フィンランド発、転んでも立ち上がれるしなやかな強さを育む教育メソッド「See the Good!」

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経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに発表している国際学習到達度調査(PISA)。2018年のPISAでは数学的リテラシー、科学的リテラシー、読解力の3分野における学力調査とともに、生徒の健康や生活満足度、学習環境などについても焦点が当てられた。参加国のなかで唯一、読解力と生活満足度の両方が高い国となったのはフィンランドである。生活満足度調査では、1~10の段階評価で平均が7.61点と、生徒個人の生活に対する満足度がかなり高いことがわかった。

ウェルビーイングを重視した教育を行うフィンランドにて、国内の1,000人以上の教師に採用されているのが「See the Good!」というポジティブラーニングメソッドである。今回編集部は、その開発者のひとりであるロッタさんにお話を伺うことができた。

良さや強みを見つけ、活かす教育

Q:「See the Good!」メソッドとは?

「See the Good!」は、教育者が、社会情動的スキルや強みについてきちんと理解し、生徒に教えるのを手助けするポジティブラーニングメソッドです。ポジティブ心理学の理論や科学的研究に基づいて、生徒の良さや強みを見出し、効果的にウェルビーイングを促進することを目標としています。そのため「See the Good!」では、生徒の間違いを正そうとすることに躍起になるより、生徒がもともと持つ強みに焦点を当てようとします。


△左:共同創業者のカイサさん、右:ロッタさん

フィンランドの教育では、ウェルビーイングが大切にされています。ウェルビーイングを促進する効果的な方法の一つは、子どもたち、若者に彼らの強みを示してあげ、それらをどのように有効活用するかを教えてあげることです。そこで、子どもたちに彼らの性格上の強み、社会情動的スキル(やさしさ、思いやり、根気、自制心など)を効果的に教えるためのツールとして「See the Good!」メソッドを開発することにしました。

Q:なぜポジティブラーニングが大切なのか?

ポジティブラーニングでは良い点や感謝できることを意識的に探して口に出します。それを続けていくと、自分の「世界の見方」が変わってくるんですね。

人間はもともと、ネガティブになりがちな性質を持っています。はるか昔、人間が狩猟・採集生活を送っていた時代のことを思い出してみてください。危険な動物や毒性のある植物、腐敗した食べ物から身を守り、生き抜くためには、リスクや問題点を洗い出して迅速に対処しなければなりませんでした。ですから、人間はあらかじめネガティブな情報を重視するようにプログラムされているのです。ある種のサバイバル・スキルですね。

今日100個の出来事があったとしましょう。そのうち99個は成功で、1つのことを失敗してしまったとしたら、あなたが寝る前に頭に思い浮かべてしまうのはどちらの出来事でしょうか?……わかりますよね。

良い記憶より悪い記憶を思い出す

Image via Pixabay

ネガティブなことは目につきやすい。影響も受けてしまいやすい。だからこそ、私たちはそれに対抗するよう意識してポジティブなものごとをたくさん探さないといけないのです。

また、ポジティブなことに目を向けようとすると、心身の健康に良い結果がもたらされることが研究で証明されています。

例えば、好きな音楽を聴いたり、おいしいモノを食べたり、アロマの香りを嗅いだり、友人と楽しくおしゃべりしたり……自分にとって心地の良いことをすると、リラックスして良い気分になりますよね。なんとなく笑顔が浮かんできて、「周囲から受け入れられている」と感じることができます。すると、よりオープンマインドになり、他人の感情を表す身振りや手ぶり(ソーシャル・キュー)にも敏感になります。他の人に好意を抱きやすくなるんですね。

そういう状態であれば、ご近所さんに話しかけたり、ソーシャルなつながりに参加してみたりしようとも思えます。こうした社会的なつながりは、人間の健康にとって非常に大事なんです。人とのつながりを感じることでオキシトシンというホルモンが分泌され、安心感があり心地よい気分になります。心臓の拍動をつかさどる神経が刺激され、血が巡り、体まで元気になる。免疫力も高まります。体が健やかだと、良い気分になり、良い気分になれば……というように、ポジティブループが起こるのです。

嫌な気分のとき、いらいらを人にぶつけたり、自分や他人を責めたりしては、状況を悪化させるだけ。そうしたネガティブループを断ち切り、一つで良いからポジティブなことを探してみる。そうすることで、自分も周囲もハッピーな気分でいられるのです。ね、試してみない理由なんてないでしょう?

ポジティブループ

ポジティブループ

失敗しても立ち上がれるしなやかな強さを……

Q:「See the Good!」メソッド開発の経緯は?

「See the Good!」を開発することにしたのには、自分の経験が大きくかかわっています。私はもともと大学院で「子どもの識字障碍やうつ」についての研究をしながら、学校で特別養護教師として働いていました。生徒たちを独り立ちできるよう助けたいという思いからでしたが……当時は、子どもたちの足りない部分を探しては指摘する毎日を過ごしていて。自分の気分も落ち込んで、ネガティブなループの中に入り込んでしまったような感じがしました。そんなときに「ポジティブ心理学」と出会い、これまでとは違ったアプローチで子供たちと接してみようと決意したのです。

「~しなさい!」「~したらだめでしょう!」と毎日のように繰り広げていた終わりのない言い合いバトルをやめて、生徒の良いところをできる限りたくさん見つけて、褒めるようにしました。いつも靴を脱ぎっぱなしにしていく子どもが、靴をきっちりそろえられた──ほんの小さなことでも、たったひとつでも前進していたら「すごいじゃない!」とその場で褒めました。他の子どもたちがいる前でも「みんな、今日は○○さんがこんなことをしてくれたよ!助かったね!本当に素晴らしい行動だよね!」というように感謝の言葉を送りました。

きちんとそろえられた子供靴

Image via Pixabay

そんなことを続けていくと、子どもたちの表情が前よりも少しずつ明るくなっていくのが分かりました。問題行動にも変化がみられるようになり、いじめも少し減ったようでした。もちろん、それで問題行動がすべてなくなったわけではありません。ですが、少しずつ、でも確実に、子どもたちの自信や自尊心が高まっていくのがわかりました。また、子どもたちの良いところを積極的に探すようになってから自分の気持ちも穏やかになっているのに気づきました。

こうした経験から私はポジティブ心理学の可能性を感じて、大学院の博士仲間と「See the Good!」を立ち上げることにしたのです。


自分の強みを使用・応用することは、幸福感につながるという研究データがあります。強みをうまく使うことができれば、学びの質も向上しますし、人間関係をより充実させることもできます。また、人の強みに目を向けようとすることで、その人のことを好きになりやすくなり、感謝の気持ちもうまれやすくなるのでいじめも減ります。直接的にも直接的でなくても、強みを使うことは一般的な幸福感に大きくかかわるのです。

「See the Good!」が目指すのは、失敗しない完璧な子を育てることではありません。失敗しても立ち上がれるしなやかな強さを持った子どもを育てたい──私たちはそう考えています。

「See the Good!」5つの要素

Q:「See the Good!」の具体的な内容について

「See the Good!」には5つの要素があり、5本の指をそれぞれの要素に見立て説明しています。

▶親指=Positive Feedback(ポジティブな振り返り)

まずは親指。これは「Positive Feedback(ポジティブな振り返り)」を表します。サムズアップのポーズは、「いいね」のマークでもおなじみですね。良い点を探して褒める「ポジティブな振り返り」こそ「See the Good!」最初の要素なのです。

先程、人間は自動的にネガティブに傾いていってしまうようにできていると言いましたね。だからこそ、褒めることによってプラスになるスイッチを積極的に押していく必要があるのです。物事が順調に進んでいるとき、わざわざ「よくやっている」と口にする人は少ないですが、そんなときこそ「褒める」ことが大切なんですよ。

私の好きな言葉の一つ「Respect(尊敬する)」の語源はラテン語のRe(再び)Spect(見る)。つまりRespectは「再度見なおす」ことです。相手を見なおすことで、良さ・強みに気づくことができる。そしてそれが尊敬につながるということです。褒めることなんて何もない、と思ったらじっくりと見なおすことから始めてみたら良いですよ。

サムズアップをする子どもたち

ロッタさん「『See the Good!』を始めて、子どもを褒めるようになった先生たちがなんだか安心したような様子だったのが印象的でしたね。先生たちって、間違っているところを探して、赤で印をつけて、子どもを「正しい」とされるほうへと導いてあげなくてはいけませんよね。ミスを一つ残らず探さなくては!正さなくては!という「赤ペン沼」のストレスから解放されたようでした」|Image via Shutterstock

▶人差し指=Strength Language(強みを表す言葉)

 
何かを指摘するときに使う人差し指が表す「See the Good!」の要素は、「Strength Language(強みを表す言葉)」です。相手や自分を褒めようと思っても、強みを表現するための言葉や概念を知らなければ、褒めることができませんよね。

強みにはどんな種類があるのか、その強みはどうして大切なのか、そしてそれは社会にどう影響するものなのかということをきちんと知ることで、はじめて強みについて語ることができるようになります。

人差し指

Image via Burst

また、様々な強みの種類を挙げられるようになるだけでなく、その強みの概念を「正しく」知ることもとても大切ですよ。

例えば、編み物が好きで毎日何かを編んでいる人が「自分はクリエイティブだ」と思い込んでいるとしましょう。でも、図案を見てそのまま同じものを繰り返し編んでいるだけならクリエイティブとは言えないですよね。この場合、クリエイティブというよりも、プロダクティブ(生産的)というほうが適切でしょう。コンセプトを間違って理解してしまうと、自己理解にズレが生まれることもあるのです。

「○○な力を持っている人ならどう行動するかな?」「こんな行動をとる人は○○な力を持っていると言えるのかな?」と様々な状況下で考えるようにすると、正しく理解することができるようになっていきます。

▶中指=Strength Usage(強みの利用)

 
ポジティブラーニングが目指すのは、困難な状況や大変なときをどう乗り越えるかを考え続ける力を育てること。5本指の真ん中に位置する中指が表すのは、「See the Good!」のコアとも言える要素「Strength Usage(強みの利用)」です。

失敗したとき、困難なときに、自分の強みをどのように利用することができるか?自分の強みを活かして、苦しい状況を乗り越えるにはどうしたらよいか?そうしたことをつねに考える必要があるんですね。

利用しようとするのと同時に、アセスメントすることも大事です。はからないと、成長度合いが分からないですし、大事だということを忘れてしまうからですね。「See the Good!」では、アセスメントのためのデジタルツール「強みのポートフォリオ」を使用しています。点数評価はなく、子どもたち自身がどれだけ頑張ったかを考えて、言葉にして評価するのが特徴です。子供たちには、他人と戦うことを目的にしないこと、強み同士に優劣はないこと、一つの強みにでも取り組めればすごいということを忘れず評価するように伝えています。

アメをもつ子供たちの手

 ロッタさんによると、子供たちは「強みの利用を促進するための策」を自分たちで考えて実行していたという。「自分の強みを見つけようとしていたり、使おうとしたりしている子にアメやバッジをプレゼントする」というのがその一例だ。|Image via Pixabay

▶薬指=Social Connected(社会的なつながり)

結婚指輪をはめるなど、人とのつながりを象徴する薬指。人間関係を構築するうえで自分の強みがどう役立つか、強みを利用して人間関係を良くしていくにはどうしたら良いかなど、「社会的なつながりのなかで自分の強みがどう働くか」を示しています。

世の中にはたくさんの人間がいて、それぞれのなかに良さがあります。だからこそ、できるだけ相手の中に「光」を見出していこう、お互いにいい言葉でフィードバックを与えあっていこうというのが「See the Good!」の大きなテーマの一つなのです。ほかの人のなかに光を見出す、相手が良いことをしていたら、それをしっかり言葉に出して褒める、感謝と尊敬の気持ちを表す──こうして子どもたちはポジティブなフィードバックをするエクササイズとリハーサルを繰り返します。

▶小指=Example(手本)

最後は、小さいけれど、決して侮ってはいけない小指です。これは、お手本を示す側としての私たち、大人のことを示しています。

子どもたちにポジティブラーニングを教えるだけではなく、きちんと模範例にならなくてはいけない──口だけになってしまってはいけないということですね。

強みを知り、上手に使えるようにしていく

Q:「See the Good!」カードについて

これらの5つの要素を効果的にカバーするためのツールとして、私たちは「See the Good!」カードを開発しました。これはカラスのキャラクターと強みの説明が書かれたもので、みんなで見やすい大きなタイプ、持ち運びに便利なハンディタイプ、オンラインバージョンの3つがあります。

強みカードの一例

強みカードの一例

カードの使い方に決まりはありません。例えば、先生が一枚カードを選んで、「これは何のカードだろう?」「リーダーシップって、どんな場面で見つけられると思う?」と生徒たちに尋ねる。あるいは、あるドラマのワンシーンを見せてから「この動画のなかにはどのカードの強みが登場していたかな?」と聞いてみる──といったように、自由な使い方ができます。

また、ハンディタイプには強みカードに加え「感情カード」がセットになっています。

感情カードには「しあわせ」「むかむか」など6つのベーシックな感情を表したカードと、生活のなかのシーンを切り取ったシチュエーションカードというものがあります。「個人ワークをする」「演奏会に行く」などの状況を切り取ったカードを見せて、「こんなシチュエーションのとき、どんな強み(力)が必要かな?」と先生が問いかけるんです。例えば、個人ワークをするシチュエーションにおいては、集中力が必要ですよね。あるいは演奏会で聞く側になるシチュエーションではどうでしょう。見られながら演奏するというプレッシャーに耐える「忍耐」「自制心」あるいは、もうその場をはなれたいなと思っても最後まで聞いて拍手を送る「親切さ」が必要になるかもしれませんね。

「BEING IN AN AUDIENCE(聴衆の中にいるとき)」のカード

「BEING IN AN AUDIENCE(聴衆の中にいるとき)」のカード

「こんなときどんな気持ちになるかな」とも聞きます。もしかすると「こんなつまらない演奏はいやだ」「むかむかする」「音楽はあまり好きじゃない」という子どももいるかもしれませんね。その気持ちは否定しません。けれども、「そんな状況でも相手をリスペクトする気持ちは必要だよね」なんて話をするんです。あるいは、こうした演奏の良さを理解できるようになるためのクリエイティビティや向学心、好奇心も必要かもしれないよねって。

こんな風にシチュエーションのなかで浮かびそうな感情や、そのシチュエーションのなかでどんな強みが必要とされるかをいろいろ結びつけながら考えるんです。とくに、ネガティブな感情は無視されがちですが、悲しみや恐れ、怒りなどは、人間であれば必ず皆がもっている大切な感情です。怒っているのに怒ってなんかいないと言ったり、自分は悲しんだり恐れたりなんかしないと強がったりすることのほうが、よっぽど不自然で大人になり切れていないということだと思います。

ネガティブな感情があるということを知り、うまく付きあって扱っていくことを──怒っているときに感情をむき出しにして怒鳴りあうのではなく、ほかの方法で感情を手放す方法を学ばなくてはいけないのです。そういった意味で、強みと合わせて感情について学ぶことはとても有益なのです。

感情を手放す

Image via Pexels

私がこどもたちに教えていることというのは、あなたたちのなかにはいつでも「良さ」「強み」があって、いつだって誰だってあなたからそれを奪い去ることはできないということ。すべてをはぎ取られたとしても、良さは消えずにあなたのなかにあるのです。自分のなかにもともと備わっているものだということです。私たちは、自分たちが持ち合わせている良さや強みのなかから「いまはどれを使おうかな」と選び出しているだけなのです。持っている素質を、学び、行動に移しながら、強化していくのがポジティブラーニングなんですね。

今すぐ真似できる「強みの履歴書」づくり

Q:今すぐ家で真似できる「See the Good!」は?

子供たちは褒められる機会が少ないと自分の強みを把握することができません。そこで、私たちは「強みの履歴書(Positive CV)」というものを開発しました。これは、ご家庭でも手書きで簡単につくることができますよ。

まずは紙とペンを用意します。紙の真ん中におおきな円を書いて、そこから上下左右に線を伸ばして空間を区切ります。

ポジティブCVを手にして笑顔の子供たち

ポジティブCVを手にして笑顔の子供たち(公式HPより)

真ん中の円は、自分が思う自分の強みや良い点を書き込むスペース。周囲の4つのブロックは、家庭、学校の先生や友達、趣味の友達、クラブ活動のコーチなど、違う属性の人たちから見たその人の良いところを書いてもらうスペースです。

褒める内容は、依然できなかった数学の問題が解けた、スマートフォンを上手に扱うデジタルスキルを持っている、友達の露店でクッキー作りを手伝い起業家精神を学んだ……など何でもOKです。パーティーのオーガナイズが上手、ファシリテーターのスキルがあるなど、学力に関係ないスキルものせることができます。

強みを書くときのコツは少しだけ具体性を持たせること。ただ「優しい」「勤勉」と要素だけを書くのは誰にでもできます。「妹の部屋を掃除してあげていた」「毎日必ず読書をしていた」など、なぜそうだと言えるか分かる小さなエピソードも一緒に書き込みましょう。

この強みの履歴書には写真を貼ったり、自画像を書いたり、自由にデコレーションしてOKです。ぜひ、楽しみながら行ってください。

こうして、自分の強みや良い点、スキルを言葉にして読むことで、自信がつきます。自分の「今」を見つめることで、これからのことや今後どんな人になっていきたいのかについて考えることができます。どこで自分の才能を生かせるかを考えられますし、それは、いつか始まる就職活動にも役立つことですよね。ぜひ、トライしてみてください!

“メンタル・カーボン・フットプリント”に気を配る

Q:教師側が意識しなければいけないことは?

教えるだけでなく、教師もポジティブラーニングをきちんと体現できている必要があると思います。

What do you bring with you?
あなたという存在がその場の空気にもたらす影響は?

ネガティブな空気が蔓延している部屋に、あなたが入っていったとしたら、部屋の雰囲気はどう変化するでしょうか。「みんな感じ悪いな」とあなたまでしかめっ面で入っていったら、部屋の雰囲気は悪化しますね。では、あなたがニコニコして感じの良い挨拶をしたら?少しは部屋の空気が良くなるような気がしませんか?

ネガティブな気持ちは学習意欲を低下させます。恐怖を感じたり、不安になったりするような環境では、記憶力が低下します。つまり、あなたが不機嫌だった威圧感を与えたりしていたら、子どもたちの学びの質はぐんと低下してしまうのです。

この、言葉や行動が周りの人々に与える影響を私は「メンタル・カーボン・フットプリント」と呼んでいます。

自分ひとりの悪い行動や意地悪な言葉がどれほど周囲に影響するかについて、私たちはきちんと心に刻まないといけません。反対に、自分ひとりのやさしさや良い行動が大きな好循環の輪を生み出す可能性があることも忘れないでいてほしいですね。

全ては、自分がいま属しているコミュニティから始まる。私たち大人がどうほかの人と接するか。職員室でいじめがあるようでは、子どもたちに良い影響を及ぼすことはできませんね。すべてはRe/spectから始まるのです。

オフィスで笑い合う大人たち

Image via Unsplash

「See the Good!」は一授業のなかで完結するものではなく、一生を通して学びつづけていくものです。「See the Good!」で学ぶことは人生において重要なものですが、だからといって、通常の学校で学ぶべき教科の学習にとってかわるでものはありません。あくまで学校の学びを支える補助的なものです。もちろん、これさえあれば生徒の問題がすべて解決するというものでもありません。大人たちはこのことも覚えておく必要がありますね。

Q:次のステップは?

「See the Good!」のアイデアを世界に広めていきたいですね。それから、近い将来には、教師や職員全員にポジティブ・ティーチングをきちんと理解してもらい、授業ベースではなく学校生活全体で「See the Good!」メソッドにのっとった強み教育ができたらいいなと思っています。それから、保護者に向けて「ポジティブ・ペアレンティング」についてわかりやすく伝える本や教材などをプロデュースできたらいいですね!

Q:日本の読者にメッセージ

日本には伝統的な教育システムがあり、評価プロセスでは学校で教えられる5教科にフォーカスが当てられているそうですね。また、「引きこもり」が社会問題になっているとも聞きました。ヴァーチャルな友達ではなく、生きた友達を作って。社会的つながりをもっと大切にしてほしいと思います。先生たちには、どうか生徒たちを見るときに広い視野を持ってあげてほしいと思います。もっと、生徒たちにポジティブなフィードバックを送ってあげて。たったひとつのポジティブなフィードバックが、好循環を生み出していくはずです。

ロッタさん

ロッタさん

編集後記

「See the Good!」を紹介するイベントの開会式にて、駐日フィンランド大使ペッカ・オルパナ氏はこうコメントした。

「教育は、株と同じようなものです。今、良いと言われているからといって、この先もずっと良い状態が続くかどうかは分かりません。だからこそ、イノベーティブでありつづける必要がある──そのためのソリューションの一つがポジティブラーニングなのです」

「ゆとり教育は失敗だった」「詰め込み教育は良くない」「あの国の先進的な教育メソッドを日本でも取り入れるべきだ」……私たちはいつも教育における「正解」を求めている。大切な子どもたちをどう育てるか、という議論なのだから、できることなら「間違わずに、最短距離でゴールまで行ける道」を探したくなってしまう。無理もないだろう。

だが、どこかの時代や他の国で成功したやり方が日本に合っているとは限らない。日本で主流のやり方が生徒全員にぴたりとあてはまるわけもない。そう考えると、一つのやり方にしがみついたり、間違い/正解という二元論で語ったりする必要はないと分かる。むしろ大切なのは、「このやり方は自分に合っていなかった」「うまくいかなかった」と分かったときに、再度立ち上がり前を向くことなのではないだろうか。

【参照サイト】See the Good!
【参照サイト】PISA2018 Results(Volume I)
【参照サイト】PISAの読解力が高いフィンランドの子どもは「生活満足度」も高いことが明らかに|フィンランド大使館

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