新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛により、オンラインショッピングの需要が伸びている。その中で深刻化しているのは、配送に使われるパッケージのゴミの問題だ。
配送時に最も使われている容器といえば、段ボール。一つあたり50円程度と比較的安価であり、幅広い商品の配送に使われている。しかし、無数の段ボールが日々、配送車で家々に配達されているさまを想像すると、このままでいいのだろうかと、疑問が湧いてくる。
今回紹介するのは、そんなオンラインショッピングとともに増加する配送パッケージの課題を解決するアメリカのスタートアップ企業「Returnity」だ。同社は、リサイクルペットボトルとオーガニックコットンで作られた配送パッケージの製造と配送管理を行っている。また、企業がサーキュラーエコノミーにスイッチするためのシステム構築のサポートもしている。今回は、ReturnityのCEOであるマイク氏にお話を伺った。
返送式で、何度でも使えるエコ素材のパッケージ
Returnityのパッケージの特徴は、エコ素材で作られた素材であるだけではなく、配送容器を顧客から返送してもらうことを基本とした、繰り返し使えるパッケージであることだ。
この返送式のパッケージをブランドが利用することは、大きく2つのメリットがある。一つ目は、顧客に使用されればされるほど、お金と時間の削減に繋がること。二つ目は、ブランドが持つサステナビリティへの姿勢を明確に示すことができ、顧客も自分の選択に満足できる点である。
Returnityの特徴はそれだけではない。パッケージは全てカスタムメイドのため、多種多様な商品で利用が可能だ。たとえば、返送式の配送モデルが実装しやすい、洋服のサブスクリプションサービスである「Rent the runway」のようなレンタルビジネスが利用している。
最近では、これまで商品を一度配送したら終わりだった企業の利用も増えているという。どのようにすればコストに見合った形でReturnityの返送式パッケージを導入できるかをクライアントと相談しながら、ビジネスモデルや顧客データ、配送フローを徹底的に分析し、商品製作に至るまでのサービスを提供している。
サーキュラーパッケージのビジネスモデルに必要な3つの要素
マイク氏は、Returnityが実戦するサーキュラーパッケージのビジネスモデルの実戦には3つの要素を順番に考えていく必要があると語る。
「一つ目は、プロセスです。クライアントによって生産から商品の受け手に届くまでのプロセスが違うため、一つ一つの事例を見て、どこかを変更しなければなりません。二つ目は、顧客のエンゲージメントです。これまで商品を受け取るだけだった人にとって、“返送する”という行為をいかに負荷なく、実行に移しやすい状態にするか、受け手の参画を促すシステムを考えます。そして三つ目はパッケージデザインです。形状や素材などを含め、どんなパッケージだったら良いか、ぞれぞれのブランドに合ったものをデザインしていきます。」
また、Returnityのパッケージは、一般消費者とブランドをつなぐだけではなく、企業の倉庫から配送センターに商品を運ぶ際にも使われているという。配送センターの職員へ新しいタスクを教育しなければならない負荷は発生するが、これまで一度使ったら終わりだった配送方式がサーキュラーに変わっていく。これこそが、Returnityが社会に導入したい、サーキュラーパッケージのビジネスモデルだという。
きっかけは、クライアントからの依頼だった
Returnityは、展示会や社内ノベルティー用の簡易バックを作るメーカーの一プロジェクトからスピンアウトした組織だ。最初からサーキュラーパッケージに取り組んでいたわけではなく、もともとは展示会や社内ノベルティー用の簡易バックを作るメーカーだったという。古くから付き合いのあったファッションレンタルサービスの企業から、返送時にも使えるエコパッケージの依頼があったことが、サーキュラーパッケージが始まったきっかけだった。
クライアントは出来上がった返送式のパッケージを非常に喜び、これは他のビジネスにも汎用できると考えた。そして彼の投資も受けて、Returnityはバック製造メーカーのビジネスと、サーキュラーパッケージを手掛ける会社に分社化した。
しかし、当時Returnityの社内には、この技術とアイデアをどのようにビジネスとして成り立たせていくのか、財務的にどうしたらスケールアップしていけるのかを知る者がいなかった。そこで、アイデアと技術を「持続可能で実効性のある」ビジネスにするために呼ばれたのが、マイク氏だったという。
新型コロナの影響は長期的にはプラスの面も
新型コロナのビジネスに対する影響については、短期的にはネガティブであるが、長期的に見ればポジティブに取られる点もあると話すマイク氏。
現在のReturnityのコアなクライアントはアパレル企業。外出自粛でオフィスに行くことが減り、洋服の需要が下がったことで、Returnityのクライアントも打撃を受けた。しかし、自宅で過ごす人が多くなったため、内食の需要が伸び、新たに食品やレストラン業界から抗菌加工がされた配送パッケージの問い合わせが次々に来ているという。
商品そのものだけではなく、パッケージを含む企業の取り組み全てがブランドのイメージを形成する今、顧客の体験を左右するのが配送時と実際の使用時に限られることの多いD2C(Direct to Consumer)ブランドは、これまで以上にサステイナブルな配送・パッケージにシフトしていく動きが出るだろうと予想している。
今できることをしっかりと、そして改めて社会を見つめる
最後に、マイク氏に今後どのような取り組みをしていきたいか尋ねると、「今はできることをしっかりとやっていきたい」と、率直な気持ちを教えてくれた。
昨今、Returnityはナショナル・ジオグラフィック誌による「Circular Economy Track of the Ocean Plastic Innovation Challenge」にてファイナリストトップ20に選出された。マイク氏は、オランダのアムステルダムを拠点とするグローバルなイノベーションプラットフォームであり、変革を推進するFashion For Goodが手掛けるアクセラレータープログラムの卒業生として、Returnityの代表を務めている。このアクセラレータープログラムでは、有望なスタートアップ企業のイノベーターに専門知識と成長の機会を与え、彼らがスケールアップするための資金を提供している。
アクセラレータープログラムでは、有望なスタートアップのイノベーターに専門知識と彼らが成長し、スケールアップするために必要な資金へのアクセスを提供しています。
マイク氏は、「プログラムにはよりマイノリティのバックグラウンドを持った起業家も参加しており、日々新しい社会の見方を学びながら良い刺激をもらっています」と、ここでの学びを通じてさらなる成長を遂げたいと意気込みを語ってくれた。
サーキュラービジネスのあり方について常に考え、どうしたらそのシステムが社会に適応できるのか、現実的なところから着実に組み立てていく姿勢がとても印象的だった。
先の見えない今だからこそ、どのように実装可能なビジネスを作っていけるか、広く世の中を見ながら新たな可能性を追究し続けているからこそ、多くの顧客や企業から支持されているのだろう。
【参照サイト】 Returnity