同じ過ちを繰り返さぬために。VRでアウシュヴィッツ強制収容所を再現

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「アウシュヴィッツ」という地名を好んで口にする者はいない。だが、決して忘れてはいけない地名でもある。ナチス時代のドイツが建設した強制収容所は、罪のない人々を次々と呑み込んだ。収容者はユダヤ人だけではない。ナチスに敵対すると見なされた者は、秘密警察が逮捕状を作成しないまま身柄を確保された。その後、人類史上例を見ない「屍の工場」に移送されるのだ。

近年、かつての強制収容所を再現しようという動きが活発になっている。イタリアのテクノロジーコンテンツスタジオ「101%」が、ひとつのVR向け映像作品を開発した。「Witness Auschwitz」というものだ。欧米のいくつかのゲームメディアで取り上げられているが、これを「ゲーム」とするにはあまりにも深刻すぎる題材である。

プレイヤーの目の前に映るのは、まるで城郭のような壁と正門。そこへ鉄道路線が伸びている。鉄網の扉が不気味な音を立てて開き、旅行カバンを持ったプレイヤーを迎える。扉の施錠音は、まるで誰かの命が尽きることを知らせるようだ。ここはアウシュヴィッツ収容所。人間がその手で生み出した地獄の最果てである。

Witness Auschwitzは、イタリアのユダヤ人協会の支援を受け制作された。建物の設計や施設の位置関係等、アウシュヴィッツの生存者の証言を基に再現されている。

アドルフ・ヒトラーは民主的な選挙システムを利用して国家元首になった男だ。ヒトラーが唱えたのは「選ばれし者への正当な権利」だった。ドイツ人は純血アーリア人種の末裔であり、文明を創造できる唯一の存在である。しかし現実問題、ドイツ人は阻害されている。我々を貶めているのは愚かなユダヤ人だ。

ヒトラーは、ヨーロッパの人々が長い歴史の中で混血を繰り返してきたことを一切無視し、「純血アーリア人種」というフィクションを作り上げた。それはまさに悪魔の歯車だ。そして歯車は、ついにユダヤ人の絶滅の方向へ動き出す。

アウシュヴィッツに送られた人の職業は様々だ。学術エリートである大学教授や医師、そして音楽家、文学家、企業経営者、画家、聖職者、プロボクシングの世界チャンピオンまでも名を連ねている。ナチスは文字通り「根こそぎの絶滅」を目指したのだ。

アウシュヴィッツから生還した人々は、加齢とともに毎年減っていく。これは広島や長崎の被爆者にも当てはまることだ。もちろん、それを止める術はない。だからこそ、彼らの証言を詳細かつ明確な形で保存する必要がある。

現在、VR技術はその性能向上が目覚ましい。それはFPVゲームと極めて親和性の高いものだが、一方で「負の遺産」を現代に再現する手段としても注目されている。最先端テクノロジーは、一歩間違えれば人を傷つけてしまう力を持っている。現にWitness Auschwitzは暴力表現をどうするのかという問題があり、とてもゲームを作る感覚では制作できないものだ。

しかし同時に、アウシュヴィッツの話は決して避けることのできないものでもある。人類がアウシュヴィッツを忘れた瞬間、ホロコーストは繰り返される。時計の針を戻してはいけない理由は、そこにある。我々は、収容所から聞こえる声に目と耳を傾けなければならない。

【参照サイト】Witness Auschwitz

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