ニューヨークと聞くと、空にかかりそうに高く伸びるビル群が作り出す、摩天楼を思い浮かべる方が多いだろうか。ウォール街、タイムズスクウェアなどには主要ビジネスやエンターテイメントが集まり、24時間365日、活気にあふれている。しかしその活気の裏には、エネルギーの大量消費という課題がある。実は世界中の都市のエネルギー消費の総量は全体の60%以上、二酸化炭素排出量は全体の70%に相当すると言われているのだ(※1)。
そんな環境破壊、気候変動につながるエネルギー消費を減らすべく、今ニューヨークで注目されている取り組みが、2020年10月から開始した「大型建物のエネルギー効率の可視化」だ。25,000平方フィート(約2,300平方メートル)以上の面積を擁する建物を対象に、水利用、エネルギー利用・排出や効率性を一定基準に基づき算出、A~Dの4段階で評価し、その等級を建物入り口付近に掲示することを義務付けるもので、実施しない管理会社には罰金が課せられる仕組み。商業的大型建物を中心としたニューヨーク市内の約4万棟の大型建物がこのルールの対象になる予定だ。
2019年、市議会がパリ協定の目標に沿ったClimate Mobilization Act (気候行動法案 以下CMA)を発表し、2030年までに40%、2050年までに80%のカーボンニュートラル化を目標とするニューヨーク市。建築物におけるグリーンルーフや太陽光システム導入の要求、建物のグリーンエネルギー財政管理の構築、風力発電技術の有効活用の促進などさまざまな計画がCMAに含まれる中(※2)、中核の一つと位置付けられているのが、建物のエネルギー効率改善だ。新設されたOffice of Building Energy and Emission Performance(建物エネルギー及び排出パフォーマンス事務局)が、関係各所との調和をとりつつCMAの掲げるゴール達成を牽引する。
ニューヨーク在住の筆者は、シティの中心部であるユニオンスクエア〜フラットアイロンと呼ばれる地区で、表示を確認してきた。20分ほど意識して歩いた中で、多かったのは BとCのランク。最低ランクであるDもいくつか目にしたが、Aは現状では極めて少ない印象を受けた。特に古く歴史的な建築物が多く残っているエリアであることも、エネルギー効率化の難しさにつながっている可能性が考えられる。
2024年には、このエネルギー効率化対策は次のフェーズに入る予定で、一定のエネルギー効率改善指標にそぐわない事例に対しても罰金が発生するようになる。これにより、市内のエネルギー効率改善を扱うビジネスとの協業を増やし、グリーンエネルギー市場の発展も目指す。一方で、それだけでは排出削減は最大で46%までにしか達しないという予測もあり(※3)、2050年までに80%のカーボンニュートラル化を達成するには、新しいハードウェアやソフトウェア、及び建築素材の導入が欠かせないという指摘もある。
また、ニューヨーク市には飲食店向けの等級評価システムが2010年から存在する(※4)。保健衛生管理の観点から検査を受けた結果を、各飲食店は入り口に掲示する義務があるのだ。この評価管理にはさまざまな意見があるが、全体的に飲食店の調理管理体制と衛生状態の向上に貢献し、市民にも認知が高いと言われている(※5)。
今回ニューヨークで新たに始まった等級評価システムは、商業施設や大型住宅建物でのグリーン化の過程を公開するものだ。排出に関する責任があるのは大型建物やその管理である一方で、それを利用するのは、勤務者・消費者・生活者としての市民。街が一丸となって推し進めるグリーン化の動きとして、注目したい取り組みである。
※1 C40 CITIES
※2 The Exchange The Climate Mobilization Act Overview
※3 AN ASSESSMENT OF ENERGY TECHNOLOGIES AND RESEARCH OPPORTUNITIES
※4 Letter Grading for Restaurants
※5 Impact of a Letter-Grade Program on Restaurant Sanitary Conditions and Diner Behavior in New York City
【参照サイト】Benchmarking and Energy Efficiency Grading
Edited by Tomoko Ito