電気にアクセスできない暮らしをしている人たちは、世界で約9億9200万人(※1)。そのうち、6割以上はサハラ砂漠より南のサブサハラ・アフリカ地域が占めている。ただ、こうした地域でも携帯電話が普及するなど、電気を使う暮らし方が広がりつつあり、たとえば東アフリカのタンザニアの携帯電話普及率は80%にものぼる。しかし、家では携帯を充電する設備が整っていないため、人によっては往復6時間もの時間をかけて歩き、街のショップや充電スポットへ出向いていることもある。
こうした現状を打開するため、米国と韓国に拠点を置くスタートアップのヨーク(YOLK)がユニークなシステムを開発した。それが、「ソーラーカウ(Solar Cow)」だ。
懐中電灯のようなバッテリー付きのライトと太陽光発電を活用した充電システムからなり、充電システムにバッテリーをセットすると、まるで「牛のお母さん」のように、太陽光で発電した電力をバッテリーにチャージしてくれる仕組みだ。電気代が平均収入の15%を占めるため、多くの人々が照明を灯油に頼る中、このシステムは現地のエネルギー事情の改善に大いに役立つだろう。
このシステムには、充電インフラを提供するだけではなく、もう一つの社会課題を解決しようという狙いがある。
ソーラーカウが置かれている場所が学校であること。つまり、携帯のバッテリー「ソーラーミルク」を充電するためには子供たちが学校に行かなければならず、親が仕事で使うような携帯の充電を、子供たちが学校へ行くインセンティブにしようとしているのだ。これまで親が充電のために街に出ている間、家事をしたり家畜の世話をしたりしなくてはらなかった子供たちが、学校教育を受けられる仕組みである。約4時間の充電で1日に使う電力(約6時間分)が充電できるので、授業が終わる頃には充電も満タンになっているだろう。
人口の約68%が貧困ライン以下と、タンザニアの貧困率は高い。その根本的な課題となっているのが教育の普及だ。しかし、貧困によって授業料や制服代などが支払えないといった理由、家事を手伝わなくてはいけないといった理由から諦めてしまうという悪循環が続いている。
充電システムが学校にあれば、親たちが子供たちを学校に行かせてくれるのではないか。取り組みにはそんな思いが込められている。実際、タンザニアのモンドゥリ地区の小学校で行ったパイロットプロジェクトでは前年比で11.4%の出席率向上がみられたという。
充電システムの利用には月に1ドルの費用がかかる。これは現地の人にプロジェクトにしっかり関わってためのインセンティブとして、また2、3年に一度バッテリーを替えるためのメンテナンス費用として活用される。メンテナンスも地元の技術者に行ってもらうため、彼らの収入も増やす仕組みができる。
このプロジェクトはクラウドファンディングで実施費用の募集が行われて多くの共感を集め、3万米ドルの目標に対して10米万ドル以上の費用が集まった。リターンには、ライトの現物が応募者、そして現地の人たちに届くだけでなく、充電状況や学校の出席状況のデータがシェアされるものもある。学びの機会が広がっていく様子がリアルに共有できれば、遠く離れていても応援できている実感が得られそうだ。
今回は特に貧困率が高く、電気へのアクセスがない、タンザニアのザンジバルとキゴマ地域にこのシステムを導入する。キゴマ地域の小学校の卒業割合は8.3%。教育普及を阻む要因は複合的ではあるが、太陽の恵みを活かしたソーラーカウシステムが教育の普及にどう貢献していくのか、今後の進展に期待したい。
(追記 2021年1月27日)日本でもMakuakeでクラウドファンディングが始まりました!
▶ 環境にやさしいSolar Cow & Milk がアフリカの子供を学校へワープ
※1 IEA「World Energy Outlook 2018」
【参照サイト】Solar Cow, Send Underprivileged Kids to School.
【参照サイト】Tanzania Mainland Poverty Assessment: A New Picture of Growth for Tanzania Emerges
Edited by Kimika