まだ食べられるのにもかかわらず、捨てられてしまう食品ロスは日本で年間643万トンあるとされている(2019年度発表)。その要因の一つとしてあるのが、食品に設定されている「消費期限」と「賞味期限」の違いのわかりにくさではないだろうか。
保管の仕方によっても異なってくるが、消費期限は、「その日付までは衛生上心配なく食べることができる期限」で、主に品質が悪くなりやすい食品に表示されている。賞味期限は「その日付までは品質が保たれ、おいしく食べられる期限」で、たとえ賞味期限を過ぎても、すぐに食べられなくなるわけではない。
こうした、まだ食べられるのにもかかわらず、賞味期限が過ぎたからといって廃棄されている食品ロスを減らす可能性を秘める仕組みを英国発のスタートアップ「mimica(ミミカ)」が開発した。触れることで“本当の”食品の賞味期限を判断できる鮮度指標ラベル「mimica touch(ミミカタッチ)」だ。
ミミカタッチのラベルの内側にはゼラチン状態のジェルが入っており、食品が腐敗するのと同じ速度でジェルが分離する。腐敗にあわせてラベルが凸凹になるため、ラベルが滑らかであれば、まだ食品は新鮮であることを示す。食品の温度変化に反応するので、冷蔵庫内ではなく室内に置かれた場合、ジェルの分離が早くなり、凸凹になりやすい仕組みだ。
現在ミミカタッチは特許も取得しており、世界中で問題となっている食品ロスの解決策として注目を集めているが、実は最初は食品ロス削減を意図して始まったプロジェクトではなかったという。
「触れる」ことで簡単に食品が安全かどうかわかるように設計されたミミカタッチは、ミミカの創業者であり工業デザイナーのSolveiga Pakštaitė氏が、英ブルネル大学在学中に視覚障がい者の肥満と糖尿病のレベルの上昇を食い止めようとして研究していたときに生まれたアイデアだった。誰もが触覚で食品の安全を判断できるミミカタッチは、食品ロスを削減するだけではなく、子どもや高齢者、視覚障がい者への情報伝達にも役立つのだ。
創業時からこうした「包括性」を事業の中核に持つミミカのこだわりは強い。ラベルに使用されているゼラチンは植物ベースのものであり、完全なヴィーガンラベルだ。さらに、ラベルを使用できるのは1回のみだが、リサイクル可能なものとなっている。価格は、1ラベルあたり1ペニー(1.2~1.3円)(※)。
このミミカタッチは食品から医薬品まで、あらゆる種類の生鮮食品で使用されることが想定されており、現在は乳製品メーカーのArlaを含むいくつかの食品会社で試験中で、数か月以内に欧州で発売が開始される予定だ。こうしたテクノロジーで「食」が抱えるさまざまな課題を解決する、ミミカのようなフードテック企業が、これからの食の未来を変えていくのだろう。
(※)英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)
【参照サイト】 mimica
【参照サイト】 Reducing food waste by touch