世界情勢の変化に伴い、石油産業を取り巻く状況が変わりつつある。ヨーロッパ諸国および中国の経済成長に陰りが見え始めるにつれ原油価格が下落し、化石燃料が環境に与える悪影響が懸念されるようになり、石油よりも環境に優しいエネルギーを利用しようという動きが世界中で高まっている。
石油の需要が減れば、石油タンカーの需要も減るだろう。時代の流れとともに役目を終えた石油タンカーを、別のかたちで生まれ変わらせる方法はないかと考えた建築家のChris Collarisは、ペルシャ湾南部でタンカーを複合型エンターテインメント施設に再開発するプロジェクトTHE BLACK GOLDを提案した。
この施設にはイベントスペースや美術館、宿泊施設やスイミングプールまで収容され、大型タンカーの広大な空間を余すことなく活用できそうだ。多くの人を呼び込む活気ある場になりそうだが、THE BLACK GOLDは実は少し哀愁を漂わせる建造物でもある。もし今後石油のニーズが減ったり石油が枯渇したりして産業が衰退すれば、THE BLACK GOLD はペルシャ湾沿岸地域がかつて石油産業で栄えた時代を象徴する記念碑になるかもしれない。
アラブ諸国の建造物と聞くと、私たちは何を思い浮かべるだろうか。ブルジュ・ハリファに代表される天を貫くかのような超高層ビルの数々にラグジュアリーなホテルやショッピングモール。そういった煌びやかな建物は繁栄の象徴として持て囃されてきたが、一方で見せかけだけの行き過ぎた演出にすぎないという指摘もされてきた。また、その地域ならではの歴史や文化を反映した建物とも言い難い。
その点、このTHE BLACK GOLDこそがアラブ地域を代表する歴史的および文化的アイコンとなるのではないか。時代の変容とともに消えていくかもしれない石油タンカーを再利用して新たな風を呼び込む。その試みは、もしかしたら、今後石油国家がたどる道のりを示唆しているのかもしれない。
【参照サイト】THE BLACK GOLD
(※画像:THE BLACK GOLDより引用)