英国発の飲食店サステナビリティ格付、日本で始動。仕掛人の元シェフ松山喬洋氏が語る食の未来

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すべての人が日々何気なくとっている食事。食事の重要性を意識している人は少なくないが、多くの場合は自身の健康面で、というところにとどまるのではないだろうか。

しかし、実際には食は社会のあり方すべてにかかわっている。例えば肉食を含むカーボンフットプリントの多い食生活といった環境負荷の高い食を続けることは環境破壊につながり、それらの消費を続ける事はさらなる負のスパイラルとなっていく。既にアフリカの一部では水や食料をめぐり、紛争がおこっている。一方で、食にまつわる環境問題を意識すれば、気候変動の問題、エネルギーの問題など、様々な環境問題にアプローチすることができる。生産側、提供側、消費側の双方が持続可能な食を追求することで、社会全体を変えていくことができるのだ。

食のあり方、飲食業界のあり方を変えていくため、英国に本部があるSRA(SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION)の日本支部、日本サステイナブル・レストラン協会が立ち上がった。2010年にイギリスで創設されたSRAは、外食産業のサステナビリティを高めることをミッションとし、現在では欧米各国やオーストラリア、南アフリカ、チリなどの世界中の団体と連携している。料理界のアカデミー賞と呼ばれる「ワールドベストレストラン50」という権威あるレストランの格付けにおいて、「サステナブルレストラン・アワード」の評価を行っている団体でもある。日本SRAは、イギリスのSRAと連携を取りながら、国際基準のサステナビリティ格付けを軸に日本における飲食業界のサステナビリティを推進していくことになる。

この動きの仕掛け人の一人が、サステイナブルフードコンサルタント・ディレクターの松山喬洋氏だ。松山氏はこれまで、昆虫アイスの販売を通して食の問題提起を行う「バグズ・アイス」を行うなど、「食×環境」をテーマにさまざまなイベント・店舗・商品のプロデュースを手掛けてきた人物だ。今回は松山氏に、日本SRA設立の意図や今後の展開についてお話を伺った。

話者プロフィール:松山喬洋(サステイナブルフードコンサルタント・ディレクター)

matsuyamasanスフィード 合同会社CEO。サステイナブルフードコンサルタント・ディレクター。食と環境の分野で地方自治体、企業、行政などと食を中心とした持続可能な開発、仕組みづくり、事業・店舗立ち上げ、イベント企画などの支援を行なっている。元料理人で都内有名店修行後、渡伊星付きレストランで修行、自身の店舗経営などの経験も持つ。英国CMI認定国際CSRプラクティショナー資格。一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン事業開発責任者。品川区環境カンファレンスチームEcoRoアドバイザー。

幼少期の自然とのふれあいが原点に

Q:松山氏が「食×環境」を追求するようになったきっかけは?

出身が愛知県豊橋市で、自然がたくさんあり、幼少期は里山を駆け回っていました。新鮮で美味しい食材がまわりに溢れていました。当時は「環境」というテーマは意識していませんでしたが、幼少期に自然と触れ合ったことが原体験として今につながっています。

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松山喬洋さん

環境について意識するようになったのは、料理人修行のためのイタリア滞在中です。食の理想郷であるはずのイタリアで、人々がスーパーマーケットなどで、外国の冷凍食品を食べている状況を見て、サステナブルとは言えない食のあり方に疑問を持ち、生産者の方に話を聞きに行ったり、環境学や経済学の勉強などをして、食のあり方を研究するようになりました。そして食と環境の問題の裏側には、行き過ぎた資本主義や食のグローバリズムなどが根本にあるのだと気付きました。

一方で、イタリアではカフェやレストランを中心にして、人と人とのつながりやコミュニティがうまく構成されていました。歴史的な背景もあって地元愛が強く、地産地消や地元の名物というものがとても大事にされていました。

イタリアから帰国した後、日本で食を通して人を幸せにするために何ができるか、自分にしかできないことは何かと考えました。そのとき、幼少期に自然が好きだったという記憶がつながり、食と環境をテーマに、事業開発・プロデュースを行っていこうと決めました。

「心の揺らぎ」を作ることで、考えるきっかけを与えたい

Q:日本の食の課題は何でしょうか?

食と環境課題への危機意識が国全体として薄く、ビジョンが弱いということが挙げられます。例えば、牛肉などの環境負荷の高い肉食に代わるタンパク質源として世界で様々な開発が行われており、その一つとして昆虫食の開発も行われています。しかし日本では昆虫食はまだまだゲテモノの扱いで、好奇心の域を出ていません。また、マグロやうなぎなどの個体自体の存続が危ぶまれる魚種の消費のあり方や、年間620万トン出ていると言われるフードロスに関しても、今だにはっきりとした改善策がありません。

飲食店がさらなるコミュニティの場となりうるかという点も課題です。イタリアでは、カフェやレストランなどが地域の人々の集まる場となっています。そして、料理人や生産者など食に関わる方々がもっと社会に出て変革(ソーシャルインパクト)を起こしていくべきだと思っています。レストランはそれ自体がコミュニティの場であり、料理人は生産者と消費者をつなぐハブとなるべき存在です。

飲食業界全体の課題としては、他の業界と比べてイノベーションや変革のスピードが遅いという点が挙げられます。どんな変化も遅れてくるんです。そのため、現時点ではサステナビリティに関して取り組んでいる人は非常に少ないです。実際には環境に配慮したレストランもありますが、そういった店にはうまく光が当たっていません。

危機意識の薄さという課題に対しては、企業や個人がアクションを起こすことによって、人々の心を変えていくことが大切だと考えています。2018年夏には、食にまつわる問題を知ってもらい考えるきっかけにしてもらうために、東京・渋谷で「バグズ・アイス」というイベントを行いました。昆虫を練り込んだアイスクリームを販売し、多くの反響をいただきました。10年後は昆虫食がスタンダードになっているかもしれないという想定に基づき、ゲテモノという扱いではなく、素敵なポスターを作って販売したのです。「アイスだと思って近寄ってみたら虫が入っている」とか「ちょっと気持ち悪いけど美味しい」といった心の揺らぎを作ることで、人は「なぜこんな食べ物が作られたのか?」と考えます。すべての事業やプロジェクトにおいて、そのような「マインドセット」を大切にしています。

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「バグズ・アイス」のポスター。

ESGの観点でレストランを選ぶ時代に。地方はチャンス

Q:なぜSRAを日本で立ち上げることになったのでしょうか?

イギリスのSRAの存在を知り、日本でもぜひやりたいということで、イギリスをはじめとする世界各国の組織と連携して、代表理事下田屋をはじめとする各分野の専門家と共に、国際NGOとして立ち上げました。日本の飲食業でサステナビリティを意識している人はまだ多くありませんが、企業においてSDGsが重視されるようになってきたのと同じように、飲食業界においてもESG(環境・社会・企業統治)のような観点が入ることが重要ですし、不可避です。持続可能な食文化のあり方が重要になり、消費者もESGのような指標を見て飲食店を選ぶようになっていくと考えています。

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SRAの認定を受けた飲食店には「FOOD MADE GOOD」のロゴが送られる。

地産地消や自然エネルギーなど、環境に配慮して運営しているレストランは日本各地にありますが、今まではそのようなお店に光が当たっていませんでした。日本SRAが格付けをすることで、環境に配慮したレストランに光を当てることができると考えています。

Q:日本SRAの格付けはどのように行うのでしょうか?

まずは日本SRAの協会員になっていただき、レーティングを年1回行います。基準は大きく分けて11項目からなり、そこからさらに細かな基準分けとなっています。例えば調達・社会・環境の分野では「認証取得食材を使用しているか」、「コミュニティ開発をしているか」等の項目を、サプライチェーンの契約書をもとにチェックします。人権の分野では「労働者への配慮はどうなっているか」、「サプライチェーン上の人権配慮は適切か」、その他「建物は持続可能な建材を使用しているか」、「自然エネルギーを使用しているか」、「バリアフリー対応しているか」等々の項目があります。これらの項目は、イギリス本国の国際基準をもとに、日本独自の水産資源の調達などの評価項目を追加して整理し直しました。

しかし、いきなりレーティングを受けるというのはハードルが高いかもしれません。そこで、イギリスで先行して行われている「One Planet Plate」というキャンペーンを、日本でも実施します。環境に配慮した料理を一品作り、料理のストーリーと写真をアップロードすると、簡易的な評価と合わせてサイトに掲載されるというキャンペーンで、どの飲食店も無料で参加できます。地図上で見られるので、消費者の方にも、「このレストランはこんなサステナブルな料理を出しているんだ」というのを見ていただけます。いきなりすべてをサステナブルな形に変えるのは難しくても、まずは一品、環境に配慮した食事を作ることから始めてみてもらいたいと思っています。

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飲食店が作った料理を投稿できる。2019年7月時点ではイギリスで投稿されたものが英語で掲載されているが、もちろん日本語で投稿できる。

Q:今後の目標や展開は?

まずはSRAの日本での認知を広げ、一年間で300店舗様に加盟いただくことを目標としています。環境に配慮し様々な取り組みをしていらっしゃる飲食店の方々は各地にいらっしゃいますので、それらの店舗をキーとして日本中へ広げていくことができると考えています。

都市と地方の意識の差という課題はあまり感じません。都市部は飲食店が飽和状態にあるので、都市から地方にIターンやUターンし、サステナブルな取り組みをしているシェフの方々もたくさんいらっしゃいます。逆に地方のレストランの方が、地産地消や自然エネルギーの活用など、サステナビリティを追求しやすい面もあります。地方のレストランにとってはチャンスになるはずです。SRAは世界中の団体が連携しているので、評価によって世界中から注目が集まります。

その後の展開としては、世界中のSRAが連携して行う「WORLD FOOD MADE GOODアワード」を日本で開催したいと考えています。また、飲食店だけでなく、生産者、サプライチェーン、消費者までがつながって、皆で変革できるような仕組みも構築中です。例えば、「このような食材を使いたい」というレストランに、生産者を紹介するような仕組みや、それらをもとに消費者が店舗を選べるようなシステムが作れるのではないかと考えています。

イギリスで行われた、WORLD FOOD MADE GOODアワード2018の様子。

食を通して人や社会を幸せにしていきたい

Q:SRA以外に、松山氏ご自身が今後やりたいことは?

人と地球を幸せにする食を追求し、企業、団体、行政などと食を中心とした持続可能な開発、仕組みづくり、事業、商品開発、店舗立ち上げなどの現事業のさらなる拡大と共に、環境に配慮した店舗プロデュースなどの現場作りを行っていきたいです。例えば、すべての人を受け入れるダイバーシティカフェを作りたいんです。アレルギーのある人も、イスラム教徒の方も、離乳食を食べる乳幼児も、皆を受け入れるカフェ。せっかく来たのに食べるものがないというのは、食を提供する場として違うと思います。すべての人を受け入れ、コミュニティの場となれるカフェを作りたいです。他にも、2020年に向けて世界的なフードロスイベントを東京で開催する計画を進めていますし、日本文化×オーガニックティーのカフェもやりたい。また地方創生という面で、行政や自治体と連携して持続可能な食の構築を今後もますますやっていきたいと考えています。

食×環境の分野でやりたいことはたくさんあるので、ぜひ皆さんにお声がけいただきたいです(笑)。

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編集後記

松山氏のインタビューは「食×環境」にとどまらず、日本の社会のあり方やコミュニティの構築といったことにまで及ぶ、奥が深いものとなった。それだけ食が持つ可能性や影響力が大きいということに気づかされた。

消費者の意識が欧米に比べて低いと言われる日本では、サステナビリティの観点でのレストラン評価が浸透するには多少の時間がかかるだろう。しかし遠くない将来、皆がSRAのレーティングでレストラン選びをする日が来るかもしれない。そうして選んだレストランでは、きっと誰もが笑顔になれるコミュニティが存在している。人とつながりたい人も、人と積極的に関わりたくない人も、自然にそこに存在できるコミュニティ。まさに、食が社会や人の幸せを作るのだ。

日本SRAでは現在、参加する飲食店の先行募集を開始している(事務局メールアドレスはこちら)。今後の展開を見守りながら、一消費者として食のあり方に意識を向けていきたい。

【参照サイト】THE SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION