コロナ禍でむしろ増えた“量り売り”【ドイツのバルクショップオーナーの声を聞く・後編】

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新型コロナウイルスの蔓延で衛生観念が高まる中、ドイツではパッケージフリーで買い物ができるバルクショップ(量り売りのお店)が確実に増えている。ドイツ国内で2020年に新規オープンした店舗は、70店舗にものぼり、さらに約250店舗の新規オープンが計画されている状態だ。

日本にはまだ数が少ないバルクショップの現状について、ドイツ第二の都市ハンブルクにあるバルクショップ関係者に話を聞き、二回に分けて掲載する。前編では、コロナ禍でも地道にビジネスを続けるバルクショップのオーナーたちに焦点を当ててインタビューを行った。

▶️ 前編はこちら:パッケージフリーな暮らしを模索する【ドイツのバルクショップオーナーの声を聞く・前編】

今回の記事ではそんなオーナーたちを陰で支える社団法人「Unverpackt」の理事であり、自身も2つのバルクショップを経営するWittさんに話を聞いた。バルクショップのムーブメントの根底には、一体何があるのだろうか。

Unverpackt e.V.

Image via Unverpackt e.V.

バルクショップオーナーの強い味方、Unverpackt

Q. Wittさんもご自身の店舗を経営していると伺いました。そもそもバルクショップに出会ったのは、何がきっかけだったのでしょうか。

他の多くのオーナーと同様、買い物をする度に発生する大量の包装ごみに自分も悩まされていました。野菜や果物などは普通のスーパーでもパッケージフリーのものが購入できますが、パスタやナッツ、穀類についてはプラスチック包装が当たり前で、どうしたら少しでも減らすことができるのか、答えを探していたんです。そのころ、一人の女性に出会いました。彼女は2016年からすでにゼロウェイスト生活を始めていて、ドイツのZero Waste Lifestyleのブロガーとして活動していました。ごみを削減するための様々なアドバイスを掲載していて、とても良い刺激を受けたのが最初のきっかけでした。こういう工夫ができるのかと、目から鱗だったんですよね。

彼女はすでに自身のゼロウェイストに特化したオンラインショップを運営していましたが、雑貨がメインで、先ほど述べたような生活に必要不可欠な穀類などの取り扱いはありませんでした。そこで私たちはプライベートで仕入れ先を探し、20~30kg単位で穀類を買い付け、近所の人とシェアすることを始めたんです。小さな買い物コミュニティといったところでしょうか。知り合いを招待して、だんだんと輪が広がって、特に何か大きな計画があったわけではないんですが、このような経緯で自然と生まれたのが私たちのバルクショップでした。

Q. そしてその後2018年に社団設立に至ったということですが、始まりの経緯を教えてください。

ドイツ初のバルクショップは、2014年にキールでオープンしました。その後2016年には5店舗に増え、今後の拡大も見据えて早期に社団法人を創設する必要があると感じていました。特に新規店舗の開店に際し、マーケティングやサプライチェーンなど、蓄積されたノウハウを集約し、店舗のオーナーが自由に情報交換できる場を作ることが主な目的でした。今ではマーケティングの知識の共有や、政界への意見投稿なども重要な要素になっています。

Q. バルクショップのオーナーにとって、Unverpacktのような社団法人に属するメリットは何でしょうか。

私たちは、バルクショップのオーナーに向けたメンバー専用ページを持っています。ログインすると、そこには開店に際して必要となる法的書類一式が載っていたり、店舗オーナー同志で意見交換ができる場があったりと、さまざま機能を利用することができるのです。

特に私たちはネットワーキングを重視しているので、先輩オーナーからのビジネスプランに対するアドバイスや、入荷先の情報、商品リストの共有など、開店前後のリサーチにかける多くの時間とコストを削減できるのはメリットでしょう。社団法人では、私たち自身が初めてバルクショップをオープンする際に知りたかった、これがあればもっと早く次のステップに進むことができた、という情報を集約しています。結果的にドイツに店舗を構えるバルクショップのほとんどがメンバーシップを利用してくださっているので、彼らの情報源として機能している良い印かと思っています。

Q. バルクショップ自体は個々のお店ですが、プラットフォームを通してまるで一つの生態系が作られているようですね。

そうですね。各メンバーは個別の店舗のオーナーですが、私たちのメンバーの多くが一種の理想に突き動かされ、それが団結につながっているように思います。そもそも使い捨ての廃棄物を減らしたいというのが一番のモチベーションですから、お互いにSNSを使って共同マーケティングを行ったり、アドバイスをしあったりと、家族的なコミュニティに成長したと感じています。

店舗数が増えるにしたがって、店舗間の距離が近すぎる、ロゴが似ているなどの課題が出てくることもありますが、実際にオーナー同志が集まるようなワークショップの場ではどこかみんなが親近感を持っていて、とても良い雰囲気を保っています。

バルクショップが「地元産」にこだわる理由

Q. ドイツ国内のバルクショップの現状について教えてください。

ドイツ国内には現在379店舗のバルクショップがあります。スタートは2014年ですが、その成長率は目覚ましく、特に2018年から2019年にかけては多くの新規店舗が開店し、バルクショップ元年ともいえるような盛況ぶりでした。地域としては、ベルリンやフランクフルト、ミュンヘンといった都市部での開店が目立ちます。多様な価値観や人種、世代が集まるメトロポリタンでは地方に比べて環境意識も高い人が多く、バルクショップというコンセプトが受け入れられやすい傾向にあるからでしょう。

全体の客層についていうと、性差は特にないようです。女性の方がサステナビリティについて意識が高い傾向がありますが、バルクショップに限定するとそこまで大きな差はありません。年齢的には25~50歳の子育て世代が多いですね。特に子供を持つと環境意識も変わりますから、これは明らかだと思います。客層的にはオーガニックショップで日常的に買い物をしたり、高品質の食品を購入したりすることに違和感のない方が多くいらっしゃっています。

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Q. バルクショップ=オーガニック、ローカル、環境に優しいというイメージがありますが、貴社団ではこれらのコンセプトを前提としているのでしょうか。

われわれの社団法人では、オーガニック商品を取り扱うことを義務とはしていません。しかしながら、廃棄物削減と自然・動物保護はとても距離が近い要素ですから、結果的にほとんどの店舗がオーガニック商品を取り扱っています。稀にあるケースとしては、地元の農家から直接仕入れる野菜など、必ずしもオーガニックではないけれど「地元産」に焦点を当てている店舗もあります。われわれの一番の目的は輸送、消費にかかる廃棄物の削減です。

地元の生産物にこだわるのは、生態系に対しても意味があるからです。せっかくバルクショップで買い物をしているのに、スペイン産の野菜を置いていては、環境インパクトを減らしているとはいえませんから。どうしてもドイツ国内では生産が難しいコーヒーやカカオ、ナッツ類についてはフェアトレード認証をとても重要視しています。生産者に対してフェアな支払いがされていること自体が生態系・自然保護の基礎となっていると考えるからです。

最も重要なコンセプトは廃棄物の削減ですが、一つひとつの問題が重なり合っているので、結果的に多くのコンセプトが共存しているような形になります。

コロナ禍におけるバルクショップ

Q. 新型コロナの広がりによって、バルクショップにどのような影響がありましたか。

パンデミックの影響は、特に非食品分野が大きいですね。雇用状況も悪化しているので、嗜好品や少し高品質(かつ平均よりも高価格)な雑貨などに支払われるお金は全体的に少なくなっているように感じます。また、路面店は特に影響が大きく売り上げも減っていますが、なんとかやっているようです。それでも2020年に新規オープンしたお店は70店を超え、最盛期の2019年とまではいかないものの、この結果にはポジティブな驚きがありました。既存の店舗は確かに売り上げの減少を経験していますが、新規店舗については比較的順調に成長していると聞いています。

Q. ドイツでロックダウンが始まった際、店舗の閉店を考えたことはなかったのでしょうか。

幸いにもバルクショップは生活必需品店のカテゴリーに所属するため、ロックダウン中も営業を許されました。しかし、多くのお客さんが私たちがロックダウン中に閉店していると考えていたようです。特に6月と11月のロックダウンの間の期間には、「またオープンできるようになって良かったですね。」と声をかけられることが沢山ありました。実際にはずっとオープンしていたのですが……(苦笑)。

2回目のロックダウンの際には、SNS等でもオープン時間を積極的に発信するなど工夫を凝らし、誤認による客足の減少を最小限にとどめました。また、パンデミック中の衛生管理は多くの人にとって非常にセンシティブなトピックだったと思いますが、衛生面に関して、もし仮にオーナーである私たちが疑念を持つようなことがあったら、間違いなく閉店しなければならなかったでしょう。しかし、バルクショップとして、もともと衛生管理は徹底して行っていたので、自信をもって店をあけることができましたし、お客さんの大部分もそれを信頼し、残ってくれたのはありがたかったです。

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Q. 目下はコロナ禍で生き残ることがテーマですが、アフターコロナも見据え、バルクショップが更に発展するために、取り組まなければならない課題は何でしょうか。

バルクショップが抱える問題としては、買い物時間の最適化ですね。まだ時間はかかると思いますが、どうやったら買い物時間を効率的に、短縮することができるのか。現状のフローだと、まず持参した容器の重さをはかり、ペンでグラス容器に記入。そのあと商品をつめて、レジで全体の重さから容器の重量を差し引くということをやっています。複数人が店舗内にいる場合はすぐに列ができてしまいますし、すべてのお客さんがそのような時間があるわけではありません。解決策としては、デジタル化を手掛かりに研究を進めています。よりスムーズに買い物をすることができれば、バルクショップ自体はきちんと機能しているシステムですから。

また、「情報源」という包装の役割をどのように代替するかも課題です。栄養バランス、カロリー等は包装に表記された情報を見て、その場で確認できるという利点があります。これもデジタル化で解決できないか考えています。たとえばレシートのバーコードを読み込むとウェブサイトで情報が見られる、といったシステムはとても現実的です。家でゆっくりと栄養素や生産地等見られるようになれば、買い物の際にいちいち確認する手間も省けます。特に当社団の加盟店は必然的に特定のサプライヤーから入荷していることが多いので、こうしたプラットフォームづくりはそこまで難しくないのではないかと考えています。

また、もう少し全体的な技術発展についてお話すると、今後の生活消費財で使用される容器包装はいずれすべてリサイクル材で代替されなければいけません。リサイクル材はまだまだ食料品等、繊細な商品のパッケージングに利用されるほど進化していないのが現状ですが、発展の余地はおおいにあります。今後、包装容器自体が100%リサイクル材を占めるようになることが、廃棄物の削減に直結するでしょう。

Q. 技術の発展以外にも、今後バルクショップの発展に伴い必要となる要素は何でしょうか。

バルクショップの店舗数は増えているものの、ドイツのバルクショップやオーガニック分野についてはフランスやカナダ、オーストラリア等に比べてまだまだ発展途上だと考えています。ただし、長期的なバルクショップの普及はオーガニック専門店と同じような動きをするのではないかと考えています。オーガニックも昔は特定のブランド店に限られていましたが、今では独自店舗と、老舗大手スーパーでの取り扱いの二段構えになりました。大手スーパーでパッケージフリーを実現する場合は、どのサプライチェーンを使い、輸送時のごみを減らすのかなど課題はまだまだ山積しています。しかし、これだけオーガニック商品の品数が格段に増加したのを見ると、パッケージフリーもそれなりの時間をかけて普及し、独自店と老舗スーパーの共存というシナリオが現実になるのではないかと考えています。

ただ、私たち社団としては、大手との協働も大切ですが、バルクショップ自体が一つの認証のような存在に昇華できないかと考えています。バルクショップで買い物をする限り、ごみや輸送距離は最小限、オーガニック、フェアトレード、すべてを満たす場所で、お客さんはいちいち認証を確認することなく安心して買い物ができる。そんなマークになればと思っています。そのために、「どうしたら廃棄バランスを最適化できるのか」「どうやって私たちのビジョンを実践に落とし込むのか」という点はこれからも常に課題となるでしょう。課題解決のために、学術界ともさまざまな共同研究を行っている最中です。

政策面への影響を及ぼすことにおいては、ワークショップやセミナーなどの開催をすることも、とても重要が高いですね。われわれの経験を共有し、他の店舗の実例を提示することで政策立案に貢献しています。最近ではプールの一員になり、政界にわれわれのオピニオンを提供することができるようになりました。社団として政策に進言できる機会があるのはとても光栄なことです。EUとしても廃棄物削減の目標設定を行い、テイクアウトのプラスチック容器包装が禁止となるなど、政策が及ぼす影響は絶大ですから、今後もこのような活動は継続していきたいですね。

Q. 最後に、この記事を読んでくれている方々にメッセージをお願いします。

日本の皆さんにお伝えしたいのは、ドイツ人だからとか日本人だからとか関係なく、廃棄物問題に興味を持ってほしいということ。そして、とにかく何かをはじめてみることです。あらゆる買い物を、すぐにパッケージフリーにする必要はありません。なにか一つ試してみる。最初の一歩は難しく感じるかもしれませんが、確実に次につながっていると思います。

私たちの店では日本の風呂敷も取り扱っています。少し古くさいように感じるかもしれませんが、一歩昔を振り返ってみると、現在の生活に通じる様々なヒントがあるように思います。昔はパッケージなんてものはありませんでした。どうして私たちはこの文化をやめたのだろうか。別に昔のようにラッピングに風呂敷や布を使ってもいいじゃないか。私は個人的にプレゼントをする際はいつも布に包んでやりとりをします。ごみが出る紙のパッケージは、もう私自身をハッピーにするというよりも気に障るようになってしまったからです。本当に素晴らしい日本の文化ですから、ぜひ一度試してください。

「全ては個人がある変化を起こしたいと決断した時に始まる。」

「全ては個人がある変化を起こしたいと決断した時に始まる。」Image via Unverpackt e.V.

編集後記

買い物に行くと、ほぼ99%の商品がなんらかのパッケージに行儀よく包まれている。毎週のごみ回収日にその包装を丸ごと捨てる。そんな当たり前の日常生活には、実は至る所で環境負荷がかかっている。しかし、今回のインタビューを通して感じたのは、「環境問題」「気候変動」「マイクロプラスチック」といった巨大な問題に圧倒されない、小さな行動力の強さだ。

自分ひとりが何か変えたところで、地球がなんだっていうのだ。生きるための食料は必要だけど、自家栽培にシフトして、ゼロウェイストを目指そうなんて、夢のまた夢の話だ。大体包装されていない商品を見つけること自体がほぼ不可能な日本の消費社会で、どうしろっていうのだ。そんな風に考えてしまう自分は、決して一人ではないし、絶望する必要もなかった。

後編で話を聞いたWittさんも含め、オーナーのほとんどがそんな疑問を持った一個人だ。そんな彼らは、店舗経営にとどまらず、その概念を広めるための強靭なプラットフォームまで自分たちで作り上げてしまった。その根底には大きな理想と、小さな行動の積み重ねが垣間見えた。日本でもまた、風呂敷をカバンにひそめて買い物に行くような、そんな日々が来るのだろうか。

【参照サイト】Unverpackt e.V
【参照サイト】ごみをださないお買い物マップ
Edited by Kimika

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