盲導犬を訓練する米NPO法人によると、アメリカだけでも毎年75,000人もの人が、失明などの視力障害を新しく抱えているという。そういう人たちと盲導犬をマッチングするサービスはあるが、まだまだ視覚障がい者の数に対して盲導犬が不足しているのが現状だ。視覚障がい者が盲導犬やガイドヘルパーの力を借りなくても、外に出て歩いたり走ったりできる方法はないだろうか。
そんな中、グーグルがスマートフォンに内蔵されたAIの機械学習を用いることで、視覚障がい者が一人で歩いたり走ったりできるアプリの開発に取り組んでいる。「Project Guideline」と呼ばれるこの取り組みでは、ユーザーが腰にスマホを巻きつけて走ると、彼らが地面に塗られた専用の線の左側・右側・真ん中のどこにいるのかを、アプリが検知する。そして、アプリはユーザーが身につけたヘッドホンに音で合図を出し、彼らが線から大きく離れずに進めるようサポートするのだ。このアプリは、インターネット接続がなくても使うことができる。
Project Guidelineは、視覚障がい者に盲導犬の提供を行っているアメリカの非営利団体「Guiding Eyes for the Blind」の協力のもと進められている。このプロジェクトはもともと、同団体のCEOであるトーマス・パネック氏が、2019年秋に開催されたグーグルのイベントで「視覚障がい者が一人で走れる方法はないか」といった「問い」を投げかけたことをきっかけに始まった。
パネック氏がこう問いかけた理由は、彼自身がランニングが大好きな視覚障がい者だからだ。子どもの頃から走ることに自由を感じていたパネック氏だが、遺伝的な影響により若くして失明。その後は盲導犬やガイドヘルパーの力を借りてボストンマラソンなどに参加していたが、同氏には「他者に依存せずに走りたい」という気持ちがあった。また、Guiding Eyes for the Blindで活動するなかで、盲導犬が不足している状況を身近に感じてもいた。
グーグルの開発チームは、パネック氏の夢をかなえるべくプロトタイプの作成に乗り出す。そして2020年8月、パネック氏はこのアプリを使って公園で走ることに挑戦。一人で外を走るという、25年間願い続けてきた夢へのスタートラインに立ったのだ。緑豊かな公園を走り抜けたパネック氏は「雲の中を走るように自由だった」と話し、あまりの嬉しさに感に堪えない様子だった。
Project Guidelineはまだ研究の初期段階にあり、グーグルは今後より多くの視覚障がい者の協力を仰いで、アプリに対するフィードバックを受けていきたいと述べている。視覚障がい者がアクティブに動き回れる機会を手にすることで、彼らの社会参加の機会が広がっていくといい。
【参照サイト】 How Project Guideline gave me the freedom to run solo
Edited by Erika Tomiyama