1914年12月24日。南北にどこまでも続く塹壕の中、兵士たちが寒さに身を震わせている。ここにある暖房器具といえば冗談のような簡易ストーブだけ。歩哨の当番が回れば、それにすらありつくことができなくなる。
7月の暑い盛りに始まったこの戦争は、3週間もすれば終わると言われていた。だが実際はどうだ。ドイツ兵もフランス兵もイギリス兵も、今年のクリスマスは暖かい自宅ではなく不衛生な塹壕で過ごしている。このままでは、来年も再来年も聖なる夜を塹壕で迎える羽目になるという。もう帰りたい。戦争はたくさんだ。
誰かがそうつぶやいた直後、凍結した夜空を溶かすかのような美しい歌声が響き渡る。どうやら敵軍の塹壕で『きよしこの夜』を歌っている者がいるらしいが、それにしても立派なテノールである。
翌日、戦場に奇跡が起こった。両軍の兵士が塹壕を出て、中間地帯でクリスマスを共に祝ったのだ。ある者は敵軍兵士と記念写真を取り、またある者はその場でチームを編成してサッカーを始めた。泥沼化した戦争の、たった1日だけの休戦日。この出来事は現代では「クリスマス休戦」と呼ばれている。
フランスのスタートアップ、Timescopeが開発した固定設置型のVRマシン。これを各地の史跡に備え、歴史的事件を仮想空間で再現しようというプロジェクトがある。
その一環として、第一次世界大戦の古戦場があるヌーヴィル・サン・ヴァーストにこの機器が設置された。VRを通して、1914年のクリスマス休戦を目撃しようというものだ。一面が荒れた大地で、常に砲弾の炸裂音が轟いている泥まみれの戦場。その中で両軍の兵士が握手を交わし、「メリークリスマス」と声を掛け合う。
ヨーロッパ地域の市民にとって、第一次世界大戦は今も暗黒の記憶だ。開戦当初は「荒々しく、男らしい冒険(シュテファン・ツヴァイク『昨日の世界』)」として捉えられていた戦争が、次第に膠着してその後4年以上続いたのだ。それまでの戦争では考えられないほどの死者を出し、その影響はあらゆる方面に波及した。
だからこそ、クリスマスにたった1日だけ実現した休戦が今も語り継がれている。この出来事は双方の軍司令官が指示して実現したものではない。最前線の兵士たちが自発的に行ったことである。
歴史的事象を最先端テクノロジーで再現しようという動きは、最近よく見られるようになった。VRを使えば、アウシュヴィッツ強制収容所に入れられるユダヤ人になることもできる。もちろん、その意図は遊び心ではない。歴史を語り継ぐための手段として、VRはもはや欠かせないものとなっているのだ。