日本のサステナブルレストランまとめ【FOOD MADE GOOD 特別番外編】

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飲食店・レストランのサステナビリティに配慮した運営を支援する日本サステイナブル・レストラン協会(以下SRA-J)との共同で、レストランにフォーカスを当てながら、食のサステナビリティを追求するFOOD MADE GOOD連載記事。

今回は、SRA-Jが11月15日に日本で初めて開催した「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2021」における受賞レストランの発表とともに、ノミネートされたレストランの取り組みをまとめて紹介したい。

本アワードはSRAの本部がある英国から始まり、昨年からは香港SRAでも年に一度開催されている。アワードでは、SRA-Jの加盟店の中でも、レーティングで高評価を得た国内の飲食店14店舗がノミネートされ、そのなかでも特に取り組みを推進したレストランに、大賞と部門賞(調達・環境・社会)が授与された。

SRA-Jは、コロナ禍の2020年夏に国内でローンチしてから1年半の活動を経たのち、今回のアワード開催に至った。SRA-J代表・下田屋毅氏は、本アワード開催にかける思いを以下のように語る。

「サステナビリティには、網羅的に取り組んでいく必要があります。たとえば環境や食材調達だけではなく、社会への貢献についても考えていかなければいけません。これまで、フードロスやサステナブル・シーフードなど、それぞれの分野を意識して部分的に取り組んでいるレストランはありましたが、サステナビリティ全体に網羅的に取り組んでいるレストランは表面化していませんでした。

そのなかで現在SRAの加盟レストランは、サステナビリティの全体のフレームワークを学びながら、それぞれ真摯に取り組んでいます。しかし、まだこうした好事例を世の中に発信できておりません。今回のアワードは日本のサステナブル・レストランの取り組みや思いを世の中に伝える機会となりました」

受賞レストランの紹介

FOOD MADE GOOD Japan Awards 2021では、SRA-Jが展開するサステナビリティ指標の結果を用いながら、5人の審査員による協議が行われ、ノミネートされた14のレストランから、大賞と、3つの部門賞(調達・社会・環境)を受賞したレストランが表彰された。
授賞式の様子

haishop cafe(大賞)

神奈川県横浜市にあるhaishop cafeは、牛肉や魚介類を一切使用せず、グランドメニューとしてヴィーガンラーメンなどを提供。また、飲食の提供だけでなく、契約農家の規格外野菜の店頭販売や中高生向けのワークショップ、社会問題をテーマにした映画の上映会など、レストラン・カフェの枠を飛び出した活動も多く行いながら、なぜこれが大事なのかという背景も含めたサステナブルな発信を継続的に行っている。目の前の営業にとどまらず社会への波及的なインパクトを起こしている未来につながるカフェだ。受賞理由は以下の通り。

  • 自社や経営者単体ではなく、地域や従業員をしっかりと巻き込みながら、サステナビリティの新しい取組みを次々と進めている
  • 従業員全員をサステナブルデザイナーに任命し従業員一人一人が自ら考えて工夫し、組織全体で取組みを発展させる仕組み作り
  • 学生や地域、NPOと連携して取組みを進めている
  • 社会的な発信をビジネスと両立している
haishop Cafe 表秀明さん(右)

haishop Cafe 表秀明さん(右)

おみやげを通じて社会課題を解決。買い手、貰い手、そして作り手を幸せにする「haishop」

KITCHEN MANE(調達部門)

同じく神奈川県横浜市にあるKITCHEN MANEは、グランドメニューの表記方法が特徴的。「賞味期限を問うベイクドチーズケーキ」や、「日本の水産資源を救う一皿」といった、お客様がスタッフに尋ねたくなるようなメニュー表記にすることで、サステナビリティに関心のないお客様に対しても気づきを与えられるような工夫を施したり、漁師さんから魚を仕入れる際は、魚種を指定せず未利用魚を箱ごと送ってもらったり、関わる人々を巻き込みながら、サステナブルな取り組みを波及させるために試行錯誤を続けている。受賞理由は以下の通り。

  • 野菜の生産者、魚介類を仕入れている漁師を直接訪問
  • 未利用魚の積極的な利用など基準に沿って確認して調達を行うことで、トレーサビリティの担保
  • 都市部においても地産地消にも積極的に取り組む
  • キッチンメインが掲げている調達方針については、包括的で具体性もあるため、実践につながりやすく、実践効果も高い
  • 調達の際の温室効果ガスの排出量を最小限に抑える取り組み
  • グランドメニューを決めていない
KITCHEN MANE料理長 中神 則幸さん

KITCHEN MANE料理長 中神 則幸さん

レストラン「KITCHEN MANE」に、価格とグランドメニューがない理由【FOOD MADE GOOD#6】

御料理茅乃舎(社会部門)

福岡県久山町にある御料理茅乃舎は、15年前の創業時から、スローフードレストランをコンセプトに据え、必然的にメニューの半分以上が野菜メインのお料理を提供。昔ながらの出汁を使った調理方法は地元のおばあちゃんから教わる。地元の米農家さんから調達しているお米は、毎朝お店で籾摺りから行う。また、西日本最大と言われる茅葺き屋根のお店は、熊本県阿蘇地方の女性が手刈りで刈り取った茅で作られており、日本の伝統を守りながら、料理だけでなく空間全体で日本固有の和のサステナビリティを発信している。受賞理由は以下の通り。

  • 「社会」の項目において、顧客のみならず、雇用している社員を大切にしている
  • 社員が安心して、いきいきと働ける充実した制度があり、スキルアップの支援制度や独自の休暇制度、ワークライフバランスの推進に積極的に取り組む
  • 国内の社会貢献活動団体への寄付活動などのコミュニティの支援
  • 健康と栄養を考慮したメニューの開発をコンセプトとして行っており、顧客から健康に配慮した食事として認知されている
  • アレルギーなどに個別に対応
茅乃舎 浦岡浩二さん(真ん中)

茅乃舎 浦岡浩二さん(中心)

里山レストラン「茅乃舎」に聞く、スローフードとサステナビリティの関係性【FOOD MADE GOOD#7】

BOTTEGA BLUE(環境部門)

兵庫県芦屋市にあるイタリアンレストランBOTTEGA BLUEは、修行時代からシェフの腕に刷り込まれた「もったいない精神」から、端材をパスタソースのだし汁にしたり、失敗したお菓子の生地をオーブンシートの代わりに使ったり、お店内でのフードロスをゼロにする取り組みを当たり前のようにやってきた。

最近ではお店の隣の路地裏農園で有機栽培にチャレンジしたり、パワーシフトを行ったり、若手スタッフの教育に力を入れたり、サステナブルなアクションに次々とチャレンジしたりする、兵庫を代表するサステナブルレストラン。受賞理由は以下の通り。

  • 食材を丸ごと使用し端材を出さない調理法「ノーズ・トゥー・テール調理法」やベジブロス作り、コンポスト等の工夫により、食品廃棄がほぼゼロ
  • 料理の美味しさにつなげながら、食品廃棄を減らす取り組みができている
  • テイクアウト用に、プラスチック製品を一切使用せず、サプライヤーとは通い箱を活用したリユースを行う。無駄な容器包装廃棄物を出さない取組みも行う
  • リサイクルについて従業員教育を徹底
  • 再生可能エネルギーの使用率も100%
BOTTEGA BLUE 大島隆司シェフ(右)

BOTTEGA BLUE 大島隆司シェフ(右)

気付いたら食品ロス「ゼロ」に。兵庫芦屋のイタリアンBOTTEGA BLUE【FOOD MADE GOOD#1】

そのほかノミネートされたサステナブル・レストラン10店

PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO

東京都練馬区石神井公園にある「ピッツェリアジターリアダフィリッポ」は、地産地消や農家と深く関わることが難しい都内で、地元の農家や商店街の住民から愛されるピッツェリア。昨年の5月以降、医療従事者へのサポートを石神井の商店街を巻き込みながら行った。また、今年の夏にはコロナ禍で活気を失ってしまった商店街を盛り上げるため、商店街内の空きテナントを2軒買取り、スタッフみんなで小売マーケットやテイクアウト店をオープンさせた。このように、地域コミュニティへのサポートといった点において特に評価の高いお店。

地域の支え合いが作る、サステナブルな飲食店。石神井のイタリアンレストラン、FILIPPO

BELLA PORTO

大阪府の中心部、中津にあるレストラン「ベラポルト」は、自社農園を構え、そこで採れた野菜をふんだんに使った、健康に配慮した料理プレートを提供。レストランから車で1時間ほどにある畑に、シェフだけでなく若手スタッフも通い、草刈りや土づくりなど、地道な作業も行いながら農家と二人三脚で野菜作りに挑戦している。二酸化炭素の吸収率が良いとされるモリンガの栽培に挑戦したり、端材の堆肥化を始めたりなど、次世代の環境再生に向けた取り組みにも積極的に取り組む。

都心で“地産地消”を実現させた大阪のレストラン「BELLA PORTO」【FOOD MADE GOOD#4】

KIGI

東京都の永田町にあるレストランKIGIは、“サステナビリティとは何か”というところから考え直し、シェフ自身が船に乗り、どのような漁法で魚がとられているかを目で見ながら勉強をしてきた。そして、オープンから約2年経った今では、シェフの地元である福岡県福岡市志賀島漁港から釣りものの魚のみを調達したり、国外調達品は全てフェアトレード製品に切り替えたり、お野菜もなるべく近くの有機栽培農家から仕入れている。さらに、店のスタッフの中でコンポスト大臣を任命し、端材はこまかく切ってコンポストバックに入れてミニマムな循環を実践している。

リーダーも社員も同じSDGs初心者だから。皆で”学びながら”サステナブルな飲食店を目指す「KIGI」の奮闘記

Oppla’! da Gtalia

東京都練馬区、武蔵関にある「オップラダジターリア」は、地元の想いのある生産者から食材を仕入れ、ピッツァだけでなく、パスタや前菜など、野菜をふんだんに活用したメニューを提供。また、子供向けのピッツァ作り教室なども開催したり、障害のある方々が生産に携わっている農作物を仕入れたり、障害者の方の労働支援として、商品のパック詰めを福祉施設にお願いしたりするなど、地域コミュニティへの貢献にも積極的に取り組んでいる。

シンプルに美味しく、サステナブルに。練馬の地元密着型ピッツェリア「OPPLA’!DA GTALIA」【FOOD MADE GOOD #12】

SELVAGGIO

「SELVAGGIO」は、愛媛県の中で一番小さな町の山の上、滑床渓谷という大自然の中にあるピッツェリア。四万十川の源流が流れる滑床渓谷にはとても綺麗でミネラル分も豊富な水が流れている。ピッツァに乗っている食材も、松野町の山菜や、愛媛宇和島の鯛など、地元の旬の食材がふんだんに使われており、まさに、自然と共生するレストラン。ピザ窯の薪は地元の間伐材を使い、焼いた後に出る窯の灰は愛媛の砥部町のお皿の原料になりレストランに戻ってくるというローカルな循環も自然と行われている。

遠方からも人が集まる限界集落のピッツェリア「SELVAGGIO」に学ぶ、オーガニックの裏側の努力【FOOD MADE GOOD #10】

L’OSIER

今年で創業48年目を迎える銀座の「ロオジエ」は、3年連続でミシュラン3つ星を獲得しているフレンチの最高峰。食文化が根強いフランスの料理を空間からサービスまで体現したこのレストランが評価される点は、味だけではない。シェフ自らが全国各地の生産者を周り、信頼できる農家とともに、有機栽培にとどまらず、さらに土壌を改善していくような微生物を使った新しい農法も実験しながら普及をしている、まさにリジェネラティブな取り組みも行う。

シェフ自らが模索する、環境再生型の農法。銀座の三つ星フレンチレストランのサステナビリティ【FOOD MADE GOOD #11】

FARO

東京銀座資生堂ビル10階にある「FARO」は、銀座の地から世界に日本の新しい食文化を発信する場として2018年にリニューアルオープンしたレストラン。 FAROでは、イタリアをキーワードにヴィーガンなど多様性に対応できる料理を提供しており、人気のヴィーガンコースは、ヴィーガンの方だけではなく、“美味しく食べて、体の中から美しく”を求めるお客様にも楽しんでいただくことができる。サステナビリティという考えはここFAROのフィロソフィーの根幹部分を占めており、シェフたちは環境問題という大きな課題にに真正面から向き合いながら料理を作っている。

食品ロス問題をスイーツで表現。東京銀座FAROのシェフが語るサステナビリティとは?【FOOD MADE GOOD#5】(前編)

革新を生み出し、伝統を継承する。FAROのシェフがこだわる「器」のストーリー【FOOD MADE GOOD#5】(後編)

Graal

宮城県仙台市にある「Graal」は、2018年にオープンしたフレンチレストラン。宮城という自然豊かな産地で生まれた素材から季節を感じてもらい、大切に育まれてきた宮城の食文化を伝えたいという想いを持つシェフとオーナーは、東北地方の第一線でサステナビリティの空気を浸透させるため、SRAの東北第一号店として今年からSRAに加盟した。

Graal公式サイト

Niseko Chise Garden

北海道ニセコ町にある「ニセコチセガーデン」は、もともと農家発のレストランのため、ほとんどの食材調達を自社農園から仕入れる。さらに、事業開始当初から環境配慮を根本に据えていたため、自然栽培にこだわり、レストランの建設の建材も環境配慮したもので自分たちで作ったり、野菜だけでなく、甜菜糖や米、紅茶などの栽培にも携わったり、地域の学校の活動にも食の分野で参加したりなど、まさにサステナビリティを網羅的に、そしてローカルに行っている農家レストラン。

Niseko Chise Garden公式サイト

日本料理 富成

「日本料理富成」は、石川県輪島にある完全予約制の和食レストラン。『料理をとおして 能登の里山と人を元気にする』ことを理念に掲げ、食材はほとんど能登地域内から調達。魚介類は、自ら採集した川魚や、能登の漁港で水揚げされる魚介類を中心に使用。また料理長の冨成さんは、レストラン営業だけではなく、町野川漁業協同組合の事務局長も務め、能登半島を中心に、川や里山保全活動や小学校への食育活動なども行っている。

日本料理 富成(ヒトサラ)

編集後記

国内では初めて、レストランのサステナビリティを網羅的に評価したアワードとなったが、受賞レストランも、ノミネートレストランも、自分のレストランが一人勝ちをすることを求めているのではなく、仲間を見つけ、より協働を求めているように感じた。

大賞を受賞したhaishop cafeの表秀明氏は、最後のインタビューで「日本にある数多くのレストランが、食を提供する以上の価値を提供できるような場所になったらいいと思うので、そういった仲間を増やしていきたいと思います」と語った。

また、アドバイザリーボードの専門家やパートナー企業など、さまざまな立場からの参加者が同じ場に集い、サステナビリティの側面でレストランとの連携の道筋を模索できる機会となった。

代表の下田屋氏は、「アドバイザリーボードの専門家には審査に協力いただいたり、パートナー企業には直接レストランのシェフとお話いただいたりするなかで、さらにレストランの現場でのサステナブルな取り組みをより多くの人に知ってもらえるきっかけになりました。」と話す。

来年度は、さらに消費者を巻き込んでいきたいという。

「消費者が、サステナビリティを推進しているレストランを選んでいくような状況になればいいですね。地方では消費者意識もまだ醸成されていない状況ですが、来年度は地方での核となるレストランを増やしていき、地方都市を拠点に国内に少しずつ広めていくことを考えています」(下田屋)

この2021年アワードは、レストランを筆頭に、フードシステムをより良い方向に変えていくムーブメントの第一歩となっただろう。

【参照サイト】日本サステイナブル・レストラン協会
【参照サイト】FOOD MADE GOOD Japan Awards 2021レポート
Edited by Motomi Souma

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