移民の壁を、アートの壁に。多様性の美しさを描くウォールギャラリー「The Most Beautiful Wall」

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昨年11月、アメリカの大統領にドナルド・トランプ氏が当選し、世界中が震撼した瞬間はまだ記憶に新しい。トランプ氏が選挙中に残した過激な発言の数々に不安を抱いた方もいるだろう。その中でもとりわけ議論を呼んだのが、同氏が掲げる移民政策の象徴とも言える「メキシコとの国境沿いに建設する壁」だ。壁の建設は不法な移民の取り締まりを強化するためではあるものの、その断絶的かつ排他的なイメージは色濃く、メキシコだけではなく世界中の人々から懸念されている。

こうした不安が広がるなか、立ち上がったのがヒスパニック系の女性アーティスト、クレイマー(Kramer)だ。同氏は「The Most Beautiful Wall」というオンラインアートプロジェクトを企画し、トランプ氏の政策に対してアートの力を使って異議を唱えている。

クレイマー氏のアイデアは、アメリカ・メキシコ間の国境近くに建設される予定となっている移民の壁を、多様性の素晴らしさを訴えるアート作品を飾るウォールギャラリーにしてしまおうというものだ。

このプロジェクト「The Most Beautiful Wall」は3月10日に始まり、現在世界中のアーティストから移民の壁に飾るアート作品を募集している。目標は、実際のアメリカ・メキシコ間の国境と同じ1,926マイル分の全てを埋める作品を集めることだ。

集まった作品はオンライン上のバーチャルウォールに飾られ、誰でも閲覧可能となっている。実際に作品を見てみると、画面を横スクロールしていく挙動が新鮮で面白い。

現在、米国国土安全保障省は移民の壁のデザイン案のプロトタイプを募集しており、今回のプロジェクトを通じて出来上がったウォールギャラリーもそのデザイン案の一つとして提出される予定だ。

このアートプロジェクトは、トランプ氏の公約にあった「メキシコとの国境に、通過不可能な、巨大で、力強く、そして美しい壁を建設する」というフレーズのなかの、「美しい(Beautiful)」に着目して生まれたものだ。

アメリカから移民を追い出していく政策に対して、この「美しい」という言葉を使うのは果たして適切だろうか。そう考えたクライマー氏は、単一的な答えを必要としない「多様性」こそが本物の美しさだと考え、アートを使ってこの多様性を表現することに決めた。

アーティストの多様な手法で彩られていく壁が、アメリカにいる移民たちが過ごす「美しい」毎日を伝えてくれると信じていたからである。

プロジェクト開始に伴い、クライマーはまず移民経験のあるアーティストに声をかけていき、それぞれの手法を用いて、移民コミュニティのパワーと美しさが伝わる作品を制作してほしいと頼んだ。現在、壁にはいくつかの作品がすでに飾られている。

「壁は人々を分断するものではなく、アートのためにある」

過去のベルリン、今回のメキシコ国境沿い、どちらの壁もネガティブなイメージがあるなか、彼女は多様性の表現先として壁を用いている点が、とても印象的なプロジェクトだ。加えて、このプロジェクトはオンライン上で展開されており、だれでも参加・観覧できる点も多様性を担保しているといえるだろう。

移民の壁にただ反対の声を上げるだけではなく、アートの力を通じて壁が生み出すネガティブな影響をポジティブなメッセージに転換しようとしている「The Most Beautiful Wall」。社会情勢に対する不安感にどう向き合い、乗り越えていくべきか、このプロジェクトは私たちにアートが持つ可能性を教えてくれる。

【参照サイト】The Most Beautiful Wall

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