰」は、それが机上の空論ではなく、環境が整えばすぐに実行可能な現実であることを示しているのではないだろうか。
米国の学校で広がるこの変化は、デジタル社会に消費され疲弊する大人に対しても、スマホを置いて本を開くこと、そして目の前の誰かと語り合うことの豊かさを問いかける。高度なテクノロジーと共に生きる私たちは、こうしてデジタルと目前の世界の間を揺れ動きながら、テクノロジーとの「ちょうど良い」距離感を意識的に見出していくことが欠かせないのだ。
※1, 6 Students Turn Back to Books as More School Districts Implement Phone Bans|Newsweek
※2 Student Mobile Phone Ban Takes Effect in Kentucky|Government Technology
※3, 7 高校でスマホを禁止したら、「図書館の本の貸出冊数」が67%も増えた!|クーリエ・ジャポン
※4 Kentucky students see positive change from cellphone ban in classrooms|Spectrum News 1
※5 Phone-free: JCPS sees surge in students checking out library books|Spectrum News 1
【参照サイト】After schools banned phones, students checked out more library books: ‘We’re reclaiming attention’|GoodGoodGood
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