誰でも一度はデモや抗議活動を街中やテレビで目にしたことがあるだろう。しかし、私たちが目にするそれらの活動は氷山の一角で、世界では今この瞬間もいたるところで多くの市民が政権や体制に対して抗議の声をあげている。それらの声は、今、この時代を生きる人々が何を考え、何を感じながら生きているのか、その世相を最も色濃く映し出す鏡でもある。
そうした人々のデモや抗議活動の音声を記録し、彼らの主張を多くの人々が時代を超えてリアルに感じることができるよう、世界初となる「音の地図」が創り出された。
イギリスに拠点を置くデジタルコンサルタントでミュージシャンでもあるFowkes氏が主導する「Protest & Politics」は、世界中で今も起こり続けているあらゆるデモや抗議活動を、現場のリアルな音声とともにマッピングした地図プロジェクトだ。世界的な音声アーカイブの取り組み「Cities and Memory」の一環として2017年8月に正式に開始した。
地図上に置かれたピンをクリックすると、そこで行われたデモや抗議活動のリアルな音声を聞くことができる。また、情報ボタンを押せば、その背景も知ることができる。例えば、ニューヨークとロサンゼルスのウーマンズマーチやギリシャでの反緊縮経済デモ、フィラデルフィアでの「ブラック・ライヴズ・マター」運動など、その場にいなくても臨場感を持って感じることができる。
この地図には過去10年間にわたる抗議やデモの大部分が網羅されており、1991年の湾岸戦争に対する反対デモも含まれる。昨年から今年にかけてはアメリカの反トランプ政権や、イギリスのブレグジットに焦点を当てたものが多く、過去一年の間に世界中でどれだけ政治的抗議が盛り上がったかが色濃く反映されている。
反トランプ政権デモでは、ロサンゼルス、ポートランド、ヒューストン、デンバーといったアメリカの各都市だけではなく、ロンドンにおけるデモ音声も録音されており、一つ一つの音声を聴くとトランプ政権がアメリカのみならず世界にどれだけ波紋を投げかけたのかが肌感を持って伝わってくる。
プロジェクトには100を超える現場記録者、サウンドデザイナー、ミュージシャン、サウンドアーティストらが貢献しており、200以上の音声が記録されている。アーティストやミュージシャンは、抗議の音声を加工し新しく音を創造することもできる。例えば、トルコで行われたシリアのアサド大統領に対する抗議の記録をとり、背景音として不気味なサウンドサンプルを追加したり、反トランプ大統領マーチから聞こえる”Her body, her choice”と言うチャント音から、” System Failure”という打楽器音がする重い電子音楽に変形させたりしたアーティストもいる。
Fowkes氏自身も、イギリス、ドイツ、そしてイタリアから25の音を提供し、4つのレミックスを作成した。同氏は「このプロジェクトは歴史の一片であり、抗議活動には地球規模の団結のようなものがあることを示している」と語る。
甲子園の歓声を聞くと夏を思い出すように、音声によって瞬時に場所と時間が巻き戻される。デモや抗議活動の音声ほど、私たちが生きているこの時代をはっきりと特徴づけるものはない。臨場感あふれる音声によって、世界に横たわる問題を場所と時間を超えてリアルなものとして感じることができるこのプロジェクトは、時を重ねることでさらにその価値を高めていくに違いない。
【参照サイト】Protest & Politics
(※画像:Protest and Politicsより引用)