1500年続くエシカルな染色技術を、現代へ。京都発草木染め「京都川端商店」

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ファッション産業は、人間の活動によって排出される二酸化炭素量の10%を排出し、2番目に水を多く消費する産業だと言われている。また、ラナ・プラザ崩壊事故に代表されるようなファッションを取り巻く労働の問題点も指摘されつつある。

そうした中で、環境や労働に配慮した「エシカルファッション」の形が模索されており、それを実践する手法の一つに日本の伝統技術がある。元来、他者や自然との共生を基盤に展開されてきた日本の伝統文化。その中でも、草木染めは古来から日本に伝わっていると言われ、日常生活の中に根付く形で伝承されてきた。今回は、そうした約1500年の伝統技術を受け継ぎながら京都で草木染めを用いたものづくりを展開している京都川端商店の主催するワークショップにて会社の話を伺い、さらに社長・川端康夫さんに、学生とともに創ったプロジェクトに関するインタビューを行った。

1500年前からの「新万葉染め」を使ったエシカルなものづくり

大正13年(1924年)に呉服屋として創業した京都川端商店。1995年に呉服屋を廃業し、当時は珍しい石油系のプリントを扱っていたが、従業員たちに化学染料による肌荒れや臭いから生じる頭痛などの健康被害が発生した。社員と対話する中でこの状況をなんとかしたいと思った社長の川端康夫さんは、そのときはじめて自然由来の染料を使用したい気持ちになったと話す。

石油系のプリントは誰でも比較的簡単に、かつ効率的に扱うことができる。しかし環境はもちろん、健康被害など人体への影響も大きい。川端さんは約15年前に当時三重大学名誉教授であった木村光雄氏と草木染めの共同開発に踏み切った。研究の結果生まれたのが「新万葉染め」という、草木や虫などの自然由来の原料をそのまま利用する染色技法だ。例えば、マリーゴールドは黄色、コチニールはピンク、ログウッドは水色と、鮮やかな色に染められる。京都川端商店では実際に、「新万葉染め」の技術を用いてストールを製作・販売している。

「新万葉染め」の特徴は、短時間かつ少量の染料を使用し、加えて常温でも染まるという点だ。川端さんは「新万葉染め」を開発し、草木染めに変えたことで、石油由来の染色を行っていたときと比べ、化学染料では出せない魅力的な色だけでなく、工場に漂う香りが良くなったりと、良い影響が多くあったと話す。また、廃水に関しても、染液や媒染液ともに自然に回帰するものを使用することで環境にも配慮しているという。

染色方法

Image via 京都川端商店

古来からの「新万葉染め」が、汚水問題解決の鍵に

「新万葉染め」開発の背景には、約1500年以上前から日本に伝えられているという草木染めへの関心があった。当時、共同開発を行っていた木村氏には「奈良時代では繊維や布をどのように染めていたのか」という疑問があったそうだ。ガスもない中、焚火のみで100度以上の温度にするのは難しい。そうした中でなぜ染色が可能であったのかに関心があったという。

また、この技術の開発当時、世界的に環境汚染が問題視されていた。実際に京都川端商店はこの時期、手捺染(シルクスクリーン。布に柄をプリントするための技法)でのプリント事業を行っており、使用するインクの廃棄問題や廃水問題を抱えていた。その後、問題を解決するべく、「新万葉染め」を応用した新技術「eプリント」を開発した。この技術は石油系の合成染料は使用せず、天然色素のみでTシャツなどの製品にプリントをする技術だ。使用する材料や補助剤には自然由来のもののみを使用しているため、廃水が出る際には原料が自然に回帰する。この技術を開発する上で培われた経験は、現在の「新万葉染め」による発色や廃水の問題にも活かされているそうだ。

京都川端商店

撮影:小澤茉莉

日本発のエシカルな染色技術を次世代につなぐ

撮影:小森優美

2020年秋には、京都川端商店では初めての取り組みとして大阪・京都のファッション専門学校と協働でプロジェクトを行った。SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」と目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に基づき、廃棄される予定だった無農薬のマリーゴールドを学生たちと収穫。その後、マリーゴールドを乾燥させ染料にし、学生たちはそれぞれマリーゴールドの染料を用いたアイテムを制作するというものだ。作る側・売る側、そして若者を巻き込み、日本の伝統技術とエシカルファッションの繋がりを生み出している。

今後のアパレル業界は、効率性だけではなく、エシカル重視へ

会社について説明をいただいた後に、実際に京都川端商店の社長・川端康夫さんに、専門学校とともに実施したプロジェクトに関してインタビューを行った。

マリーゴールド

撮影:小森優美

Q. 今回どのようなきっかけでプロジェクトをスタートすることになったのですか。

今回のプロジェクトのきっかけは、2019年の大型台風で収穫前のマリーゴールドが全滅状態になり、緊急の調達方法を探さなければならなくなったことでした。大阪の植物園や公園の事務局に、「マリーゴールドを廃棄するのであれば譲って欲しい」、「廃棄物を再利用し自然の恵みを活かして染色を行います」と想いを添えた連絡をしたところ、収穫日程指定の条件で、大阪万博記念公園から許可の返事をいただきました。その後、マロニエファッションデザイン専門学校と上田安子服飾専門学校に相談し、今回のプロジェクトが立ち上がりました。

最近になり大手アパレルも「エシカル」や「SDGs」を謳い始めましたが、そのような中、学校内に適任の講師が不足しているのでははないかということを危惧していました。国内の従来型のアパレルは大きく衰退すると予想しています。「新万葉染め」は現在の草木染めの型にはまらない新しい考えの染め方です。木村光雄先生が古来のものづくりにヒントを得た染色技術を、学生達にも参考にしていただければと思い企画をしました。

Q. 実際にプロジェクトを通して学生たちと交流する中で思ったことや感想を教えてください。

学生の収穫作業は短時間でスムーズに終わりましたし、その後のブランディングも良かったので商品化ができるのではと感じました。初めての取り組みで未完成で終わってしまったものの、産学官連携でSDGs実践モデルになるかもしれないと希望の持てる取り組みでした。

また、今回のプロジェクトで、地球環境に優しいものづくりについても伝えることができたかなと思います。ファッション業界に限らず、社会に出ると必ず効率性が求められる環境に身を置くことになりますが、その中でエシカルなものづくりを選択し、上手く取り入れるファッションの先駆者が現れるのがそう遠くないと感じました。

コロナ禍ではありますが、今回のプロジェクトの経験を活かした商品を携えて2021年3月10日・11日に開催予定の「京都インターナショナル・ギフトショー」にも催事出展する予定です。

取材後記

実際に「新万葉染め」の開発ストーリーを伺う中で、従業員の健康被害や汚水といった課題と向き合い、「エシカル」な染色技術を模索して行った川端さんの研究熱心な姿が印象的だった。

それと同時に、古来から日本に根付く伝統技術を現代に繋いでいく活動は、これからの「エシカルファッション」を考える上で重要な視点であると感じた。歴史を振り返ると、人々は日常生活の中で身近な素材を中心にものづくりをしてきた。そうした自身を取り巻く環境の中でものを作ることで、自ずと他者や自然環境を意識した関係性ができていたはずだ。

現在様々な社会課題が顕在化しているが、その背景には効率重視ゆえに分業化されたシステムによる、他者・自然環境との繋がりの欠如があるのではないだろうか。どのような繋がりの中で物が作られているのかが不明瞭だからこそ、結果として無意識的に環境や労働者を傷つけてしまう。

エシカルといった言葉はあたかも「新領域」を意味するように響くが、実は古来から受け継がれてきた文化に向き合うことこそが、エシカルへの第一歩なのかもしれない。「温故知新」という言葉が示すように、あらためて日本の伝統技術を見つめることで、これからのエシカルのヒントが明らかになるはずだ。

【参照サイト】京都川端商店 新万葉染めについて

Edited by Megumi Ito

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