※本記事は、「BETTER FOOD(ベターフード) VOL.4 コーヒーの未来を探して」に掲載された、アカアマコーヒージャパン代表・山下夏沙氏による記事をもとに、IDEAS FOR GOOD向けに一部編集したものです。
アカアマコーヒーは、2010年にタイのチェンマイで創業したコーヒーショップである。森林農法によるコーヒー栽培から、精製、焙煎、カフェでの提供まで全てを一貫して行っている。
アカアマコーヒーを立ち上げたリー・アユ・チュエパは、タイ北部のメージャンタイというアカ族の小さな村で生まれた。アカ族は元々、中国南部に住んでいた民族であったが、難民としてタイに逃れてきた歴史がある。
当時は国籍もなく、村には電気も通っていなかった。経済的な理由で学校に行く子どもはほとんどいなかったが、リーのお母さんは「息子の将来を変えたい」と強い思いで必死に学校に通わせ、その結果、村で初めて大学を卒業した。

Photo by Akha Ama Coffee Japan
お母さんはコーヒー栽培で手にしたお金でリーを学校に通わせてくれたが、当時のコーヒー栽培は、品質や栽培方法は無視され、仲買人に安く買われるものだった。
リーの昔の夢は、難民支援に携わるソーシャルワーカーになることであったが、次第に「本当に支援が必要なのは自分の村だ」と気づく。
村で家族が栽培しているコーヒーを正当に価値あるものとして流通させる仕組みを作り、村の問題を根本から変える仕組みを作ろうと、24歳の時にリーは妻のジェニーと共にアカアマコーヒーを立ち上げた。
そうして仲介業者を介さず、家族が育てたコーヒーを自分たちのカフェで提供することで、利益を最大限に村へ還元できる仕組みを実現したのだ。

Photo by Akha Ama Coffee Japan
国境を越えた一杯。村の物語が東京へ届くまで
アカアマコーヒーは2025年現在、チェンマイに3店舗、日本に2店舗を構え、タイと日本で焙煎を行っている。
「アカアマ」という名前は、現地の言葉で「アカ族のお母さん」という意味がある。チェンマイ旧市街から少し離れた住宅街にある一号店には、リーの母がコーヒーを摘む姿や、リーが母とともにコーヒーを育てる写真が飾られている。

Photo by 相馬ミナ
私たち夫婦がアカアマコーヒーと出会ったのは2013年、旅先のチェンマイで訪れたアカアマコーヒーの一号店だった。そこで飲んだ一杯に私たちは衝撃を受け、翌年に「地球を旅するCAFE」を東京・高田馬場にオープン。アカアマコーヒーから仕入れた豆を提供し、日本でもその魅力を伝え始めた。
その後、アカアマコーヒーのオーナーであるリー・ジェニー夫妻と私たちは、一緒にアカアマコーヒージャパンを立ち上げることを決意した。村ではコーヒー栽培が盛んになり、若い世代も参画し盛り上がっている中、チェンマイの3店舗だけでなく、東京でもこのビジネスモデルを伝え、村で作るコーヒー豆をもっと販売していこうと、東京での開業を決めたのである。

Photo by 相馬ミナ
そうして2020年にオープンしたのが、東京・神楽坂のアカアマコーヒージャパン一号店である。その後、2024年には早稲田に焙煎機を構えたロースタリーカフェもオープンした。

Photo by Akha Ama Coffee Japan
森を壊さず、森の中で育てる。もうひとつのコーヒーのかたち
アカアマコーヒーの農園は、タイ北部の標高1,300メートルほどの山岳地帯にある。私たちの農園は一見すると、ただの森のようにも見える。コーヒーの木を一列にずらりと並べて植えてあるコーヒープランテーションを想像するとびっくりするかもしれない。ここでは、森の中でコーヒーを育てる「森林農法」を実践しているのだ。
森林農法は、コーヒーだけを栽培するのでなく、様々なフルーツやナッツといった樹木の間にコーヒーの木を植えていく。シェードツリーが光をやわらかく散らすことで、コーヒーチェリーはゆっくりと成熟することができ、甘さと酸のバランスを整えてくれるのだ。

Photo by 相馬ミナ

Photo by 相馬ミナ
私たちの農園には、アボカド、桃、あんず、みかん、そして季節ごとの野菜やハーブがコーヒーと共に育っている。野菜やハーブは日々の料理に使われ、蜂蜜は貴重な収入源に。同時に、鳥や蜂たちが害虫の繁殖を抑え、落ち葉は腐植土となって土壌の栄養となる。
コーヒーだけに依存しないことは、長期的に見れば大きな強みである。アカアマコーヒーにとっての森林農法とは、コーヒーの品質を高めるための技術であると同時に、森と村の暮らしを長期的に成立させるための現実的な選択でもあるのだ。

Photo by 相馬ミナ
支援ではなく循環を。自立する村のビジネスモデル
リーは森林農法のことを「自然を尊重し、多様性を活かしながら、高品質な作物を育てる農法」と説明する。

Photo by 相馬ミナ
森を切り開くのではなく、木々の隙間にコーヒーの木を植えていく。効率の良さやコストパフォーマンスを上げることよりも、持続可能な生活と環境を守ること。そして、長い未来を見据えた農業を可能にしていくことが「森林農法」であり、農薬を使用しないコーヒー栽培だということを、家族や村の農家さんたちと共有し合いながら、丁寧にコーヒーを栽培し続けている。
また、大量生産のプランテーションでは農薬や化学肥料が必要になるが、アカアマコーヒーでは農薬不使用を徹底している。農薬や化学肥料を使わないことで、土壌は豊かなまま守られ、地下水に化学物質が混ざらないということは、村人たちが日常的に使う水の安全を守ることにも繋がるからだ。

Photo by 三浦咲恵
この取り組みは、単に環境負荷を抑えるための方法ではなく、農家さんたち自身の何十年先の未来の暮らしを守るための仕組みである。
リーはこの状態こそが「自立した村の形」だと考えている。外部支援に頼らず、村が自分たちの力で良い循環を生み出すこと。そのためのビジネスモデルを築くこと。それこそが、アカアマコーヒーの目指す姿なのだ。

Photo by 相馬ミナ
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食分野におけるサステナビリティの先行事例を紹介する不定期刊行誌〈ベターフード〉第4号の特集は、私たちの日常に欠かせない「コーヒー」。しかし2050年問題とも言われるように、気候変動の影響によって、2050年までにコーヒーの栽培適地が大きく減少する可能性が指摘されています。このまま気候変動が進めば、あと数十年後には今のようにコーヒーを楽しむことができなくなる未来が訪れるかもしれません。コーヒー産業が直面する問題に立ち向かい、より良いコーヒーの未来を創ろうとする人々に取材を行いました。






