地域に根差し、地域とつながる、イオンの脱炭素戦略

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イオン株式会社は1980年代後半から、いち早くサステナビリティへの取り組みを推進してきた。目下の大きな柱の一つは、脱炭素の取り組みだ。10年以上前の2008年に「イオン温暖化防止宣言」を策定、日本の小売業として初めてCO2削減目標を定めた。2011年には同目標を前倒しで達成。翌年「イオンのecoプロジェクト」を策定し、脱炭素への取り組みを加速させてきた。そして現在は、2018年3月に表明した「イオン 脱炭素ビジョン2050」のもと2050年に向けて脱炭素化を推進している。

上記のように同社は業界に先駆けて脱炭素への道筋を描いているといえるが、今回、「イオン脱炭素ビジョン2050」の意義や目的、具体的内容について、イオン株式会社 環境・社会貢献部 鈴木隆博 部長にお話を伺った。

イオン株式会社 環境・社会貢献部 鈴木隆博 部長

イオンが脱炭素社会の実現に取り組む意義

2018年に同社が公表した資料によると、イオンの年間電力使用量は74億kw/年。日本の電力(8,505億kw/年(2016年))の0.9%はイオンが利用していることになる。そのため、同社が小売業として高い目標を掲げて、脱炭素への取り組みを先導するインパクトは大きい。だが、そもそもなぜ脱炭素に取り組むのか。まずはその意義やこれまでの変遷について鈴木さんに尋ねた。

鈴木さん:イオングループは、国内外約20,000店舗を運営するために多くのエネルギーを利用しており、これに伴い膨大なCO2を排出しています。そのため、低炭素や脱炭素の取り組みを進めるのは必然と考えています。2008年の「イオン温暖化防止宣言」、続く2012年の「イオンのecoプロジェクト」では、2020年までのエネルギー利用量の削減や再生可能エネルギーへの移行、店舗の防災拠点化に向けた整備などの高い目標を掲げて活動を推進してきました。

そうしたなか、近年頻繁に起こる洪水や巨大台風による自然災害が店舗に打撃を与えることから、気候変動に対応しないことにより、リスクが増大することに危機感を持ってきました。さらに、パリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)の採択など、脱炭素が世界的な潮流になっており、脱炭素社会の実現に向けて、これまで私たちが取り組んできたものをさらに進化・加速させる必要がありました。

RE100に加盟。その目的は?

脱炭素社会の実現に欠かせないのは、再生可能エネルギーへの完全移行だ。イオンは、「イオン 脱炭素ビジョン2050」を2018年に掲げると同時に、事業活動で利用する電力を100%再生可能エネルギーに移行させる国際ビジネスイニシアティブ「RE100」に加盟した。改めて同イニシアティブ加盟の目的をお聞きした。

鈴木さん:「イオン 脱炭素ビジョン2050」は、2050年までに店舗で排出するCO2等を総量でゼロにすることを掲げており、2030年にCO2排出量を35%削減(2010年比)することを中間目標としています。これまで進めてきた省エネの取り組みに加えて、利用するエネルギーをすべて再エネにすることを目標としました。RE100に加盟した2018年の段階では、国内の再エネ市場は活性化しておらず、制度も整備中という状況でした。そこで、私たち大口の需要家が再エネ需要を表明することで、市場創出や再エネの低価格化にもつながればと考えました。

再エネ利用拡大へ。イオンのPPA

これまで、FIT制度を中心に再エネ利用を推進してきたイオンだが、さらに利用を拡大するため、PPA(Power Purchase Agreement: 電力販売契約*)モデルの導入を進めている。その際に重要となるのはやはりコストである。

*PPA・・・電力事業者が電力需要家の敷地内等で電力発電を行い、電力需要家がそれを買い取るという仕組み

PPAモデル概略図(イオン株式会社発表プレスリリース(2019年4月18日)より)

鈴木さん:これまで店舗の屋上などに太陽光パネルを設置して、FIT制度(固定価格買取制度)を中心に活用してきました。それに加えて現在は、発電事業者が設置し、発電した電力を、私たちが需要家として買い取るPPAモデルを展開しています。弊社がPPAを進める上でのポイントは、調達する再エネ電力価格が従来の電力と同等程度であること、そして初期投資などのコスト負担がないということです。持続的な店舗運営を可能にするには、リーズナブルな再エネ調達が必要で、持続可能であってはじめてPPA導入店舗を広げていくことができます。

PPAのコスト

日本で展開されている(日本型)PPAでは、需要家のメリットとして、初期費用や管理コストの負担がない形でクリーンなエネルギーを調達できることが挙げられる。遊休資産の活用や電力コストの低減につながることもある。

発電事業者にとっても、パネルを設置するスペースや買い取り先(この場合はイオン)を確保できるなどのメリットがあり、固定価格買取期間が満了した再エネ電力が大量に発生する卒FIT時代において、注目されている形態の一つだ。

イオンは、実際に再エネの電力コストについてはどのように捉えているのだろうか。

鈴木さん:将来的には、化石燃料由来の電力コストは上昇すると私たちは推測しています。一方再エネの発電単価は、海外と比較すると日本はまだまだ下がる余地があります。

再エネの調達コストは、持続的な店舗運営をするために重要なポイントであることから、弊社のPPAモデルでは、従来と変わらないコストで再エネを調達できるスキームを組み立てています。さらに、PPAにより電力コストを削減できている事例も出てきています。

使用電力の100%を再生可能エネルギーで賄うイオン初の店舗として運営するイオン藤井寺ショッピングセンター

PPAモデルを採用しているイオン藤井寺ショッピングセンターの太陽光パネル

WAONポイントを使った再エネの調達

上記のPPAは、店舗の屋上など広いスペースを持つイオンらしい取り組みといえるが、もう一つ独自の取り組みを打ち出している。イオンの電子マネーであるWAON加盟店で利用できるWAONポイントを使った仕組みだ。

WAONポイントを使った仕組みについて(イオン株式会社発表プレスリリースより(2018年11月12日))

2018年11月、同社は中部電力株式会社と提携し、余剰再エネ電力を中部電力に提供した家庭にWAONポイントを付与する仕組みを発表した。以降、四国電力、中国電力とも同様の提携を発表している。これらは、固定価格での買取期間が満了した家庭が対象で、普段買い物をしている店舗で利用できるWAONポイントを獲得できるというメリットがある。イオンにとっては顧客のエンゲージメントを高めながら、クリーンなエネルギーを調達できる。まさにウィンウィンの仕組みといえるだろう。このスキームについて鈴木さんに詳しく説明いただいた。

鈴木さん:今までは店舗の屋上に太陽光パネルを設置し、FITを利用するのか店舗自体で消費するのかを選択しながら実施してきました。しかし、このような自社調達や、先に説明した「オンサイト」のPPAの仕組みだけでは再エネを賄えません。

そうした中、家庭のFITが切れていくことをふまえて、再エネを調達したい私たちと、売りたいお客様をつなぐ何かができないか、と中部電力さんと協議していました。そこで、再エネのCO2フリーの環境価値をイオンに提供いただくことで、買い取り価格に加えてWAONポイントを付与する「オフサイト」型の発想が生まれ、スキーム化しました。予想以上の反響があり、中部エリアのイオンモール3店舗へ供給するまで成長しています。

一方で、「店舗の屋上に太陽光パネルを設置しています」とPRをしても、お客様にとってはなかなか実感が湧きません。家庭からイオンに再エネを供給していただくことで、災害などの非常時対応含め、つながりを感じていただけると思います。これからの時代は、分散型・小規模の電源を融通しあうような社会になっていくと考えています。このサービスは、卒FITの取り組みの一つの好事例になるのではないでしょうか。

社内啓蒙の考え方

イオンは、脱炭素社会の実現をサステナビリティ戦略の大きな柱として進めているが、重要なのは全社一丸となって達成することである。そのため、社内への浸透が鍵となる。どの企業でもそうだが、いかにサステナビリティに関する目標や具体的活動を社内に浸透できるかが成功のカギを握る、といっても過言ではないだろう。300を超える企業で構成するイオングループでは、その規模から、本社が定めた目標達成に向けては、事業部門との連携が不可欠になる。この点について、どのように捉えているのだろうか。イオンの社内啓蒙についてお聞きした。

鈴木さん:イオングループには国内外に約58万人の従業員がいます。サステナビリティの取り組みを現場の従業員に浸透させることが非常に重要だと考えています。脱炭素の取り組みで言えば、その目標達成に向けて店舗で取り組むのはもちろん、お客様との日々のコミュニケーションのなかで、その意義をお伝えする必要があるからです。従業員がお客様に説明できる状態を作る、まずこれをやっていかなければなりません。目的や意義が理解されないまま、取り組み内容だけがクローズアップされることは避けたいところです。

ただ率直に申し上げますと、CO2の話は目に見えないこともあり、従業員にはなかなかピンとこないのも事実です。しかし、店舗の電力コスト削減など、目に見える目標設定をすればわかりやすいと考えています。その結果CO2排出量が下がっていくという流れを描きながら、従業員とのコミュニケーションを心がけています。

サーキュラーエコノミーについて

ここ最近世界を見渡すと、CO2削減にはサーキュラーエコノミーへの移行が必須であるとのレポートや議論がクローズアップされている。

イオンは、2017年7月に「COOL CHOICE」宣言を出し、店舗を「地域の資源循環の拠点」にすべく、サーキュラーエコノミーへの移行に向けた取り組みを進めている。今回のテーマである脱炭素の視点から、イオンのサーキュラーエコノミー戦略についてお尋ねした。

鈴木さん:脱炭素の取り組みにおいて、サーキュラーエコノミーへの移行は必須だと考えています。一方で、取り組み自体が持続可能でなければなりません。現在、店頭での資源回収などを実施していますが、イオンらしい長期的な循環型モデルを構築している最中です。その際に、商品自体も再設計していかなければなりませんが、現在はPB(プライベートブランド)商品がその取り組みの中心です。NB(ナショナルブランド)商品については、メーカーと協働で、さらにはサプライチェーン全体で取り組んでいく、結果としてCO2排出削減の方向に向かうように進めていきます。

コロナ禍において、安全や衛生への意識の高まりのみならず、大量に買って大量に廃棄することへの懸念や、リユース思考の高まりも含めた生活様式の見直しが確実に進んでいるように見受けられます。そんな変化をサーキュラーエコノミーにうまくつなげられたらと考えています。ただ、これも弊社単独で実施していくのは難しいため、サプライチェーン全体での連携や官民連携が求められるでしょう。

今後の方向性と課題

最後に鈴木さんは、日本の再エネ市場について、実際の行動が伴った形で機運を高めることが重要だと説いた。

鈴木さん:世界と比較すれば、日本の再エネ市場はこれから本格的に盛り上がっていくことになるでしょう。国内の再エネ価格は、海外から見ればまだまだ高いといえます。現在、RE100には日本からもさまざまな企業が加盟し、ある程度再エネを求める声が挙がっているにも関わらず、調達できる手段には限りがあるのが現状です。

今は再エネがほしいということを表明するフェーズは過ぎ、実際にどのような行動をするのかが問われている段階です。さらに、新技術の開発など、国も含めて最先端技術を実証していくことが求められます。

私たちは、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の活動などを通じ、政府機関への提言なども実施しています。中間目標である2030年までのCO2排出量35%削減という目標の達成は、一社単独では成しえません。社会全体で機運を盛り上げるべくアクションしていきます。

編集後記

日本の電力使用量の約1%を占める国内小売業最大手のイオン。脱炭素への取り組みは、小売業界を超えて大きなインパクトになるだろう。その活動も、各ステークホルダーにとってウィンウィンになるように設計されている。WAONポイントを使った再エネ調達や、イオンモールのような広大なスペースの活用など、イオンだからこそできるものも多くある。

鈴木さんが強調したように、脱炭素への移行を支える基盤は、「地域とのつながり」である。「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」というイオンの基本理念の具現化を脱炭素の取り組みでも実践している。

今回は脱炭素がテーマだったが、そのほかにもイオンは、PBを中心に持続可能な水産資源の活用(MSC・ASC認証商品の開発・販売)や、FSC認証製品の販売・活用、オーガニックやフェアトレード商品の拡充、生物多様性保全などに取り組んでおり、イオンが小売業界のサステナビリティを牽引してきたことは間違いない。今後、脱炭素への移行だけでなく、大量廃棄モデルからの脱却やサーキュラーエコノミーの包括的な仕組みの構築、ウィズ・ポストコロナ社会への適応など、待ち構える山は高い。巨大小売グループの動きは業界内外の道筋に大きな影響を及ぼすとして、その動向が注目される。

【参照】イオン脱炭素ビジョン 2050
【参照】「イオン 脱炭素ビジョン2050」を策定
【参照】脱炭素の取り組みを加速、再生可能エネルギー活用を拡大
【参照】再生可能エネルギーの活用に向けた新サービス提供に関する基本合意について
【参照】イオンの「COOL CHOICE」宣言
【参考資料】「再エネ100%」 「RE100」への挑戦 2020年1月31日 イオン株式会社 環境・社会貢献部長 鈴木 隆博氏資料
【参考サイト】RE100
【参考サイト】日本気候リーダーズ・パートナーシップ

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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