【SB2020Yokohamaレポ#2】課題先進国から防災大国へ。未来の防災・減災のためのアプローチとは?

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近年、社会課題に関連した17の目標からなる「持続可能な開発目標(SDGs)」に取り組む企業が増えてきた。いま、気候変動や海洋汚染が喫緊の課題であることから、環境負荷を減らすための取り組みは特にクローズアップされやすい。しかし、私たちの身近にはまだまだ数多くの課題がある。たとえば、自然災害に備えて被害を減らすための取り組みはどうだろうか。

2月19日、20日に横浜で開催されたサステナブルブランド国際会議のセッションの一つ、『持続可能な防災・減災システム-社会システムの構築を目指して』では、災害大国日本の防災に関する課題や、多様なアプローチの最新情報が紹介された。ここでは、セッションから得られた知見を共有する。

セッション登壇者
  • Facilitator:県立広島大学 大学院経営管理研究科 ビジネス・リーダーシップ専攻長 教授 江戸克栄
  • Panelist:ソーシャルグッド プロデューサー 石川淳哉氏
  • Panelist:中国新聞社 メディア開発室 兼 編集局経済部記者 山本洋子氏
  • Panelist:あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 商品企画部企画グループ 担当次長
    田村雅史氏
  • Panelist:富士通株式会社 地域社会ネットワークビジネス推進部 マネージャー 吉田千穂氏

防災の課題は「避難しない」こと

防災・減災のためには、早期避難が欠かせない。しかし、セッション全体で共有された問題は「人がいかに避難しないか」ということだった。実際、地震や津波、大雨などの災害が起こったときに、あなたは自分の家が危ないと思ったらすぐに判断して逃げられるだろうか。

たとえば、2014年に豪雨による土砂災害で多くの被害者を出した広島県では、被災をきっかけに土砂法や警戒避難ガイドラインの改正が行われてきた。宅地開発が山に沿ってされてきたことから土砂崩れがおきやすい環境にあり、何かあった場合はすぐに避難するような指示もされる。しかしながら、2018年の西日本豪雨のときに避難指示エリアであった広島市の避難率はたったの3.4%だったという。

この事例を共有した中国新聞社の山本洋子氏は、「人は、被害を受けそうな状況に立ったとき、正常化バイアス(=起こっていることを“ありえない”と考え、自分にとって正常の範囲内に置く心理)が働きます。さらに自分に都合の悪い情報は過小評価するので、これが逃げない習性につながります」と述べる。そして、災害のような不測の事態を「正しく怖がる」ことは難しいと付け加えた。

他にも、ソーシャルグッドプロデューサーの石川淳哉氏が、2018年の西日本豪雨で岡山県倉敷市真備(まび)町の住宅地が大規模に冠水した事例を共有している。以前から同じような被害があり、危険を知らせる洪水ハザードマップが予測した区域は、今回浸水した区域とほぼ同じであったのだが、それでも多くの人が逃げずに50人以上の犠牲者が出た。石川氏自身も、過去に河川の氾濫(多摩川)による被害を経験しており、被災者説明会に行ったところ、他の参加者の何人かは逃げるどころか、川のようすを見に行ったりもしていたという。

避難の障害はどこにあるのか

では、なぜ人は災害がおこったときに逃げないのだろうか。セッションでは、大きくわけて二種類の人がいると発表された。まず、逃げたいのに逃げられない人。足の悪い高齢者や障がい者と同居していたり、避難所に入れないペットを飼っていたりする。彼ら、または彼女らは環境を変えることが難しく、インフラが整っていない状況では、逃げたくても逃げられない。

次に、自主的に逃げないと判断している人。避難所に行く途中に被災するかもしれないし、避難所にたどり着いたって生活の安全が保障されるわけではない。一度避難所での生活を経験した人のなかには、「次に被災しても、もう避難所には行きたくない」と言う人もいるという。自宅付近でおきた災害においては絶対に避難が必要だが、場合によってはむしろ自宅にいたほうが安全、というのもまた正しい判断である。

また、富士通の吉田千穂氏は、自治体の避難勧告にかかわる課題も指摘。ネットが発達した現代においてもすべての人に避難勧告が届くよう、サイレンなど昔から行われてきた方法と組み合わせる必要があるのだが、十分な情報にもとづいた適切なタイミングでの勧告・指示が難しいという。自治体職員による情報収集には限界があるため、データ分析もままならないまま、住民に指示を出していいのか。そして、住民が安全に行動できるような言い方はできているか。悩むところは多いとのことだった。

山本氏も、自身の発表で「情報を伝えるだけでなく、早期避難のための多様なアプローチが必要」だと述べている。

防災・減災のための画期的なアプローチとは?

アプローチの一つとして、富士通はICTを活用した市町村防災の避難勧告支援システムを提供している。たとえば愛知県の防災ダッシュボード機能は、位置情報つきのリアルタイムな写真投稿や過去のデータから、地域特性を考慮して危険度が高まる地域や時間帯を早めに予測するものだ。これは自治体の情報収集を加速させると同時に、ネット環境をもたない住民への情報伝達も早める。

また同社は、津波被害軽減に向けて東京大学、東北大学、川崎市の三者と連携したこともある。たとえば川崎市では、人の行動をモデル化したバーチャルシミュレーションによって、情報活用の減災効果を検証したり、運河が多い川崎市内での津波の挙動を予測したりしている。シミュレーションでは、子供やお年寄りの逃げる速さも綿密に再現した。

住民にも、通行不可の道があることを伝えたうえで避難訓練を実施。何かの災害があったときは、避難者自身が通行不可地域をスマホアプリに投稿し、他の被災者へ避難の道筋を伝えるサポートを行う。発信による個人情報の漏えいが心配だが、匿名にするなどして対策していくという。

本セッションのなかでは、他にも石川氏を中心にさまざまな防災・減災に関する問いかけや、アプローチが提案された。特に印象に残ったものを書いていく。

  • 高齢者やペットと一緒に住んでいる「逃げられない人」の悩みを解消するシステムとは?
  • みんなと同じ情報が受けられない 相対的な貧困層への対策をするには?
  • 防災に関する若手リーダーの育成が急務
  • 自治体が、「この地域では住民の避難率を100%にする」等の高い目標を掲げる(=ムーンショット)
  • 防災に関心のある自治体の職員が、みんなが逃げるシステムができている自治体で研修を受ける
  • 逃げる場所は、地域指定の「避難所」である必要はない。より自宅に近い場所に避難場所をつくる設計をしたり、バスや商業施設で対応できたら良い
  • 災害時、避難した人を対象にした保険商品をつくる
  • 個人で災害に備えることはできるけれど、それを経済的に後押しするインフラがあるともっとよい
  • ボランティアや個人に頼るのではなく、長期的で経済にメリットのある防災を

現時点では、はっきりとした答えが出ない課題も多くあった。しかしこれを見て、自分や自分が住んでいる地域が被災したときに備えて何ができるのだろう?と考えられる人が少しでも増えることを願う。

編集後記

セッションの中で、災害に対するメディアの姿勢について考えさせられる場面もあった。筆者は一つ目の見出しで、広島市の避難率がたったの3.4%だと述べたが、石川氏はまさに、「メディアは、災害があったときに“避難率が低い!” ということを取り上げて問題にするけれど、大切なのは数字じゃない。逃げなかった方には、避難所までのアクセスがない人や、自宅にいる方が安全だと判断した人も含まれるんです。」と言う。

たしかに、災害があったらまず所定の避難所に行く、という想定にとらわれることはない。ただ、危ない状況かそうでないかを判断するための十分な情報伝達や、逃げたいと思った人が逃げられるようなインフラづくりには、引き続き取り組んでいく必要があるだろう。いずれ来る、と予測される南海トラフ地震や首都直下型地震がおこったとき、わたしたちは物事を正しく怖がることができているだろうか。いま一度考えてみたい。