竹製歯ブラシをホテルのアメニティに。サステナブルを目指す家業2代目の挑戦

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私たちがホテルに泊まるたびに何げなく使っている、アメニティのプラスチック製歯ブラシ。世界中で1年間に廃棄される歯ブラシの量は36億本に上るといわれるが、宿泊者が変わるたびに廃棄されるホテルのアメニティも地球環境に大きな負荷を与えている。

今回はこの問題を解決する方法のひとつとして竹製歯ブラシを開発した、株式会社豊和の山本美代さんにお話をうかがった。同社は高度経済成長期に山本さんの母親が創業し、ホテル・レストランの店舗設計や消耗品の卸売などを手がけてきた会社だ。プラスチック消耗品の販売もしてきた同社だが、2代目の山本さんは2017年にDiNiNG+という事業を立ち上げ、竹製歯ブラシなど環境に良いソリューションの開発に取り組んでいる。

「戦後の日本を盛り上げてくれた世代をリスペクトしつつも、 いま環境のことが問題になっている中、プラスチックを販売してきた企業の責務として、私の代では自分たちなりのソリューションを提示したいと思っています。」

そう語る山本さんに竹製歯ブラシの開発経緯や、メイン事業である店舗向けコーディネートでの取り組みについてお話をうかがった。

竹歯ブラシ

竹歯ブラシ

日本の竹は使えない?国内で竹製歯ブラシを作ることの難しさ

もともと脱プラスチックに関心があり、ポリ乳酸(PLA)からできた土に還るプラスチックでオリジナルブランドを作るというようなアイデアの実現に向けて奮闘していた山本さん。自身がホテルに泊まったときにプラスチック製歯ブラシを見て、膨大な量の歯ブラシが日々廃棄される現状を変えたいと使命感を持ったという。そこで思いついたのが、竹製歯ブラシの開発だ。

早速、日本中にある歯ブラシの製造会社に電話をかけた山本さんだが、一緒に取り組んでくれる会社は見つからなかったという。その理由は、従来のプラスチック製歯ブラシと竹製歯ブラシとでは作り方が全く違うからだ。例えばプラスチック製歯ブラシは、射出成形で型に材料を流し込んで作るが、竹製歯ブラシを作るには竹を細かく切る作業が必要になる。

竹製品を製造するための設備や機械を新しく準備すること自体は決して難しくないが、意外と竹製品が普及していない日本において、竹製歯ブラシという新しいチャレンジのために設備投資に乗り出す会社は現れなかった。

そこで山本さんは今度、歯ブラシがダメなら竹のほうからアプローチしようと、日本にある割り箸の製造業者に連絡を取り始める。しかしそこで判明したのが、日本の竹は適切に管理されていないがゆえに製品に使えないという現実だった。竹製品が売れるマーケットのない日本では竹を管理する意味がなくなり、質の悪い使えない竹ばかり育つという悪循環に陥る。

そういった障壁を目の当たりにした山本さんは、最初のステップとして、より状態の良い竹が取れる中国で歯ブラシを製造することを決めた。今同社が販売している竹製歯ブラシは、管理の行き届いた中国の竹を使い、中国の工場で製造したものだ。

「ゆくゆくは日本でも製造したいと思っています。そのためにも微力ながら、竹が売れるマーケットを大きくしていきたいです。紙ストローが日本で一気に普及したのを見て、特に日本ではムーブメントを起こすことが重要で、アメニティにしても何かがきっかけで文化が変われば一気に浸透する可能性があります。そういう意味ですごく期待が持てる国ですし、弊社もそのときに向けて地道に活動していくつもりです。」

ミーティング風景

サステナブルなものは本当に「高い」のか?

様々な企業努力の結果、同社の竹製歯ブラシは通常のプラスチック製歯ブラシの約2倍の価格で提供されているという。(大量購入の場合は割引あり)。山本さんは、これは決して竹製歯ブラシが高いのではなく、従来のプラスチック製歯ブラシが安すぎるためにこの価格差が生じているのだと話す。

「今までホテルがアメニティを仕入れる際の標準的な価格が安すぎたため、ホテル向けのアメニティを販売する多くの会社が儲からずに辞めていってしまいました。弊社の竹製歯ブラシは高いとホテルから言われることが多いのですが、私はこういった業界の現状も変えたいと思っています。」

同社のケースに限らず、一般的に「サステナブルなものは高い」と言われがちだ。しかしそれは従来のものが安すぎるがゆえに、高く見えているだけなのかもしれない。そもそも、ものづくりをする人たちに適切な対価が支払われているのか。高い、安いと言うまえに、この点に注目することが大事だと気付かされた。

ブランドのロゴは、山本さんの名前「美代」からとったもの。| Image via 株式会社豊和 DiNiNG+

次に目指すのは、サステナブルな歯磨き粉の開発

竹製歯ブラシは環境に良いアメニティの第一弾として開発された。そこで次の計画についてうかがったところ、歯ブラシとセットで提供するサステナブルな歯磨き粉を開発する予定だという。歯磨き粉に使われているマイクロビーズをなくし、容器はプラスチック製のチューブではなく紙製の袋に入れ、1回で使い切れるようにするという。

お弁当についているおしぼりで、紙製の袋に入っているタイプをたまに見かけるが、イメージとしてはこれに近いと山本さんは説明する。歯磨き粉を入れるのに適したサイズやデザインは、今構想を練っているところだ。さらには竹製歯ブラシとこの歯磨き粉を入れるパッケージを、竹製品を作るときに出る廃棄物から作れないかなど、様々なアイデアを温めている最中だという。

自社での開発となると現状アメニティが中心になるが、他に店舗向けのカップやストローなどの調達も手掛ける同社は、なるべく環境負荷の少ないものをセレクトし、お客さんに提案していくという。さらにはBtoBだけでなくBtoCも視野に入れ、竹製歯ブラシなどのサステナブルなアイテムをオンラインショップでも販売する予定だ。

ビュッフェを環境にやさしくリニューアル。東急ハーヴェストリゾートクラブの事例

アメニティの開発に関するお話も非常に興味深いが、山本さんが代表を務めるDiNiNG+の事業は、備品の調達を含めホテルやレストランなどの空間づくり全体に及ぶ。そこで過去のお仕事のなかで、環境に良いという観点から見て最も成功したと思う事例についてうかがうと、那須にある東急ハーヴェストリゾートクラブの事例を挙げてくれた。

同施設の依頼は、ビュッフェのエリアをリニューアルしたいというもの。山本さんはテーブルコーディネートや食器のセレクトも担当したが、環境に良いということでは壁のディスプレイが特に上手くいったそうだ。

使わなくなった道具をリユースしたディスプレイ①

使わなくなった道具をリユースしたディスプレイ①

使わなくなった道具をリユースしたディスプレイ②

使わなくなった道具をリユースしたディスプレイ②

実はこれらのディスプレイ、同施設に眠っていた使わなくなった道具をリユースして作られている。ホテルではリニューアルのたびに古い食器などがお蔵入りになるという現状を知っていた山本さんは、施設内を捜索してリユースできそうなアイテムを発見した。使用しなくなったものでもスタイリングを工夫することで、新しい価値を生み出せるのではないかと考えるきっかけになったという。

すでにあるものを使いながら新たなイメージを打ち出すのは、クリエイティビティが求められるところだ。「私だけではなく、内装やグラフィックデザインを担当した方も含めた、総合的なデザインの力で実現できたと思っています」と山本さんは話してくれた。

山本美代さん

取材後記

家業2代目として、先代から継承できる部分は継承しながら、時代の変化や自身の関心に合わせて新たな市場を開拓しようと取り組む様子が印象的だった山本さん。「家業イノベーション・ラボ」というコミュニティに所属し、そこでサーキュラーエコノミーをテーマにしたオランダ研修に参加したときのことも、充実感をみなぎらせながら話してくれた。

「日本は企業の9割が中小企業で、なおかつ世界で最も家業が多い国のひとつです。私たちのような中小企業が元気になれば、日本の経済も活性化する。そういう意気込みで取り組んでいます。」店舗運営に関わる「もったいない」をなくしていく山本さんの挑戦を応援したい。

【参照サイト】株式会社豊和 DiNiNG+