日本の伝統を次世代につなぐ秘訣は、先人の智慧と現代の感覚を「和える」こと

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先人の智慧(ちえ)と聞いて、思い浮かぶことはなんだろうか。

普通だったら捨ててしまうような食材の残りを掃除に使うおばあちゃんの豆知識や、会社や学校の先輩の経験に基づく的確なアドバイス。幅広い分野で、先人から学べることは計り知れない。

しかし現在、職人の高齢化・後継者不足や需要の低迷などの理由により、日本の伝統産業界は衰退しつつあるといわれている。そんななか、意外なところにヒントを得て、「先人の智慧」である職人の技や日本の伝統を次世代につなぐ仕組みづくりをしている会社がある。それが、株式会社和える(aeru)だ。

「日本の伝統や先人の智慧と、現代を生きる私たちの感性を和えた、豊かな暮らしを次世代につなぐ仕組みをつくります」という力強く、また同時に日本の奥ゆかしさがにじみ出るメッセージがとても印象的な和えるのホームページ。

和えるは代表の矢島里佳氏が、大学4年時の2011年に立ち上げた会社。「日本の伝統を次世代につなぐ」という想いで、赤ちゃんから大人になっても使える、食器や衣類、玩具といったオリジナルの日用品を全国各地の職人さんと共に生み出す“0から6歳の伝統ブランドaeru”をはじめ、さまざまな事業を展開している。今回、代表の矢島氏にインタビューをした。

「先人の智慧」が凝縮された伝統産業

「伝統は、先人が常にその時代の感覚を加え、より良いものを生み出すためのトライ&エラーを繰り返すことで、私たちにつなぎ届けてくれたもの。“先人の智慧”を過去のものにするのではなく、 “先人の智慧” と “今を生きる私たちの感性や感覚” を和えた、豊かな暮らしを次世代につなぐことを目指しています。」

たとえば、aeruの『こぼしにくい器』。器の内側に「返し」があることで、柔らかいおかゆから、細かく刻んだお野菜まで、スプーンですくいやすいように工夫が施されているのだ。子どもたちが自分で食べることを応援したいという想いから生まれた形。職人の技術と、今を生きる現代の感性をかけ合わせることによって誕生した、とても素敵な食器である。

『こぼしにくい器』は食べ物を掬いやすい形

異なる産地・素材で作られた、同じ形の『こぼしにくい器』

また、『愛媛県から 五十崎和紙の 紙風船』や、『福井県から 組子細工の オーナメント』など、さまざまな地域で育まれた伝統を、現代に生きる私たちの感覚と「和えた」商品が並んでいる。どの商品も見た目が美しいだけでなく、実用性や利便性に長けているのだ。

日本の伝統的な吉祥文様が施された『五十崎和紙の 紙風船』

さまざまな木の個性を楽しめる『組子細工の オーナメント』

出産祝いとして人気がある『徳島県から 本藍染の出産祝いセット』は、産着、靴下、フェイスタオルが桐箱に詰められている。生まれてきた赤ちゃんの体を日本のホンモノで優しく包み込む商品だ。化学薬品を使わず、“天然灰汁発酵建て”という江戸時代から続く伝統的な技法を用いて、自然の恵みでオーガニックコットンを染めているので、繊細な肌の赤ちゃんにぴったりだ。使い手である、赤ちゃんの肌にも、作り手にも、環境にもやさしい「三方よし」の手法で生まれたものだといえる。

赤ちゃんを日本の”あい”でお出迎えする『本藍染の 出産祝いセット』

本藍染特有の赤みがかった色の『本藍染の 産着』が赤ちゃんの表情を引き立てる

三方よしとは?

三方よしとは、売り手・買い手・世間の三者を考え、商売をする際にはすべての人々が幸せになることを示している。和えるが大切にしている「先人の智慧」のひとつだ。

これは、現在の滋賀県で繁栄していた近江商人の言葉で、売り手の都合だけで商いをするのではなく、買い手が心の底から満足し、さらに商いを通じて地域社会の発展や福利の増進に貢献しなければならないことを意味する格言である。

「自分も相手も、社会にも良い状態であれば、それは持続し循環するという、まさに先人の智慧である『三方よし』は、社内で物事を決定する際の基準になります。現在展開している事業や、今後展開を予定している事業では、関わってくださる方々が幸せかどうかを常に意識して取り組んでいます。」

大阪商人、伊勢商人と並び、日本三大商人と称された近江商人の行動哲学は、現代の私たちが生きやすくなるヒントを与えてくれているように思える。

なぜ伝統産業品なのだろうか?

代表の矢島氏は、中高時代に茶華道部に所属しており、お茶室には、人々の心を落ち着かせ、穏やかな気持ちにする力があると感じていた。日本の伝統工芸品に囲まれたというお茶室での体験が、彼女の今後を大きく変えることになる。

元々ジャーナリストを目指していた矢島氏は、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に、伝統産業の職人への取材をし、発信をする仕事をはじめる。

取材をしてたくさんの職人さんと出逢い、実際に彼らが生み出したホンモノを使うと、使えば使うほど味がでて愛着が湧くことや、今まで以上に日常の暮らしが豊かになっていくことを体感していったという。

本藍染の職人さんが自然の恵みだけで丁寧に染めあげる

そんななか、「日本に生まれて、日本で育っても、なぜか日本に出逢えない。それが今の日本の課題だ」と気がついた彼女は、「赤ちゃん・子ども向けの伝統産業品を生み出し、贈り届けることで小さい頃から暮らしの中で自然と日本の伝統に触れられる環境を作りたい。そうすれば、大人になってから何かを選ぶ際に当たり前に日本の伝統産業品も選択肢のひとつになるのではないだろうか」と考え、就職活動を開始。しかし、そのような会社は見つからず、自ら起業を決意した。ビジネスコンテストに出場し、その優勝賞金を元に、「和える」を立ち上げた。

未来に継ぐ「お直し」“aeru onaoshi”

今年から、「お直し」を次世代につなぐ“aeru onaoshi”事業も開始した。割れたり、欠けたりしてしまった器などを、漆や樹脂で継ぎ、金や銀などでお化粧するようにお直しをする技術は、「金継ぎ・銀継ぎ」と呼ばれ、ものを長く大切に使うための先人の智慧のひとつだ。

現代では、食器を直せるということを知らない人も多いが、「お直し」をすることで、元の状態とはまた違う景色や表情をみせてくれることも魅力だ。お直しを通じて、物に愛着を持ち、大切にする心を、より広く伝えられるようにと取り組んでいる。

高度経済成長の中では、文化、暮らし、自然が一旦脇に置かれてしまったが、経済だけでは、人間の暮らしは豊かにならない。だからこそ、現代に生きる私たちの世代は、文化、暮らし、自然を次の世代に残すことが必要だという。

宿泊をとおして伝統に出逢う“aeru room”

地域の伝統や文化を紐解きながら、ホテルや旅館の一室を全国の職人と共に設える事業、“aeru room”も今後、47都道府県に生み出していく予定だ。

現在は長崎と姫路にオープンしており、それぞれの地域の歴史や文化を体感できる。例えば、長崎の”aeru room”には、江戸時代の頃の出島や中華街が描かれた長崎のちずや、ホテルから徒歩数分の工房で職人が作ったコップなどが設えてある。「お部屋そのものがコンシェルジュのような役割を果たす」ことを目指しているとのことでとても魅力的だ。

日本の貿易の玄関口として栄えた長崎の文化に出逢う、”aeru room” 長崎

“aeru room” 長崎にて、職人さんの手仕事を感じながら乾杯

来年秋には奈良、2020年夏には京都にもオープン予定で、国内外問わず、多くの観光客を惹き付けることは間違いないだろう。

「日本の伝統を次世代につなぐ」ことを通じて社会に生まれる変化とは?

「和えるのさまざまな取り組みをとおして、社会が『消費者』から『暮し手』へ変化してくださることを願っています。物を消費する生活から、物とともに心豊かな暮らしを築く「暮し手」が増え、日本の先人の智慧や伝統が次世代につながっていく未来を願っています。」

現代は、テクノロジーの進歩とともに新しいモノが次々に誕生し、ますます便利な世の中になりつつある。毎日を丁寧に生き、自分や家族、環境、伝統を守ろうという動きも広まりつつある。

しかしながら、和えるが成長し続ける理由は、伝統を守ることを最優先の課題としていないからであろう。現代に生きる私たちの感性に素直に耳を傾け、商品や事業を展開することで、結果的に「先人の智慧」が伝わることにつながる。

このようなビジネスモデルこそ、これからサステナブルに発展するためには必要なのではないだろうか。

『こぼしにくい器』の製作工程

【参照リンク】株式会社和える(aeru)
(※画像提供:株式会社和える(aeru)