最近、「職場におけるダイバーシティ(多様性)を推進しよう」といった意見をよく聞く。しかし、なぜ多様性が大事なのか?認めるべきなのか?自分と似た人と一緒にいた方が楽なのに。とくに、「空気を読む文化」があるほど同質性の強い日本では、珍しくない本音かもしれない。
そんななか、国内でもいち早くLGBT支援宣言を掲げたり、難民支援のグローバルキャンペーンを行うなど、社内の多様性を認め、積極的に歓迎している会社のひとつが、世界的に有名なイギリス発祥の化粧品メーカーであるLUSH(ラッシュ)だ。
株式会社ラッシュジャパンの人事総務部部長 安田雅彦さんがゲストスピーカーを務めたイベントCreative Shibuya Mornings – Diversity and Inclusion –が5月11日の早朝、渋谷で行われた。そこで、LUSHの働き方や信念となる考え「Freedom of Movement」についてのお話を聞く中で、「多様性」についての新たな視点を得ることができた。
社会課題の解決を訴えるLUSHのやり方
LUSHは、キャンペーンカンパニーを貫いている。つまり、自社の製品やビジネスをとおして世の中の課題を人々に訴えかけることで、問題解決を目指している。創立者のマーク・コンスタンティンがLUSHを創業した当初から、社会でおかしいなと感じたことに対して声をあげ続けてきた。
LUSHには、5つの大切な価値観がある。それは、「Fresh」(新鮮さ)、「Handmade」(手作り)、「Cosmetics」(化粧品)、「Invention」(開発)そして「Ethics」(倫理)だ。とくに「Ethics」は、創立者の姿勢を表していると言える。つまりLUSHは、倫理観をビジネスの原動力とし、さまざまなビジネスの判断を行なっている。
ビジネスの核にある倫理観はブレない
LUSHはキャンペーンカンパニーとして、世界にあるさまざまな社会問題の根本解決を目的にした取り組みを行なっている。それがよくわかる例のひとつが、動物実験反対キャンペーンだ。
EU域内では2013年から完全に化粧品の動物実験が禁止されている一方、中国では海外から輸入される化粧品を自国本土で販売する上で、動物実験が義務付けられている。そのため、いくら中国で生産・販売することがビジネス的にプラスになるからといって、そこにラッシュの店舗を作ることはしない。これは、「Ethics」という価値観がブレないからこそできることだ。
LGBTも難民も含め、働くスタッフがLUSHブランドを作る
2013年にひとりのスタッフがロシアの反同性愛法に抗議したのをきっかけに、LUSH全体でLGBT支援のためのキャンペーンを開始した。
会社として、人事制度を改定し同性パートナー登録制度を導入したり、LGBTの方への接客の仕方を研修するなどしている。また、#GAYISOKというキャンペーンの一環で、「愛する権利」ソープを世界中で約10万個以上販売した。
また、LUSHは難民支援も行っている。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、日本での難民申請手続きは、数ヶ月から数年という長い月日がかかり、申請を待つ間、適法に働くことができない人もいる。その中で、LUSHは神奈川県厚木にある工場で、まだ難民認定を受けていない難民2名を採用するという先駆的な取り組みをしている。この背景には、難民という課題が日本にもあることを知ってもらいたいという思いがあるからだ。
このようにLUSHは、自分たちのビジネスの核である化粧品を軸に、社会の問題に対してさまざまな問題提起をしている。
多様性をどのように組織の力にしていくか
上記のとおり、LUSHでは積極的に多様性を取り入れ、大事にしている。では、この多様性を組織の力にしていくためにはどうすればいいのだろうか?LUSHでは以下の人事制度を取り入れ、一人ひとりが自分らしく働ける環境を提供している。
まず、他社と比べてユニークなのが、逆ピラミッド型の組織体系だ。つまり、お客さまが一番上で、その次に店舗で働くスタッフがいて、リーダー層が下で上の人たちを支えている。なので、店長の上に上司のあたるエリアマネージャーがいない。それは、スタッフ一人ひとりがオーナーシップを持ってLUSHの信念を伝えてほしいという思いからだ。この思いは、広告を打たず、店舗をハブとしている姿勢からもうかがえる。
また、「Freedom of Movement」(移動の自由)という信念を掲げている。まず、個人の希望ではない人事異動はない。また、キャリアはオープンになっており、自分で空いているチャンスを見つけ、自ら手を挙げるイニシアチブが大切にされている。
そして、この「Freedom of Movement」には、物理的な場所の移動だけでなく、「他者との違い」という壁も、「自分自身の可能性」への壁も越えていくことが含まれている。
このように、会社として、多様な「個」が自分らしく働ける環境を整えている。
一人ひとりのオーナーシップを大切にする
もちろん、育ってきた背景や価値観が違えばうまくいかないこともある。しかし、そのうまくいかなかったことを教訓として学ぶことで、スタッフ一人ひとりが成長することを体現している。イベントに参加していたLUSH社員さんが、こう言っていた。
「LUSHが動物実験に反対しているからといって、スタッフに対して『毛皮を着てはダメ』と強要するわけではない。ただ、知らなかったことを自分で調べる過程で、自分なりの理解・解釈ができ、だからダメなんだなと気づくことができる。自分の理解を深めていくしかない」
なにがいい、悪いではなく、学び、成長する過程での一人ひとりの考えが大切にされているのだ。
イベントに参加して
今回のお話を聞いて、冒頭で投げかけた疑問、「同質性の強い日本でも、なぜ多様性が大事なのか?」への新たな視座を得ることができた。
それは、多様性を認めることは、他者のためでもあると同時に、自分のためでもあるからだ。つまり、自己理解につながるのだ。
違う意見を完全に受け入れる必要はないし、おそらく無理だろう。ただ、異なる環境で育ってきた人の意見や価値観をきっかけに、未知の分野に触れて新しい知識を得たり、わからないことを調べる中で、自分の意見をもって、自分をよりよく理解することができるようになる。
ひとつの人生だけでなく、他人の人生の一部を知ることで、自分自身が新たな世界を楽しむことができる。そんな素敵なLUSH流の考え、「Freedom of Movement」を忘れないようにしたい。
渋谷の熱い場所「100BANCH」とは?
今回、会場となったのは、常識にとらわれない若いエネルギーが集い、100年先の未来を豊かにしていく渋谷にある実験区、「100BANCH」だ。若い世代を中心とした100個のプロジェクトチームに対して、各分野のトップランナーによるメンタリングの機会を提供し、活動を支援している。
また、今回のイベントは、世界160都市で開催されているグローバルのモーニングイベント「CreativeMornings」にインスパイアされた東京版「Creative Shibuya Mornings」のひとつだ。
月に一度、金曜日の朝に集まり、朝ごはんを食べながら、ゲストスピーカーの話を聞いたり、普段は出会わない参加者同士の活動を共有したり。常識にとらわれない新しいアイデアで、東京をもっとクリエイティブにしていく「朝」と「コミュニティ」を作っている。
月に一回、朝の渋谷で、クリエイティブな人と刺激しあって、自分の常識の外の世界を楽しんでみてはいかがだろうか。
【関連記事】日本は多様性のない国なのか?
【参照サイト】株式会社ラッシュジャパン
【参照サイト】100BANCH
【参照サイト】Ban on Animal Testing
【参照サイト】日本の難民認定手続きについて