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オーバーツーリズムとは・意味

オーバーツーリズム

オーバーツーリズムとは?

オーバーツーリズム(Overtourism)とは日本語で「観光公害」と言われ、特定の観光地において訪問客が増加することによって、地元住民の生活や自然環境、そして観光客自身にも悪影響を及ぼす状況のことを指す。この言葉は、2016年に米国の観光産業ニュースメディア「スキフト(Skift)」社が作ったものだと言われている。

世界各地で起こっているオーバーツーリズムの問題は、具体的にあげると以下のとおりだ。

  • 交通機関やトイレ等の公共機関・施設の混雑
  • ごみのポイ捨て等による自然環境の破壊
  • 観光施設の建設等による街の景観の悪化
  • 違法民泊の増加等などトラブル・犯罪の増加
  • お金をあまり使わない観光客で混雑することによる、地元観光業の経済的損失
  • 居住地域が観光名所となることによる住環境被害、他の地域へ転居に追い込まれる現象
  • オーバーツーリズムが原因で観光客の満足度が低下し、観光客が減少

本来であれば観光とは、観光客にリフレッシュや新しい発見の場を、観光地には地域経済活性化の機会をもたらすものだ。しかし、観光に伴う便利さの追求や、現地への配慮などが欠如していると、双方に負の影響を与えるものとなってしまうのである。

オーバーツーリズムの原因

オーバーツーリズムの問題は複雑であり、原因を一つに特定することは困難であるが、現状で主な要因ととらえられているものをあげると以下のとおりだ。

  • 急速な都市化や、観光地としての成長
  • リーズナブルな交通手段や宿泊の選択肢の増加
  • 新興国を中心とした中間層の拡大
  • インフルエンサーや、テレビドラマの影響

オーバーツーリズムの問題を語る際、観光客側に問題があると捉えられがちだが、決してそうとは限らない。現地の利害関係者をすべて含めて何が観光によって引き起こされている問題なのかを明確化し、多方向からの解決策を探る必要があるだろう。

オーバーツーリズムの事例

コロナ禍で一時的に観光客は減少したものの、コロナ禍以前からオーバーツーリズムの問題に直面する観光地は世界中に存在している。その一例をいくつかあげると以下のとおりだ。

オランダ

人口約85万人のオランダの首都アムステルダムでは、2010年に運河地区が世界遺産に登録されたことなども後押しし、近年観光客が増加している。2017年には約1,800万人であった観光客は2030年には最大で約4,200万人にまで到達すると予想されており、オーバーツーリズムの問題が懸念されている。

実際に観光客が増加するにつれて、従来からある店舗が淘汰され観光客向けの施設が増えたことや観光客による迷惑行為、非合法な宿泊施設の増加などがすでに問題として認識されている。

これに対しアムステルダム市は、観光スポットとして有名な「I amsterdam」のモニュメントを市内の別の場所に移動する、市内中心における観光客向け店舗の新規開業を禁じるなどの策を講じ、問題の解決を図っている。

イタリア

世界でも有数の観光名所を持つイタリアの「水の都」と呼ばれるベネチアでは、何十年もの間オーバーツーリズムが問題となっている。

高い人気と知名度を誇るベネチアを訪れる観光客は年間2,500万人にもおよび、巨大な観光船が街の景観を損ねている、クルーズ船が引き起こす波が街の地盤を傷めているなど、長い間地域住民から不満の声が上がっていた。家賃高騰と公共サービスの低下によって地元を離れる住民が絶えず、過去70年間でベネチア本島の人口は70%減少するなど問題が深刻化している。

市は人の出入りをコントロールするために、宿泊を伴わない日帰り観光客に対して「入域料」を課す、規定以上の大型船の地域への航行を禁止するなどしてオーバーツーリズムへの対策を図っている。

日本

日本でも、海外からの観光客の人気が高い京都でオーバーツーリズムの問題が顕著となっている。

観光客の増加によって街が混雑し、美しい京都の街の景観が損なわれたり、観光客の満足度や再来訪意向の低下に繋がることが懸念されているのだ。また、周辺住民の生活に影響を与えて観光客に対する受入意欲の低下を招いたり、特定の時期に観光客が集中することで観光産業での人の雇用が不安定になったりという課題もある。

この状況に対し、京都市観光協会では「オーバーツーリズム対策事業」が立ち上げられ、特定の時期や時間帯、エリアなどへの観光客の集中を緩和する取り組みが行われている。具体的には、AI(人工知能)を活用して観光快適度を予測した情報発信をオフィシャルサイト上で行ったり、マナー啓発のリーフレットを配布したりといった活動を行っている。

住民の反対運動とサステナブル観光を推進する団体の発祥

2018年4月、イタリアのベネチアでオーバーツーリズムによる地元住民の怒りが爆発、大規模なデモ行進に発展した。

端を発したのは、政府が観光客の流れをコントロールするために街の要所要所に設置した「改札」だ。これにより日々の生活に不便を強いられた住民4,000人余りが、「March for the Dignity of Venice(ベネチアの尊厳のための行進)」と銘打つデモ行進を実施した。その後も「生きているベネチア運動」として、観光を抑制する活動が続いている。

同様の地元住民による抗議活動は、スペインのバルセロナ市やマヨルカ島などでも行われ、南ヨーロッパ各地に社会的ムーブメントとして広がった。この動きが後押しとなり「サステナブルな観光のための近隣国同盟」が設立され、現在も25の加盟都市でロビー活動や問題解決のための集会を開いている。

政府によるオーバーツーリズム対策の事例

フランス

80%の観光客が国の20%のエリアに集中するフランスは、2023年6月、観光大臣が特定エリアの観光客を分散するための対策を発表した。

フランス政府のオーバーツーリズム対応手順4項目

  1. データの収集:観光客に人気のある地域のデータを収集する監視機関を設置
  2. 正確な定義づけ:「オーバーツーリズム」や「ピークシーズンの訪問者数」といった表現の定義づけのため、2023年末までに観光産業従事者によるグループを創設
  3. コミュニケーション:インフルエンサーと協力し、観光客が国内に点在する観光地に満遍なく分散するよう人々の認識を高める
  4. デジタル・プラットフォームの設立:観光産業で働く人々を助けるべく、2024年前半に1の監視機関が収集したデータを利用したデジタル・プラットフォームを開発

日本

観光庁は、2018年に「持続可能な観光推進本部」を設置するとともに、住宅宿泊事業法(民泊新法)の整備や観光地における観光快適度(混雑)の「見える化」のための実証事業等を実施している。また、2020年に国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所とともに開発・公表した「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を活用し、持続可能な観光の普及・啓発を図っている。

観光分野におけるデジタル実装を推進

  • 旅行者の利便性向上、周遊促進:デジタルサイネージによるリアルタイム性の高い情報発信や、観光アプリを活用した混雑回避による消費拡大
  • 観光地経営の高度化:旅行者のキャッシュレス決済データを用いたマーケティングによる再来訪促進、消費拡大、データマネジメントプラットフォームの構築でマーケティングの強化
  • 観光産業の生産性向上:顧客予約視システムによる情報管理や人員配置の高度化、非接触チェックインシステム
  • 観光デジタル人材の育成・活用:観光地域づくり法人を中核にデジタル人材を登用・育成、デジタル人材が観光地域のデータ活用を主導

まとめ

オーバーツーリズムの問題は世界各地で発生しているが、それぞれのエリアにおいて抱える問題や効果的な対策は異なる。

まずはその街が本来抱えている問題と観光によって生み出される問題を洗い出し、観光客だけに行動を変えることを強いるのではなく、観光行政や民間部門、地域住民などを巻き込んで多面的に解決を図っていくことが必要だ。

観光業の発展は、インバウンド需要の増加や雇用の創出に繋がり地域経済の活性化のために重要な役割を果たす。安易に観光客を「減らす」のではなく、招き入れる時期を分散させたりマナー啓発活動を行ったりと、訪れる側と受け入れる側の双方にメリットがある施策を行っていくべきだろう。

【参照サイト】国連世界観光機関 (UNWTO) – 「オーバーツーリズム(観光過剰)」?都市観光の予測を超える成長に対する認識と対応
【参照サイト】国立国会図書館 調査及び立法考査局 – オーバーツーリズム―欧州諸国の事例と日本への示唆―
【参照サイト】JTB総合研究所 – オーバーツーリズムとは
【参照サイト】TimeOut – You now have to pre-book entry tickets before visiting Venice
【参照サイト】国土交通省観光庁 – 観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
【参照サイト】フランス政府  – Une stratégie nationale pour gérer les flux touristiques(観光客の流れを管理するための国家戦略)
【関連サイト】サステナブルな旅のメディアLivhub




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