日本で一番電気代がかかる家電がエアコンだ。暑い時期には欠かせないが、少し使用するだけで大量の電力を消費することはご存知だろう。
電力消費に伴うコストや排出されるCO2を削減するため、シンガポール国立大学の研究チームが水を使用した新しいエアコンのシステムを開発した。このエアコンは家庭や商業ビルで使用されているような従来のエアコンと比べて電力消費を40%削減でき、さらには使用中に飲料水を作り出すこともできるという。
現在のエアコンシステムは湿気を除去し、除湿された空気を冷やすという2つの工程を取っているため、大量の電力が必要となる。そこで研究チームは、これらの工程を別々に行う2つのシステムを開発することで、各プロセスの管理とエネルギー効率を向上させた。
まずは、薄い膜のような技術を用いたシステムで、外気から効率よく湿気を除去する。次に、除湿された空気を水で冷やす露点冷却システムだ。これにより外部に湿気の低い冷たい空気を放出し、室内の温度を18℃にまで冷却できる。代替フロンなど温室効果のある有害な化学冷媒の代わりに水を使うため、より環境に優しく安全だ。
さらに、このエアコンは空気を冷やしながらも私たちが普段から飲めるような水を生み出す。エアコンを1日利用すると、約12~15リットルの飲料水ができるという。
この研究チームを率いたErnest Chua教授はこう語る。「熱帯地域にある建物では、建物のエネルギー消費の40%以上がエアコンによるものだ。温暖化により、この割合は今後さらに増えていくだろう。我々の技術は、これまでのエアコンシステムに大きな影響を与えるに違いない。」
このエアコンは、湿度の高い熱帯気候から乾燥した砂漠気候まであらゆる天候条件において屋内外のどちらにも利用でき、持ち運びも可能だ。これは意外なところで活躍しそうである。たとえば、戦時中に湿度が高いと不快に感じるような家庭用核シェルターや病院。さらに軍の操縦室や装甲兵員輸送車など、精密機械を操作する場所での利用にも適している。
研究チームは現在、ユーザーが使用しやすいようにエアコンのシステムを改良中だ。また、温度設定の事前予約やエネルギー効率のリアルタイム表示などのスマート機能の導入も行っており、商業化に向けて産業パートナーとともに開発を進めていくことを検討中だ。
私たちの生活に欠かせないエアコン。40%も電力消費を削減でき、さらに飲料水も生み出してしまうエアコンは、これからのエアコンシステム発展のための革新的な役割を果たしていくだろう。今後の展開に期待したい。
【参照サイト】NUS researchers pioneer water-based, eco-friendly and energy-saving air-conditioner
(※画像:National University of Singaporeより引用)