「寄付の集まりにくい社会課題」の研究から、誰もが排除されない社会を考える

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フィランソロピーとは、個人や企業による社会貢献活動や寄付行為のことを指す。社会課題の解決に取り組む団体にとって、公的資金だけでなく民間からの寄付を集めることは重要な課題だ。しかし、取り組む社会課題によって集まる寄付金の額が大きく異なることはご存知だろうか。

米ケント大学の研究者は2015年、イギリス国内の寄付金の行き先と分布に関する論文を発表した。寄付者が特定の寄付先を選ぶ動機を説明し、寄付先として選ばれにくい分野がより多くの寄付金を集めるための助言を述べている。

同論文によると、寄付金が集まりやすい社会課題は医療、宗教、病院、国際協力、子ども、動物となっている。一方で、寄付金が集まりにくい社会課題は、自殺や摂食障害を含むメンタルヘルス、難民、犯罪者、子どものメンタルヘルス、ジプシー、HIV、ドメスティック・バイオレンスおよび児童虐待、売春、同性愛嫌悪、薬物やアルコールへの依存が挙げられている。

 飢餓

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必要性より個人の嗜好に基づいた寄付が行われている

社会課題によって寄付金の集まりやすさに差が出るのはどうしてなのか。その理由を探るには、寄付者がどのように寄付先を選んでいるか知る必要があるだろう。

同論文では、寄付者の好みが寄付先を選ぶ重要な鍵だと説明されている。寄付者の情緒を喚起し、見過ごせないと思わせる社会課題に寄付が集まりやすい。つまり、必要性より個人の嗜好に基づいた寄付が行われているということだ。

そしてこの嗜好は、個人が社会化する過程で培われるという。この過程には生い立ち、受けた教育、個人的な経験、職業経験などが含まれる。人は自らの人生経験に照らし合わせて、親近感を覚えたり、強い共感を持ったりする社会課題を寄付先として選択する。たとえば自身が子どもを持ったことで、恵まれない海外の子どもに共感を持つようになるといった具合だ。

同論文ではこのような傾向を踏まえ、寄付金の集まりにくい分野は、その社会課題が発生した理由を構成すると良いと助言している。つまり寄付者の共感を集めたり嗜好に合わせたりするために、複雑な事情が絡む社会課題でも、あえてシンプルで理解しやすい理由を提示するということだ。さらに当事者の個別事例を通してメッセージを発信し、寄付者に感情移入させることも有効だという。

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感情だけでなく「情報」を共有する姿勢や、「論理的思考」が大事

相手の思考や感情に対して情的につながって反応する「情動的共感」を喚起することの効果が論文では主張されているが、一方でこのようなエモーショナルな働きかけばかりが効果を発揮する状況は危険だとも考えられる。なぜなら、感情ばかりが前面に押し出されると理性が働きにくくなるからだ。

感情を共有する共感には限界がある。共感できない対象は、寄付者の視界から排除されていく。この流れを食い止めるために重要な役割を果たすのが、感情だけでなく「情報」を共有する姿勢や、「論理的思考」だ。

たとえば寄付先を選ぶ際には、数的思考も必要ではないだろうか。医療関係の寄付を例にとると、必ずしも死亡者数やかかる費用の多寡に応じて寄付金が集まるわけではないことが、同論文で指摘されている。より必要性に基づいた寄付を行うために、データを見ることは大切だ。

現実は複雑で、不可解なできごとで満ちている。大勢の人の心を動かすために背景事情を過度に単純化すれば、そこで示されるのはもはや現実ではない。だからこそ私たちは、フィランソロピーにおいても思考することを忘れてはいけない。

【参照サイト】 Rising to the challenge: a study of philanthropic support for unpopular causes

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