私たちが毎日着る衣類はどのように色付けされているのだろうか。昔は植物など天然の染料が用いられていたが、大量生産・大量消費社会がすすむにつれて、いつしか石油やホルムアルデヒド、シアン化物などの化学物質を合成したものに取って替わられた。
染色は、衣類製造の工程のなかでも大量の水と染料を使用し、環境負荷が大きい部分だ。たとえば現在、ジーンズを青色に染めるインディゴ染料を1kgつくるには、100kg以上の石油が必要であり、これが自然界に流出することが環境汚染の一端となっている。一方で、日本でも古くから行われてきた藍染めのような植物由来の染色は手間がかかり、均一にはならないため大量生産には不向きである。
そんな問題を解決するため、米国サンフランシスコで生まれたスタートアップTinctorium社は、自然に発生するバクテリアを用いた発酵技術により、インディゴブルーの染料を作り出した。この研究成果には、同社の共同創立者であるタミー・スー博士が大きく貢献している。スー博士は、砂糖を与えることによってインディゴの素となる前駆体を分泌するバクテリアを設計し、このたび特許も取得した。
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発酵全体のプロセスは2日間で終わり、できあがりのクオリティにも差が出ないためスケーラブルだ。この技術は、インディゴブルー以外にもさまざまな色の染料づくりに応用が可能で、研究が進めば、衣類の染色工程全体にインパクトをもたらすと期待されている。
Tinctorium社の開発は、環境負荷を低減するために、自然由来の染色に立ち返るものだ。しかしバクテリアの開発とテクノロジーにより、利便性を失わずともサステナブルな染色を実現している。
もちろん、手間がかかり量産に不向きだからこそ、自分だけの唯一無二のファッションアイテムとして愛着が持てる人もいるだろう。天然由来の染色が、デザインの観点からも今後さらに価値を高めていく中で、環境の観点、そして人々の労力の観点でもサステナブルな本技術の今後に期待したい。
【参照サイト】Tinctorium