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台風や洪水、熱波……気候変動の影響で自然災害がますます増える今、気候変動を和らげる「緩和策」だけではなく、そうした環境に対応する「適応策」も必要になってくる。しかし、効率性を重視して設計された都市では、必ずしもそうしたリスク回避の方法が準備されているとは限らない。私たちは、そうした都市設計を含めた暮らしのあり方を、どのように再考できるのだろうか。
筆者が取材で訪問した沖縄県今帰仁(なきじん)村の今泊(いまどまり)集落は、そのヒントを教えてくれる場所だった。今帰仁村は、沖縄本島の北部、本部半島の一部を占める小さな村だ。この村には、世界遺産でもある今帰仁城跡、そして城の麓に作られた昔ながらの集落景観が残されており、集落の全域は2019年に国の重要文化的景観にも指定された。
そんな今泊集落を特徴づけているのが、個々の住宅を囲むように植えられたフクギ(福木)並木だ。もともと温暖な地域に自生するフクギは、幹や根が強く肉厚な葉を一年中つける高木で、自然災害の多い沖縄では防風・防潮・防火林として古くから用いられてきた。
琉球王朝時代には、このフクギと地形の特徴を合わせて農地や住宅を守る「抱護(ほうご)」と呼ばれる村づくりの手法が確立された。海に近く、北風や波などの被害を受けやすい今泊集落でも、フクギが住宅を囲む「屋敷抱護」、集落全体を囲む「村抱護」、浜の手前に敷かれた「浜抱護」の3つが村の設計に組み込まれ、その一部が現在に受け継がれている。
実際に集落を歩いてみると、道の両脇に隙間なく植えられ、青々とした葉を茂らせたフクギはまさに壁のよう。訪れた日は髪が乱れるほど強い風が吹いていましたが、ひとたびフクギの内側に入ると、海からの風が不思議なほどすっと止み、防風林としてのフクギの力を体感することができた。
集落を案内してくださった地元の方によれば、フクギは9メートル近くまで成長することもあり、かつては上まで登って津波の難を逃れた人もいたとか。根が地中深くまで垂直に伸びるため、簡単には倒れないのだそうだ。夏にはトンネルのような木陰をつくり、暑さを和らげたり建物の寿命を延ばしたりするほか、葉の成分は染料に使われるなど、フクギの役割は多岐にわたるという。
今泊集落では、フクギの他にも、自然と共に暮らす知恵が随所に見られる。たとえば、家屋の壁や塀として日差しを和らげ風を通す伝統的な竹垣である「チニブ」や、海からの風を防ぐためにあえて湾曲させた道、台風の風の直進を防ぐため微妙に縦と横をズラして作られている十字路。こうした工夫の数々は、集落を取り巻く自然環境をうまく利用しながら生活を営んできた知恵の証だ。気候変動によって、今後さまざまな自然環境の変化に適応していかなければならない現代の私たちにも、多くの示唆を与えてくれる。
また、筆者が面白いと感じたのは、こうした知恵の数々が、中国から伝わった風水をルーツとしながらも、より機能的に考えられた「琉球風水」であるという点だ。
風水と聞くと、占いやスピリチュアルなものを想像するかもしれない。確かにそうした側面もあるが、そもそもの風水は、地理学や気候学、建築学といったさまざまな学問に基づく古代中国の民間思想であり、自然の摂理に沿った生活の知恵でもあった。
中国から伝わり沖縄の風土に合わせて発展した「琉球風水」も、そうした流れを受け継いだ非常に実用性の高いものだったという。このため、首里城の建設にも取り入れられるなど、琉球王国において欠かせないものとして重宝されていた。
科学やテクノロジーが発展した今、風水をはじめ、土地に根付く信仰や風習は、ともすると「昔の人が考えた、科学的ではないこと」として一蹴されがちではないかと思う。
しかし、そうした営みの中にこそ、当時の人たちが身体知として持っていた自然の摂理に対する深い洞察や、その土地の自然と共生していくために編み出された本質的な暮らしの知恵が詰まっているのではないだろうか。
効率を追求し画一的に発展してきた都市づくりを超え、それぞれの土地における最も合理的で持続可能な暮らし方を見つけていくために。先人たちの知恵や、時に信仰と呼ばれてきたものに今一度立ち戻るときが、来ているのかもしれない。
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