あなたは毎日、どんな音を聞いているだろうか。波の音、雨の音、鳥のさえずり、子供の遊ぶ声、車のクラクション、電車の音。心地よい音もあれば、時には耳に障る大きな音もあるだろう。環境省の調査によると、平成24年の騒音に関わる苦情件数は16,518件で、そのうち約1/3が建設作業によるものだという。
そんな音の問題を大きく和らげてくれるのが、シンガポール南洋理工大学が英国サウスハンプトン大学、そして鳥取大学と共同で開発した装置だ。この装置を窓に取り付けておくだけで、窓を開けている状態でも外から入ってくる騒音を半減できる。
研究チームは装置開発にあたって、アクティブノイズコントロール技術を使用した。アクティブノイズコントロールとは、「低減させたい騒音に対して別に用意した制御音源から逆位相の音を発生させることで音を打ち消す技術(引用元:日本音響エンジニアリング)」のことで、高級ヘッドホンなどに使われている。
特別な音を発する装置を取り付けておくと、騒音が窓に到達する前に、受信する騒音の属性(音の大きさや高さ、音質)を付属マイクで計算して騒音を検出する。その後、装置が防止音をすばやく放ち、外からの騒音と防止音が互いに相殺されて騒音が緩和されるという仕組みだ。
さらに、研究を率いたGan Woon Seng教授は、「われわれが開発した装置は、耳の近くだけではなく広い範囲で騒音の制御をするため、これはヘッドフォンよりも困難な技術的挑戦だ。」と語っている。
Seng教授らは大学の研究室に、窓と扉が付いた一般住宅で見られるような部屋をつくり、工事現場やジェットエンジン、および列車などから録音した音を騒音源として実験を行った。
今回の実験における装置の出力は、小さな携帯用Bluetoothスピーカーとほぼ同量の8Wで、これをいくつか窓格子に設置し、騒音を半減することに成功した。
この装置の長所は2つある。1つは、たとえ部屋の外が騒がしくても、窓を開けたまま室内を静かに保てること。もう1つは、窓を開けておくことで室内を涼しく新鮮な空気に保て、空調設備の過剰な使用を減らせることだ。
研究チームは現在、シンガポール政府機関と共同で、ノイズコントロールの効率の改善や、取り付けと取り替えを簡単に行えるようにサイズの縮小、そして生産コストの改善について技術研究を重ねている。商業利用および住宅利用を実現させ、都市の騒音公害の緩和のために、この技術を窓格子に組込むことが最終目標だ。
私たちが部屋のなかにいても、毎日耳にする音。なかでも不快な音がもたらす問題を和らげて生活の質を上げてくれる、画期的な装置の今後が期待される。
【参照サイト】Noise cancelling device by NTU scientists halves noise pollution through open windows
【参照サイト】平成24年度騒音規制法施行状況調査について
【参照サイト】日本音響エンジニアリング
(※画像:NANYANG TECHNOLOGICAL UNIVERSITY SINGAPOREより引用)