今日食べた物が、どこで誰の手よってつくられたか、皆さんは知っているでしょうか?
調理をした人のことは知っているかもしれません。しかしどれくらいの人が、料理に使われている野菜や米、肉や魚を育てた人の顔を思い浮かべることができるでしょうか?――食べ物を育てる「生産者」と食べる「消費者」、そして料理を提供する「飲食店」。それぞれの距離は今、遠くなっています。
さらに、私たちが生きていく上で欠かせない「食」は、森林破壊や水資源の枯渇、農薬や化学肥料の問題、プラスチック問題、食品ロス、労働問題など、実は多くの社会課題とつながっています。これらの課題について考えるとき、「食」を抜きにして考えることはできないのです。
そんな中、2020年9月29日に、飲食店・消費者・生産者を巻き込み、皆で一緒に「食とサステナビリティ」について考えるイベントを行いました。飲食店のサステナビリティ格付を行うサステイナブルレストラン協会(SRA)とIDEAS FOR GOODの共同開催です。
「Food for good~飲食店からこれからの食のあり方を考えよう~」と題した第一回目のゲストは、ベトナムの大人気レストラン「Pizza 4P’s」のサステイナビリティマネージャー、永田悠馬さん。サステナビリティに取り組む過程を他の多くのレストランよりも正直に、そして詳細に公開しているPizza 4P’sのサステナビリティ施策について、日々直面する課題や試行錯誤している現状を含めてお話いただきました。また、SRAユースメンバーの冨塚由希乃さん、大野いずみさんのお二人も交えたトークセッションでは、飲食店経営者の視点、そして消費者・Z世代の視点からの「これからの食とサステナビリティ」についてお伺いすることができました。
登壇者
▽ゲストスピーカー
永田悠馬さん(Pizza 4P’s Sustainability Manager)
1991年、神奈川生まれ。東京農業大学を卒業した後、カンボジアに渡航。2014年からカンボジアの有機農業や再エネ関連の仕事に携わったのち、2018年にベトナムへ移住。ケンブリッジ大学ビジネスサステナビリティ・マネジメントコース修了。現在はPizza 4P’sのサステナビリティ担当。著書に『カンボジア観光ガイドブック 知られざる魅力』。
▽パネリスト
冨塚由希乃さん(SRAユース)
大野いずみさん(SRAユース)
▽ファシリテーター
富山恵梨香(IDEAS FOR GOOD編集部)
Pizza 4P’sのサステナブル施策について
2011年に第一店舗目が誕生し、現在ベトナム国内のホーチミン、ハノイ、ダナン、ニャチャンで20店舗を展開しているPizza 4P’s。“Make the World Smile for Peace”をビジョンに掲げ、ただ食事を提供するだけでなく、人々の幸せに貢献できるレストランを目指しています。そんなPizza 4P’sで現在行われているサステナビリティ施策について、永田さんにお話いただきました。パッケージ・食品ごみ・リサイクルと調達・エネルギー・評価の5つに分けて具体的にどんな取り組みを行っているのか、お伝えしていきます。
※以下は永田さんの言葉です。
パッケージ&プラスチック袋
冷めたらピザはあまり美味しくないという理由から、これまでデリバリーサービスはしていませんでしたが、ベトナムでも新型コロナの感染が広がり、ホーチミンでもロックダウンが起きたため、今年3月からデリバリーをやらざるを得ない状況になりました。いざ始めてみると、パスタやピザの包装だけでなく、ソースやライム、チーズなどの調味料を入れる容器から、カラトリーやそれを入れる袋まで、すべてプラスチックだと気付きました。あまりのプラスチック製品の多さに危機感を持ち、カラトリーは木製のものに変更、諸々のプラ容器もFSC認証を取得している紙素材に切り替えました。また、紙素材が使えない各種ソースの容器や、自社製チーズのプラスチック包装は堆肥化可能なプラに変えようと試みているところです。
私がサステナビリティ担当になり、一番最初に取り組みをはじめたのがプラスチックの袋です。1年以上もメーカーと協議を重ね、バイオプラ製の堆肥化可能な素材の袋を完成させました。機能はビニール袋と同じですが、素材はトウモロコシのでんぷんからできています。また、Pizza 4P’sのマスコットキャラクターを袋にデザインとして入れたことで愛着を持っていただけたせいか、この袋をマイバックとして二次利用しているベトナム人の方をスーパーで見かけたこともありました。
あとは、スーパーやコンビニなど小売り向けに販売しているプリンなどのガラス瓶を返却制にして、食べた後にお店に戻してくださった方にはもう一つ商品をプレゼントするなどの取り組みも今年8月からスタートして、おかげさまですでに1000個以上の空き瓶が回収されています。
食品ロス
店舗から出るごみを調査したところ、週末は1店舗だけで一日に100キロほど生ごみが出ていることが分かりました。内訳は、ココナッツやカニ、貝殻などの殻、野菜くずと野菜の皮、それから失敗したピザ生地などです。
これらの食品ロスに対して、ミミズコンポストで堆肥化したり、ウサギを飼育して残渣を食べてもらおう、など色々と試みましたが、ミミズやウサギは野菜くず・果物の皮しか食べず、肉や魚、お客様の食べ残しなどは処理できないことがわかり、レストランから出る全ての生ゴミを処理するにはまだまだ限界があることも分かりました。今のところ、人参や玉ねぎなどの野菜くずから出汁をとって料理に再使用する方法は割とうまくいっています。また、地域のガーデンショップと提携し、近い店舗から生ゴミを送ってコンポストもしています。ただ、ガーデンショップの敷地内のスペースが限られているため、現時点では1店舗からしか生ごみを送ることができず、ホーチミン市内の全10店舗からのコンポスト実施となると、少し難しい状況です。
また食品ロスに加えて、チーズを製造する過程で出るホエイという汁の排水が1日に3000リットル出ます。それをどうにか無駄しない方法はないかと考え、オーガニック農園で発酵させて牛の餌にしたり、土の中に混ぜて畑の栄養にしたりと、農業利用しています。また、ホエイを使ったビールやサイダーを作ったり、最近はピザ生地にもられないかと試行錯誤しています。
リサイクル
ワイン瓶やビール瓶を砕いてセメントに混ぜてピザ窯に使用したり、回収したガラス瓶や割れたお皿などをセメントに混ぜることでテラゾー素材のテーブルをつくったりするほか、紙パックをリサイクルしてテーブル、ベンチ、コースターもつくります。ただ、リサイクルする上で最も重要な「分別」に関しては、通常の業務で忙しい中、「手間がかかって面倒くさい」といったスタッフからの声もあり、苦戦しているところです。
調達・エネルギー
できるだけ、誰が作っているか分かるものを提供すること、Farm to tableを心掛けています。現在は、少数民族を雇用している農家さんやカニ漁師さん、シイタケ農家さんなどからも食材を仕入れています。その他にはカフェメニューとして、カカオ豆からチョコレートを作る過程で通常は捨てられてしまう「カカオパルプ」というものを使ったジュース、地元でつくられた天然のはちみつでお菓子やドリンクもつくっています。
エネルギーに関しては、ホーチミンの2区のXuan Thuyという場所にある店舗に、太陽光発電を取り入れましたが、店舗の消費電力の5~10%しかカバーできていません。出来る限り電力の消費量を減らすため、どこで無駄遣いしているかもチェックしているところです。
評価
レストランのサステナビリティ度を測るイギリスでつくられた評価システム、The Sustainability Restaurant Associationをベトナム流にアレンジして評価基準をつくり、実際にPizza 4P’sでもやってみました。結果は34%。決して誇れるような数値ではありませんが、お客様に対しては自分たちのレストランを「過剰によく見せすぎないこと」を意識しており、透明性を大事にしているので、この評価結果をイベント登壇などの場では公表しています。どんな結果でもちゃんと正直に公開する、そのオープンな姿勢に対しては多くの方からポジティブな反応をいただくことができました。今後も定期的に自社のサステナビリティ度を計測していく予定です。
「サステナビリティをなぜやるのか?」を理解すること
次のトークセッションでは、飲食店の目線から永田さんに、消費者・Z世代の目線からSRAの冨塚さん、大野さんにお話いただきました。
富山:まずは、ベトナム人のサステナビリティへの意識について。日本だと新型コロナによって食の関心が高まり、家庭菜園をする人の増加など含め、食のサステナビリティへの意識が高くなっていると感じますが、ベトナムはどのような状況でしょうか?また、現場のスタッフやお客さんである消費者にサステナビリティをどのように伝えていますか?
永田さん:ベトナムの街はポイ捨ても多く、あまり綺麗とは言えませんが、若い人の間ではサステナビリティへの意識は高く、自ら発信をしている人も多くいます。ただ、ベトナムでは日本のように学校で環境問題について触れる機会は少なく、根本的な理解が足りていない場合も多いです。普段使っている電気がどのようにつくられ、どう気候変動に影響しているか知らない人も多いので、なぜやるのか、なぜこのままではダメなのかをスタッフに伝えていくことにしました。具体的には、社内でつくった学習プログラム(アプリでのE-learning)を通して、学び、きちんと理解してもらうことで、サステナブルな行動にはつなげてもらえるように意識しています。
富山:やる意味をきちんと理解しているからこそ、行動できるというのはあるかもしれませんね。今回イベントの参加者の方々からいただいた事前質問の中には、「企業がサステナビリティの向上に努めるとき、経済性と社会性の両立が難しい」という声がありました。サステナビリティは、数字で見えないことも多く、取り組みにくいところもあると思うのですが、永田さんは何か工夫されていますか?
永田さん:サステナビリティの中にはごみの削減や電力削減など、コストの削減につながるものもあります。そこは数字で見えますし、ダイレクトに経済面での価値を感じられると思います。とはいっても、すべてがそういうものではないですし、特にコロナ禍でのサステナビリティに対しては厳しい目線もあります。
私自身は、サステナビリティは地球にとっても社会にとっても良い影響を与えるもので、少し手間はかかるかもしれないけれど幸せにつながるものだと感じています。ごみを減らすことで経済的なコストが減るだけでなく、環境の負荷も減らすことができるように、サステナビリティの効果は「これをやったらこうなる」という直線的なものより、「これをやっったら、これも、あれも、それも効果がある」という風に広くさまざまなところにつながっていきます。「なぜやるのか?」という数値や合理性だけでサステナビリティを理解することは難しく、言語化できない、数値化できない、目に見えない効果をどれだけトップの人たちが理解、意識しているかが重要かもしれません。
食を通した「つながりと循環」
富山:続いてのトピックは、地域コミュニティへの貢献について。Pizza 4P’sさんではどのようにして地域の方々と関わっていますか?
永田さん:いくつか活動していることがあります。Pizza 4P’sのオリジナルクラフトビールの一つであるゆずビールの売り上げの1%をビーチでごみ拾いを行うNGOに寄付しています。あとは、小さなお子さんがいる地域のご家族向けにピザ教室を開き、ちょっとした食育のようなワークショップも行っています。
サステナビリティってシリアスで堅苦しいイメージじゃないですか?Pizza 4P’sでは、それをもっと楽しみつつ学ぶ方が広がっていくと思っていて、「教育(Education)×エンターテイメント(Entertainment)=エデュテインメント(Edutainment)」という考え方を大切にしています。
富山:楽しみながら学ぶ。サステナビリティへのハードルを下げることでさまざまな人たちが取り組みやすくなりますね。次に皆さんにお聞きしたいのが、循環について。これまでに、食を通じて人や自然との交流を感じることはありましたか?
大野さん:最近は、料理を提供するだけでない、人とのつながりが感じられるレストランが増えていると思います。例えばSRAに登録しているレストランの中には、料理に使われている野菜をレストラン内で販売しているところがあります。実際に食べた料理の食材がその場で買えることで、お店の方との会話も生まれるし、ただプレートを通した「ぶつ切りの関係」ではなく、心の交流につながっていると思います。レストランは生産者のストーリーを伝える「メディア」としての役割を持っているということを、認識している飲食店が増えているのではないでしょうか。
冨塚さん:私は以前、銀座のフレンチシェフが規格外の野菜を使って料理を振舞ってくださるイベントに参加しました。イベントには野菜をつくった農家さんも一緒に参加し、野菜の育て方や育てている中で感じること、価値観などをお話してくださり、生産者―シェフ―消費者のつながりを感じました。また、イベントに参加した人の中で、買い物をするときに不揃いの野菜を買うようになったという人もいて、そんな話を聞いたとき、循環が感じられました。
永田さん:普段口にしている食べ物が、生産者さんによってどのようにつくられているのか、どんな思いでつくられているのか考えることは少ないと思っていて、今は分業化、効率化によって消費者と生産者が分断されていると感じています。しかしその分、消費者が普段知りえない、生産者の方々の努力や苦労について飲食店が積極的に伝えていくことが大事で、価値のあることだと思っています。
飲食店・消費者・生産者の選択が社会を変える
富山:レストランこそが生産者と消費者との距離を縮められるハブということを感じますね。最後に、そんな食のハブであるレストランとして永田さんがやっていきたいこと、SRAのお二人は、消費者として何ができるかというところについて教えてください。
永田さん:今年はコロナで経済的に厳しい状況にあるので、コスト削減に繋がるサステナビリティ施策を意識しています。主に、電気・ガス・水の消費量削減ですね。あとは調達です。できるだけサステナブルな方法で作られた食材をつかう。農家さんから直接仕入れて、そのストーリーをお客さんに伝えていくことです。また長期的には、ビジネスにも環境にも大きくかかわるごみの削減をやっていきたいです。
冨塚さん:サステナビリティを意識してやる飲食店や会社は増えていますが、サステナビリティについて広められるのは消費者だと思います。意識が高いレストランだけではなく、高級でないレストランやチェーンでもサステナビリティが浸透していく、当たり前になる世界をつくっていきたいです。また、消費者としてロスを出さないために、残さない、少なめでオーダーするといった行動が大切だと思います。意識することも大事ですが、レストラン側が食材や調達にこだわり、それを消費者にうまく伝えることで、自然と食べる側も食べ物の価値を感じ、残さないようになるかもしれません。
大野さん:サステナビリティとは、丁寧であることだと思っています。自分が消費者で訪れるときも飲食店に対して丁寧に接するということが重要なのではないかと思います。応援したいと思えるようにシェフとコミュニケーションをとって、お店のことを理解しようとするといった地道なことも大事ですし、「意図的な消費」をしていくことが消費者として大事だと思います。人のつながりでいうと、ただの提供者と食べる人ではなく、お客さんがもっと「一緒にその場をつくる人」という認識でレストランを訪れるようになったら、コミュニケーションが生まれて楽しい場になるのではないかと思います。
編集後記
「食とサステナブル」
これだけ聞くと、まだあまりピンとこない人もいるかもしれません。今回、サステナブルな食のあり方をテーマにする中で、「つながり」という言葉を何度も耳にしたように、食のサステナブルとは、実は人や自然、社会課題など広範囲にわたるものだと感じられました。
永田さんがトークセッションの中でおっしゃっていたように、サステナブルとは単純な「線」ではなく、多様な要素と結びつき合う、もっと複雑なもの。飲食店は環境に配慮した取り組みを行うだけでなく、生産者さんにこだわったり、お客さんと丁寧なコミュニケーションをとったりすることも大事なのかもしれません。そして消費者もまた、料理の味だけでない「他の魅力」を飲食店に求めていく必要があるのかもしれません。
トークセッションの中で印象的だったのが、「レストランは、魅力的な料理を提供するだけの場所ではない。従業員もお客さんも楽しく、農家さんとのつながりなどが見えるような空間が提供されることも大事。」という言葉です。
今コロナ禍で、なるべく人との接触を減らし、近距離で話さないことなどが“当たり前”の光景になっています。特に飲食店では、スタッフとお客さんが密なコミュニケーションをとることが難しいかもしれません。しかしそんな今だからこそ、食べ物と丁寧に向き合って自然とのつながりを感じてみたり、食材をつくった農家さんに想いを馳せてみたりと「つながり」について考えてみるのもいいのかもしれません。