チーズから出る食品ロス「ホエイ」をビールに【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#02】

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ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のSustainability Managerである永田悠馬氏によるオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。サステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰めていく「過程」を追っていく。

前回は「バイオプラスチックバッグ」をテーマに、導入の経緯や、導入により見えてきた利点、今後の課題など、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアしてきた。

▶︎【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#01】現場から考える、バイオプラ製バッグのリアル

※以下は、Pizza 4P’s Sustainability Managerである永田悠馬(ながた ゆうま)さんからの寄稿記事です。

第二回目である今回の「Peace for Earth」のテーマは、チーズ工場から排出され、通常では捨てられてしまう「ホエイ」の再利用についてだ。Pizza 4P’sはベトナムの高原ダラットにチーズ工房を構え、2011年の創業当初からチーズを自社製造してきた。そんなPizza 4P’sの自社チーズを目当てに来店されるお客様も少なくない。しかし、そこで課題になったのがチーズの製造工程で大量に廃棄されるホエイ(乳清)という排水。チーズ作りの原料は牛乳だが、実際にチーズになるのは牛乳の1割ほどで、残りの9割はホエイとして捨てられてしまう。

日々、チーズ工場から大量に廃棄されるホエイ。今回はこのホエイをいかに捨てずに再利用するか、農業への利用やホエイを使ったビール作りといった今までの取り組みや今後の展望など、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアする。

ホエイ

Image via Pizza 4P’s

ホエイとは何か?

そもそも、ホエイとは何か?多くの方がイメージしやすいのが、ヨーグルトのフタを開けたときに上に溜まっている液体。あの上澄液がホエイであり、日本語では「乳清」と呼ばれる。

チーズを作るには牛乳を固形化する必要がある。つまり、牛乳がチーズとして固形化される際に分離された液体がホエイ。いわば、チーズの副産物なのだ。

チーズの製造過程では副産物として捨てられがちなホエイだが、プロテインの原料として使われたり、日本ではホエイを豚の餌として与えることで「ホエー豚」としてブランド化されている事例もあり、最近はその栄養価の高さが注目されている。

ホエイ

ホエイ Image via Pizza 4P’s

毎日3,000Lのホエイをどう処理するか?

一般的にはポジティブなイメージもあるホエイだが、Pizza 4P’sでは長年の悩みの種だった。というのも、お客様が増えてお店も増えていくごとに、チーズの製造量が増える。そして、チーズの製造量が増加すればするほど、それと比例してホエイの排出量も増える。現在、Pizza 4P’sのチーズ工房ではなんと毎日3,000リットルものホエイが排出されている。

さらにその量だけではなく、ホエイの汚水としての濃度は非常に高く、ベトナムの環境基準化では、下水に流してはいけない汚染濃度である。下水に流すと川の汚染につながるホエイは、適正に処理するためには大きなコストがかかっていまうため、世界中のチーズ工房にとって大きな課題となっている。

では、一般的にホエイはどのように処理されているのだろうか?最もオーソドックスな方法としては排水処理設備を導入すること、また最近では、上述したようなホエイプロテイン用のホエイパウダーを製造する粉末化マシンを導入、といった方法が考えられる。しかし、いずれの方法もPizza 4P’sで検討したが、どれも初期投資コストが高すぎて採算に合わないということがわかった。

というのも、Pizza 4P’sのチーズ工場は、世界の一般的なチーズ工場と比べると小規模なのだ。イタリアの大規模なチーズ工場であれば、そういった設備を併設することでホエイの処理が効率的にできるのだろうが、Pizza 4P’sの場合はこれらの設備を導入できるほどの規模ではなく、どうしても採算が合わないという結論に至った。

ホエイを発酵させて、農業に利用

そんなPizza 4P’sのホエイにまつわる悩みに最初に救いの手を差し出してくれたのが、Pizza 4P’sの提携農園の一つThien Sinh Farm(ティエンシンファーム)だった。Pizza 4P’sのチーズ工場から車で30分ほどの場所に位置するThien Sinh Farmは、農薬を一切使わずに、自分たちで飼育している牛の牛糞を使った堆肥を活用するなど、サステナブルな農法でこだわりの野菜を育てている農園だ。

Pizza 4P’sではThien Sinh Farmで育ったルッコラを長年使用しているなど、関係性がすでにあり、そんなThien Sinh Farmがホエイの栄養価の高さに着目し、また立地的にも近いということで、ありがたいことに農場でホエイを再利用してもらえることになったのだ。

では実際、どのように農場で使うのか?Thien Sinh Farmではホエイをまずタンクに入れる。その後、さまざまな有用菌をホエイの中に混ぜて発酵させる。その発酵させた液体を希釈し、作物を定植する前に畑に散布する。そうすることによって、土の中に住む善玉菌が元気になり、作物が病気になりにくなるそうだ。また、栄養価が高いので、農場の牛にも少量を餌に含ませて飲ませているという。近々始まる黒豚の飼育にも使われる予定だ。

ホエイ

Image via Pizza 4P’s

そんなホエイがたっぷり使われた農場で育った健康的な野菜が、Pizza 4P’sのあらゆる料理に使われている。もちろん、ルッコラからホエイの味を直接感じることはできないが、Pizza 4P’sのルッコラが使われているピザやサラダを食べるときには「あ、ホエイが再利用された農場で作られたんだな」と、思い出していただければ幸いである。

ホエイでビール作り

上述した通り、現在チーズ工場から排出されるホエイのほとんどはThien Sinh Farmにて再利用されている。しかし、毎日3,000リットルもの量となると、Thien Sinh Farmにとっては決して少ない量とは言えず、今後さらにチーズ製造量が増えた場合、全てのホエイをこの農場で処理することができなくなってしまう可能性がある。

そんな時にふと思いついたのが、ホエイをビールに使うというアイデアだ。近年、世界的に盛り上がりを見せるクラフトビール業界。クラフトビールはワインよりも味のカスタマイゼーションが容易なため、クラフトビールに食品廃棄物をいれるというアイデアはすでに世界中にある。イギリスのケロッグ社が製造過程で廃棄されてしまうコーンフレークをビールに使ったTHROW AWAY IPA、オランダでは0.00% Witというオレンジやレモンの皮を使ったノンアルコールビール、日本でもパンの切れ端を使ったBreadなどがある。

「ホエイもクラフトビールに使えるのではないか?」という期待を胸に、地元のブリュワリーに相談したところ「面白いアイデアだ!」ということで試作開始。何度か試作を繰り返した後、4P’sオリジナルクラフトビール「Dalat Whey Stout」が誕生した。

Dalat Whey Stout

「Dalat Whey Stout」Image via Pizza 4P’s

スタウトというビールのスタイルは、どっしりとしたテイストと力強い苦味が特徴だが、Dalat Whey Stoutはミルキーな清涼さが特徴。スタウトのテイストは残しつつもサラッと飲みやすく、後味にホエイの風味も感じることができて、夏にはピッタリだ。

もちろん、ホエイを再利用するという点では、ビールに使えるホエイの量はとても限られているので、現実的ではないかもしれない。しかし、こういった食品廃棄物というシリアスな問題について多くの方々に楽しく伝えるには、私たちの生活に身近なビールはピッタリな気がしている。

ピザ生地にもホエイを使ってみる

他にホエイを使う方法はないものか……。そんなことを考え続け、ついにPizza 4P’sではピザ生地にもホエイを混ぜはじめた。

通常、ピザ生地は小麦粉と水を混ぜて発酵させて作る。今回は、このピザ生地に投入する水の一部をホエイに置き換えたのだ。

しかも、ホエイをピザ生地に混ぜ込むことで、焼き上がった後のピザが少し軽い食感になることがわかった。ホエイを再利用でき、さらにピザのクオリティも改善されるという素晴らしい結果を生むことになったのだ。

このホエイをピザ生地に混ぜ込む方法は、まだ1店舗のみで試験中だが、今後ベトナムの全20店舗で切り替えることができれば、毎日およそ300リットルものホエイを再利用できるのではないかと予想している。ビールに使うよりも使用量が多くて現実的かもしれない。

ホエイの活用法

ホエイの活用法 Image via Pizza 4P’s

ホエイは、もはやただの副産物ではない

チーズの副産物として捨てられがちなホエイだが、冒頭でも紹介したようにプロテインとしての活用やホエー豚ブランド、さまざまなドリンクに使われるなど、その栄養価の高さはもはやただのチーズの「副産物」ではなく貴重な「資源」だと言える。

Pizza 4P’sでもビール作りや、ピザ生地に入れて食感が軽くなったことなど、ホエイを使ったからこそ、より美味しいものや、より良いクオリティのものが生み出させるという可能性を導き出すことができた。普段廃棄してしまっているものも、視点を変えれば貴重な資源として活用することができるのだ。このようにただのリサイクルではなく、サステナブルなアクションが物事に新しい価値を生み出すようなアクションに、これからも挑戦していく。

筆者プロフィール:Pizza 4P’s Sustainability Manager 永田悠馬(ながた ゆうま)

1991年、神奈川生まれ。東京農業大学を卒業した後、カンボジアに渡航。2014年からカンボジアの有機農業や再エネ関連の仕事に携わったのち、2018年にベトナムへ移住。ケンブリッジ大学ビジネスサステナビリティ・マネジメントコース修了。現在はPizza 4P’sのサステナビリティ担当。著書に『カンボジア観光ガイドブック 知られざる魅力』。

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【参照サイト】 Pizza 4P’s

Edited by Erika Tomiyama

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