旅程も行き先も秘密。地元民しか知らないルートを巡る「ミステリー旅」で、オーバーツーリズム解消へ

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フェロー諸島は、アイスランドとノルウェーの間に浮かぶデンマーク自治領の小さな群島だ。人口約5万5千人のこの土地は、手つかずで孤高の美しさを持つ自然求める旅行者に、長く愛されてきた(※1)

しかし近年、SNSで話題となったムラフォスル滝やミキネス島などの“インスタ映え”スポットに観光客が集中。静寂を保っていた土地に負荷がかかり始めている。過去には観光そのものを一時的に制限するという異例の対応もとられたほど、オーバーツーリズムが深刻化しているのだ(※2)

この問題に対してフェロー諸島が打ち出したのが、レンタカーを使った「ミステリー・ロード・トリップ」だ。名前のとおり、出発時に目的地は知らされず、旅行者はどこへ辿り着くか分からない旅に出ることになる。ルールは一つ。観光ガイドブックにとらわれず、ルートを完走することだ。

参加方法も簡単。まず、地元のレンタカー会社「62N」でレンタカーを予約する。その際に、Visit Faroe Islandsが提供する「Auto Odyssey: Self-Navigating Car Adventures(オート・オデッセイ:自己ナビ型ロードトリップ)」と呼ばれるプログラムをナビに追加。そこで提供されるQRコードを読み込めば、SNSには載っていない、地元住民が厳選した観光ルートが一区間ごとに旅行者のスマートフォンに送られてくるのだ。

旅程には、芝屋根の木造教会、ドラマチックなフィヨルド、屋外プールのある人里離れた村、ピクニックにも最適な観光スポットなどが含まれ、各所要時間は3〜6時間程度。他の参加者と同じルートが同時に割り当てられない仕組みとなっており、訪問地をほとんど独り占めできるのも魅力の一つだ。2025年8月現在、30の旅程が用意されている。

運営チームが設計した旅の核心には、自発性に身を委ねてコントロールを手放す「Surrender-Seeking(身を委ねる旅)」という哲学がある。SNSで注目される場所に行くことだけが、旅の本質ではない。計画や思い込みを手放し、偶然に身を委ねるからこそ、見過ごしていた風景や気づきに出会える。そんな柔軟さを、このプログラムはサプライズとして旅人に届けているのだ。

オーバーツーリズムに悩む地域は世界中にある。そんな中、フェロー諸島の試みは、これからの観光のあり方にヒントを与えてくれるかもしれない。次の旅では、“すべてを自分で決めない旅”に出てみてはどうだろう。予測できないからこそ、心に残る体験ができるはずだ。

※1 faroe islands.fo 
※2 These Tourist-Loved Islands Are Closing for Three Days to Fight Overtourism

【参照サイト】SELF-NAVIGATING CARS
【参照サイト】Faroe Islands tackle overtourism with mystery road trips
【参照サイト】This Popular Island Introduced a GPS That Won’t Tell You Where You’re Going 
【関連記事】住んでよし、訪れてよし。地域にも観光客にもGOODなオーバーツーリズム対策とは?国内事例4選

Edited by Motomi Souma

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