性別の「らしさ」に縛られない。LGBT“Q”について発信する帝ラスカル豹が想う「自分らしく生きること」とは?

Browse By

LGBTという言葉を見聞きする機会が増え、「“身体の性と一致した性自認”や“異性への性的指向”だけがすべてではない」という認識が少しずつ広まってきたように思う。しかし、「ジェンダー・セクシャリティについてハッキリと線引きして分類することはできない」ことまで理解している人はどれくらいいるのだろう。“身体は男性だが心は女性であり、恋愛対象は女性”という人や“自分の性別に迷っている”という人がいるように、本来、個人の性別や性的指向はグラデーションのなかに存在するものなのである。

LGBTにQを足した「LGBTQ」という言い方があることを知っているだろうか。Qは、クエスチョニング(Questioning)の頭文字で「自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていない」セクシャリティのことを表す。

そのクエスチョニングであることを公言しLGBT“Q”の認知度を高める活動を行っているのが、帝ラスカル豹(みかどらすかるひょう)さん。女性の身体に生まれながらも自身の性に疑問を持ち、現在は「性別にこだわらない」ことを選択している人物だ。性別による「らしさ」ではなく「自分らしさ」を提唱するラスカルさんが「性別」や「生きる」ことについて想うこと、そして発信を続ける理由とは何なのだろうか?

話者プロフィール:帝ラスカル豹(みかどらすかるひょう)

LINE LIVER。自身がクエスチョニングであることを公言しながら、LGBTQ概念の普及と理解を促すためアプリケーション上での配信を行うクリエイター。視聴者からの質問に回答しながら、専門用語を分かりやすく説明。2019/3/16には六本木にて初のオフラインイベントを実施。LINE LIVEではセクシャルマイノリティの話題に限らず「24時間配信」などの独自の企画で人々を楽しませている。

体は、器でしかない

Q:自身の性別に対する認識の変遷について

初めて自分の性別に違和感を覚えたのは、小学校高学年から中学に入学したくらいのころです。身体的な変化もありますし、それまで気にしていなかったのになんとなく男女で分かれるのが普通になってくるのもその頃ですよね。自分は3人の兄ととても仲が良くて、小学生の頃はごく当たり前の感覚で兄や父と一緒にお風呂に入っていました。だから余計に、身体的に違いについて敏感に感じていたんでしょうね。「どうしてお兄ちゃんたちとは違って胸が出てきちゃったのかな」「なんで男の子じゃなかったんだろう」といつも考えていました。

中学に入学すると、周囲は恋愛の話題で盛り上がるように。周りの皆が「どの男の子が気になる」「彼氏ができた」というような話をしているなか、自分がときめいたのは女の子でした。自分が周りとは違うなと感じていましたね。そんなときにたまたま知ったFtM(Female To Male:女性から男性への移行)という概念がすごくしっくりきたところから、自分はFtMだと考えるようになりました。今のように、自身をクエスチョニングだと思うようになったのは、経験を積んで色々な人と話すうちに「身体を心に合わせたい」「性転換手術を受けたい」という欲がなくなっていることに気づいたからです。「性別にこだわることないな」と思ったんですよね。

帝ラスカル豹さん

帝ラスカル豹さん

「身体って器でしかない」と思うんですよね。自分の友達を思い浮かべてみてください。彼らと仲良くなる前に、いちいち相手の性別を確かめていましたか?友達って、気づいたら仲良くなっているものですよね。気づいたら相手がたまたま男の子/女の子だった、っていうだけ。だから、人を大切に思うときに性別や身体って二の次なんですよ。

筋肉ムキムキの人が男らしいとか、ヒョロヒョロだけどいざというときに守ってくれるのが男らしいとか、人によって「男らしさ」の定義にもいろいろあります。ひとつの定まった性別の「らしさ」というものがあるかのように言われがちですが、それって実はものすごく曖昧なものなんです。だから、縛られる必要なんてないと思う。自分の人生を生きるのは結局自分なのだから「自分らしさ」を軸に生きていったほうがいいと考えています。

Q:自分でLGBTQについての発信を始めたきっかけ

高校1年生で初めて彼女ができたとき、それがうわさで町中に広まってしまって。そのときに初めて「リアルな偏見」に触れたんですよね。知らない人から「噂の子だ!」と指をさされたこともあったし、色んな人が自分の目の前で、口々に「気持ち悪い」「怖い」「理解できない」と言っていた。そこで心が壊れちゃったんです。リアルに「死にたい」と思うほど、ずっとふさぎ込んでいましたね。

そんなあるとき、引きこもっている自分を心配した友人に「家に来て」と呼び出されたんです。正直、外にでるのは嫌だったけれど「どうしても」と言われるままに友人宅に行きました。家に入ると、友人が「あなたが胸を張らなかったら、私たちが誰を守ってるのか分からない」と言ってくれたんですね。それを聞いて自分は、本当に救われた気がしました。

話を聞くと、仲が良い友達も「あの子、本当に女の子とつきあってるの?」というようなことを何度も聞かれていたそうなんです。でも、その度に「自分で聞いたらいい。それに、それが事実だったとしても、何がおかしいの?」と言い返してくれていた。私たちはあなたを守ろうと決めているのに、本人が自信を無くして弱気になっていてどうするの?―友達はそう叱ってくれました。ずっと自分を守ってくれている人がいたことを知ったその時に初めて「これからはちゃんと胸をはろう」と思えたんです。

帝ラスカル豹さん

帝ラスカル豹さん

ちょうどその頃、アメリカで同性婚が認められたきっかけの一つが「いじめられたゲイの子の自殺」だったと知って。「なぜ人を好きになるだけで、死ぬ選択しかできないほど追い込まれなければいけないのだろう」と強い悲しみを感じていたんですね。そのこともあり、つらい想いをしている人の力になりたい、と考えるようになりました。「同じ想いをしている人が前を向ける時が来るまで、かわりに自分が胸を張っていよう」と思ったんですよね。

自分が堂々とした態度でメッセージを発信し続けることで少しでも状況が変わったらいいな、誰かが明日がんばってみようと思える勇気になれたらいいな、というのが今の原動力。現在はLINE LIVEで様々な人とコミュニケーションをとりながら多くの人に効果的にメッセージを届けようと模索しているところです。

周りと違うのは、おかしいことじゃない

Q:辛い経験をしたのに、多くの人の前に出ていけるのはなぜか?

偏見って、LGBTQネットワークの中ではなく、その外にあるんですよ。だから、そこに飛び込んでいかないとずっと自分たちのことを知ってもらえないし、理解も得られない。だからこそ、多くの人の前で発信する必要があると思っています。

昔、兄の配偶者に「病気かもしれないから心配だ」「あなたのことを理解したいから、私のためにも一緒に病院に行ってほしい」と精神科に連れていかれたことがあったんですね。今でこそ、その時の体験やその機会を作ってくれた義姉に感謝しているのですが……当時は「自分はどこかおかしいのだろうか」とものすごく悲しい気持ちでした。

不安に思いつつ診察室に入ると、担当してくれた医師が「自身の性別に違和感を抱くのも同性に惹かれるのも、おかしいことではないよ」と断言してくれたんですね。そして、性同一性「障害」という言葉が性転換手術を正当に行うために作られたもので病気ではない、法的に病気でない人にメスを入れることができないから便宜上「障害」というだけだ、と教えてくれました。ひとつの単語が成立するまでの背景事情なんて、なかなか知る機会がありません。でも、だからこそこういう事実を多くの人に届けなければいけないんですよね。

配信をしているとひどい言葉を投げかけられて嫌な気持ちになることもあります。でも、その時に「その人の価値観を変えるような心に残るレスポンス」ができたら、それってすごくラッキーだなって思うんです。誰かのものの見方が柔軟になれば、社会も少し良くなるはずですから。

帝ラスカル豹さん

帝ラスカル豹さん

Q:性別多様化への障害となっている社会の課題は?

履歴書の性別記入欄やスカートかパンツかを選べない制服など、2性別だけを対象とした世の中の仕組みや価値観って、実はたくさんあります。

そしてそれは普段使っている何気ない言葉の中にも存在しているんですよね。「男なの?女なの?」「かわいいんだから、もっと女の子らしくしなよ」「女の子が俺って言うのは変だよ」など……言っている本人には悪気がないのかもしれませんが、そういう物言いをされて傷つく人がいるというのは事実です。

性交渉の可能性がある恋人やパートナーなら相手の性別についてきちんと知る必要があるかもしれないけれど、そのような関係にない人間が「相手の性別はLGBTQのうちどれなのか」をはっきりさせる必要はないはず。カテゴライズというのは人を傷つけうる行為だと知ってほしいです。

例えば、自分がFtMだと思っていたときはFtMと呼ばれることがすごく嫌だったんですね。FtMはFemale To Maleの略で「女から」男へという意味。つまり、そう呼ばれる限り「女だった過去の自分」が付きまとってくるからです。そういう経験があるからこそ、簡単に性別をカテゴリに分けて呼んでしまいたくないと思っています。「その人が望む性別」で認識してあげることで、つらい気持ちを一瞬でも忘れてもらえるなら自分はそうしてあげたい。一番良いのは、男、女、FtM、ゲイ……といったカテゴリ分けで自己紹介をする必要のない世界になることだと思いますけどね。

帝ラスカル豹さん

帝ラスカル豹さん

Q:LGBTQへの批判について思うことは?

「LGBTは生産性がない」という発言が問題になったとき、そもそも少子化の問題はどういうところにあるのかについて考えてみたんです。すると、調べていくなかで驚くべき事実を見つけました。2018年度の子どもに関するデータによると、生まれた子ども92万人のうち、虐待を受けている子どもが13万人、施設に預けられている子どもが3万人。そして、養子縁組が成立したのはたった800人なのだそうです。

せっかく生まれてきてくれたのに、つらい想いをしている子どもがいる。暴力を振るわれて死んでしまう子や自殺を選んでしまう子だって出てきてしまうかもしれない。出生率さえ高ければ、つらい想いをする子や死んでしまう子がいても良いのでしょうか?そんなわけありませんよね。「今ここにいる」子供たちの元気と幸せを考えるのってすごく重要なことです。

子どもを産まなくても養子をとったり地域の子どもを見守ったりすることで「今ある命を守り育てていくこと」はできます。産まなくても産めなくても、だから存在意義がない、ということではないはず。生まれてきてくれた命を大切にするという視点を持たずに、「産めないから」という理由でLGBTだけ引っ張り出して批判するのは違うと思いますね。

自分の子どもすら愛せない人がいる中で、真剣に人を想うことができるのは本当に尊いこと。それは決して「趣味」と称して軽くあしらわれたり、生産できないから重要でないと判断されたりするべきではないんですよね。誰かを愛するのに性別なんて関係ありませんし、子どもを産もうが、産むまいが、産めまいが、みんな同じように大切な存在です。骨になったらみんな同じ。分類していがみ合う必要なんてないと思いませんか?

自身で作成した資料を見せて説明するラスカルさん

自身で作成した資料を見せて説明するラスカルさん

性別の前に、「人間として」どうか

LGBTQのことを知っていても心から理解するのは難しい、という人ももちろんいるでしょう。それはそれで仕方のないことだと思います。でも、「理解できないから傷つけてもいい」ということにはなりませんよね。だから、完全に分かってほしいとは思わないけれど「自分がされて嫌なことはしない」ことだけは守ってほしい。自分がマジョリティの側にいたとしても、人として大切なことは守ってほしいと思いますね。

反対に、当事者側にも「LGBTQをまだ理解できない」という人を理解しようとする必要があると思うんですよね。マイノリティとして生きていればつらいことがたくさんあるだろうし、大切な人には自分を理解してほしいという切実な気持ちももちろんわかる。でも、カミングアウトするとき、自分は考え抜いた上で覚悟を持って話しているけれど、聞く側にとったら突然のことなんですよね。想定もしていなかったことを急に聞いたら、頭が真っ白になったり、どうしたらいいか分からなくなったりするのは当然のこと。

家族ですら、理解できずに離れることもあります。最初は好きになれなかった人と親友になっていたり、疎遠になっていた人と急に仲がよくなっていたりもする。誰かとの縁が「つながっていくか、離れていくか」を自分でコントロールできないのは人間にとって当たり前のことなんですね。だから、無理やり理解させようとするのではなくて、話をしたらそこから先は相手にゆだねる勇気をもってほしいと思います。

帝ラスカル豹さん

帝ラスカル豹さん

Q:これからの活動について

自分は、医師のように専門的なレベルの話をしたり、理論に基づいた適切なカウンセリングをしたりできるわけではありません。でも、だからこそ身近な存在になれると思うんですよね。LGBTQ関連のことって、専門用語が多くて堅苦しいからハードルが高く感じられがち。無理やり知識をおしつけられると、説教されている気がして受け入れがたく感じてしまうし、自分一人で文章を読んで理解しようとしてもなかなか難しいんです。でも、明るくユーモアを交えて話をすれば理解してくれる人もたくさんいます。だからこそ、文字だけで一方的に伝えるのではなく双方のやりとりができるようなやり方にこだわりたいですね。LGBTQというテーマについて難しい言葉で議論するのではなく、和気あいあいと笑ってしゃべれる環境をつくるのが自分のミッションだと考えています。

人間は、「知る」ことによって「ものごとをはっきりと認識できるようになる」と思います。概念を知ることによって、目に入ってはいたけど気にしていなかったものを「意味のあるもの」として捉えることができるんですね。だから、人々の「ジェンダーセクシャリティに対するアンテナ」を高めるには、まず概念を知ってもらう必要があると考えています。帝ラスカル豹という存在を入口としてLGBTQのことを知ってもらえるように、たくさんの人に届くような面白いことをLINE LIVEなどを通して発信していきたいですね。

帝ラスカル豹さん

帝ラスカル豹さん

Q:読者へのメッセージ

迷うことは悪いことではないんです。以前の自分にとって正解だったものが、今の自分にとってもそうだとは限らないし、今の時点での気持ちがこの先もずっと変わらないとは言い切れないですよね。変わったり悩んだりしながら、自分を探しつづけるのが人生なんだと思います。でも、どの時点の自分も本気で生きて考えていることだけは確か。だから、迷うことや変化することを否定せず、色んな自分自身を受け入れてあげてほしいなと思います。

編集後記

「最近、ちょうど企画で髪を剃って坊主にしちゃったんです。そのあとで取材が決まったから、やっちまったと思いましたよ!」―そう言って、出会った瞬間から気さくな対応で周囲を笑わせていたラスカルさんは、ひとつひとつの質問に真摯に向き合って答えてくれた。ラスカルさんの言葉には、芯がある。ゆるぎない想いをまっすぐ言葉にしているのに、そこには決して誰かを否定するような雰囲気が感じられない。だから、相手の心にすとんと届く。

配信を続けるのはもちろん、今後はオフラインのイベントも増やしていきたいそうだ。生きづらさを抱える人は、画面越しでも直接でもいいから、ラスカルさんのもとを訪ねてみてほしい。対話を通じた「心のやりとり」で、きっと少しだけ気持ちが軽くなるだろう。

【参照サイト】公式LINE LIVE
【参照サイト】公式Youtube

FacebookTwitter