近年のテクノロジーの発達により、省エネ家電が次々に登場している中、インドでは電力を一切必要としない”家電”が話題を呼んでいる。
陶芸職人の家系に生まれたMansukhbhai Prajapati氏は、粘土で作られた”家電”を販売する「ミティクール」というブランドを立ち上げた。冷蔵庫や食洗機など、このブランドの製品は、環境に優しくサステナブルなだけではなく、安価なのも魅力だ。
インド国内で9000個以上も売れているミティクールの冷蔵庫は、3000インド・ルピー(約5000円)と低所得者層でも手が届く値段に設定されている。「裕福な人たちは何でも購入できる一方で、貧しい人々は冷蔵庫などの生活に必要な家電を手に入れることが難しい。だから私たちは彼らの手の届く商品を開発したのだ」とPrajapati氏は語る。
粘土でできた冷蔵庫は、水の力を最大限に利用して機能する。使い方はいたってシンプルだ。冷蔵庫の上段の扉内に入れた水が、側面に滴り蒸発する際に、冷蔵庫内部の熱気を奪うことで冷却効果が発揮される。野菜や果物、牛乳なら2、3日間保冷できる。耐久性のある製品なので、丁寧に扱えば買い替えの必要はない。
また、ミティクールの製品自体ももちろん魅力的だが、ブランド誕生秘話にも惹きつけられる。2001年にインドを襲った大地震で自身も被災したPrajapati氏は、被災者の壊れた冷蔵庫の写真を新聞で見て、電力を必要とせず多くの人に使ってもらえる冷蔵庫を作ろうと決意したのだ。2002年に取り組み始めてから4年後の2005年についに、Prajapati氏のアイデアが形になった。
グローバル化と産業の機械化が進み、プラスチック製品などの代替品が広まりつつある中、多くの陶器職人が厳しい状況に直面する。しかし、Prajapati氏が一時期は借金を抱え苦しみながらも開発を続けたおかげで、ミティクールはアフリカにも輸出されるほど着々と知名度を上げている。
技術革新により、新しい発見や新機能が増えつつある一方で、ミティクールの冷蔵庫のように、従来の伝統的産業を違った視点から見つめ直すことでひと味違うアイデアが生まれるのだ。大切な機能がシンプルにデザインされている「古き良き」ものを見直すことで、我々の生活はさらに豊かになっていくだろう。
【参照サイト】MITTICOOL
【関連記事】消費電力は100分の1。オランダ生まれの地下に埋めるエコ冷蔵庫「Groundfridge」