アートを通じて社会問題の「分からない」と向き合う【 UNKNOWN DIALOGUE #1 海の問題 】

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世の中にはさまざまな社会問題が存在し、問題解決に向けて数多くの人々が精力的に取り組んでいる。その一方で、一つ一つの問題が起こっている根本的な原因について深く考える機会は少ないように思う。

たとえば海洋プラスチック問題については、海洋に流れ込むプラスチックが大きな問題となっていることは多くの人が知っているが、その原因を聞かれたらあなたはどう答えるだろうか。プラスチックの存在自体を問題視する人もいれば、プラスチックが自然環境に流出してしまうシステムを問題視する人もいるかもしれない。では、なぜここまで問題になっているプラスチックを人々は未だに使い続けるのか。なぜ自然環境に流出しないシステムを作ることができないのか。そこまで考えていくと、さらに多くの異なる意見が出てくることだろう。

社会問題を解決するためには、その背後にある根本的な原因にアプローチすることが不可欠だが、いざ原因を突き止めようと思っても、なかなか一つの正解を出すことは難しいのが現状だ。なぜなら、一つ問題には色々な要因が複雑に絡み合っており、どこからその問題を論じるかによって見方が変わってくるからだ。プラスチックの問題も、技術やコストの視点から考えるか、ライフスタイルや文化の視点から考えるかで議論の中身は大きく変わってくる。

しかし、根本原因が分からないからと立ち止まっていても、問題が解決されることはない。それでは、この「分からない」に私たちはどのように向き合い、問題の解決に向けて歩みを進めていけばよいのだろうか。

この問いに、「対話」と「アート」を軸に独自のアプローチから挑んでいるのが、RIDE MEDIA&DESIGN株式会社が運営する社会課題解決のための共創プラットフォーム「THE VOTE」だ。THE VOTEでは、社会問題の根本的な原因を次世代ソーシャルリーダーとともに見つけ出し、解決に繋げていく全5回の対話型イベント「UNKNOWN DIALOGUE ~この世界の分からないを分解する~」を開催している。

このイベントの特徴は、社会課題の解決に向けてさまざまな挑戦を行っている若手のアクティビストたちが毎回一つの社会問題に対してその根本原因を対話で深く堀り下げ、最終的にその対話の内容をアーティストがアート作品としてアウトプットするというものだ。

対話からアートを生み出し、そのアートにより対話を生む。UNKNOWN DIALOGUEは、答えのない社会問題に対し、正解ではなく問いを投げかけるアートを通じて多様な視点から対話を促すことで、複雑な要因が絡み合う問題の構造とその根本にある原因を解き明かし、最終的には解決策の実装までを目指す企画となっている。

この「UNKNOWN DIALOGUE」特集では、毎回の対話から生まれたアート作品を通じて、読者の皆さんとともにさまざまな社会問題の根底にある原因を考えていく。第1回目となる今回は、3月に開催された第1回目のダイアログのテーマである「海洋汚染問題」をもとにアート作品を制作した中村直人さんをインタビューした。なぜ、海は汚れていってしまうのか?ぜひ、その問いを頭に思い浮かべながら作品を味わってみてほしい。

対話で深める、海が汚れる原因

イベント冒頭では、なぜ海は汚れていくのかについて、テクノロジーを使って環境保全活動に取り組む株式会社イノカCOO(Chief Operating Officer)の竹内四季さん、NPO法人UMINARI代表理事の伊達ルークさんとスピーカーのアクティビストたちと対話で掘り下げていった。まず、アート作品を見る前に、簡単に当日の議論の内容をおさらいしておく。

海の生き物たちの個性や繋がりが失われている背景には、使い捨てプラスチックや家庭から出る汚水による海洋汚染が存在する。その根本を捉えていくと、そもそも規制自体が無かったり、私たちが流した水がどこへ行くのかに興味がなかったりなどの現状が見えてきた。そして、経済合理性や「豊かさ」自体の見直しといった、社会システムと私たちの意識の変容がこの問題の解決に向けた鍵なのではないか、という対話になった。

そして、この議論をもとに生まれたのが、下記のアート作品だ。

UNKNOWN DIALOGUE “marine pollution” from THE VOTE on Vimeo.

まずは、上記の作品を見て欲しい。あなたは何を感じただろうか?一見サンゴに見えるモチーフから、英単語が派生して生まれていく。見る人によって、さまざまな感想を抱くことだろう。今回は、作品の意図について中村さんに伺った。

話者プロフィール:中村直人さん

1996年生まれ。2019年金沢美術工芸大学デザイン科卒業後、広告会社入社。グラフィックデザインを基軸に置きながらCI、VI、広告などさまざまなプロジェクトに携わる。主な受賞歴として、TDC2019ノミネート、金沢ADCポスター部門賞、世界ポスタートリエンナーレトヤマ入選など。近年の展覧会に「金沢美術工芸大学卒業制作展」(金沢21世紀美術館 /2019)「SICF21」(スパイラルホール /2020)。SNSアカウント:instagram

言葉の力で解像度を高める

中村さんは「対話」に焦点を置いたVOTEのコンセプト全体を意識しながら、第1回目の対話のテーマである「海洋プラスチック汚染」をキーワードに、記事の冒頭にある珊瑚が回転して文字になる作品を制作した。この作品は、中村さんの卒業制作がモチーフになっている。

日本の一般的な森は植物、樹木、落ち葉といった要素で構成されているが、この作品では、回転をし続ける植物が音楽に合わせ学名や分類を示す姿へと変化する。これは、森の中で目を凝らすと見えてくる葉脈の姿や微かに蠢く落ち葉といったものを無機質で人工的な空間の森で表すと、人が記号化し細部まで分類しようとする姿だと言える。また、作品内の音は日本各地の森で採取した音と植物自体が放つ音をポリリズムに組み込んでいる。

中村さん:森は自然の中にあるから「森」であるわけで、木が一切存在しない空間で「森」を表現するとどうなるか?という自分自身の疑問が卒業制作のコンセプトになっています。森って木の群れですが、それぞれの木に焦点を当てると、木の一本一本がもつ特徴や状態が見えてきて、解像度が高まっていきます。これって、私たちが文字を使って物事や事象を分類していくことと同じなのではないか、と。言葉を持っている私たちだけができるピントの絞り方だと思い、制作に落とし込みました。

まさに、「言葉」による対話が展開され、それによって問題に対する解像度を高めていくVOTEのコンセプトにも通じる作品だ。

問題に「近づいて」見る

中村さんは、「VOTEに参加する中で特に印象に残ったのが、社会問題の現場に実際に足を運ぶことの重要性だ」と述べた。

中村さん:自分はVOTEの2回目のイベントにも参加したのですが、現在メキシコを拠点に森林保護活動をしている清水イアンさんが話していた、「問題に一番近いところがメキシコだった」という言葉が印象に残っています。社会に蔓延している問題って、なかなか物理的な距離が見えないと感じます。SNSでは活発に議論されていますが、SNS自体には距離がありません。問題の所在がどこにあるのか、どこに行けばその問題に近いのか、というのを考えるのが面白いな、と。実際に現地に行ってその目で見るのが大事だし、それができる人の意見がちゃんと広まっていってほしいと思いますね。

中村さん自身も、滋賀県の琵琶湖にある沖島で人々の生活を取材したり、奄美大島での泥染めの技術を見学するなど、その地域の生活に入り込みながら作品を制作をした経験がある。一時的な滞在ではなく、数週間滞在してその地域の文化に入り込むと、来た当初は気づかなかった日常生活の「当たり前」の姿に目がいくという。同時に、何がその文化の根底にあるのかが分かっていくそうだ。今後も、個人の活動としてそうした地域に根付く文化をデザインに落とし込みたいと中村さんは話した。

分かりやすい「WOW」より、じっくり煮詰める「Eureka」

さらに中村さんは広告の仕事をする中で、印象的なコミュニケーションの鍵としてブランドが持つ長期的なストーリーの重要性を感じているそうだ。1年に幾度も生まれる広告には、1回で場を盛り上げる派手なイベントやキャンペーンの形もあるが、中村さん自身はそういった形よりも長い時間をかけて聴衆に浸透させていく広告のスタイルに惹かれるという。

中村さん:自分が尊敬するグラフィックデザイナーが、人を驚かせる広告には「WOW」という瞬発的な高揚感と、考えを煮詰めて納得できたときに出る「Eureka」という言葉の2種類があると話していました。「WOW」は、広告を見た瞬間に直感的に理解できる分かりやすいもので、SNSなど「バズる」ことを求める媒体と相性が良いです。後者の「Eureka」は、「WOW」とは異なり、長い時間をかけて徐々に大衆に理解を促し浸透させていくスタイルです。その方の話の中で、「全部広告の正解はWOWではない」という言葉が印象に残っていて。自分は「Eureka」な受け取られ方が好きで自分自身との相性も良いと思っているので、今後もそういったコミュニケーションのあり方を探っていきたいですね。

洗濯表示という隠された大量生産の象徴と、 ワッペンというファッションアイテムを掛け合わせたアートワーク

森だけではなく木も見て、自身の五感に問いかける

今回は海洋汚染問題の原因を掘り下げていったが、アートの見方は社会問題だけでなく自身を取り巻く社会のさまざまな事象に対する捉え方に通ずるものだと思った。

中村さんが卒業制作の際に意識していた、全体を構成する部分一つ一つに焦点を絞るというのは、社会問題の解決策を考えるうえでも重要な視点だ。一般的に、社会問題自体を捉える中でマクロな「森」の議論が先行しがちだが、そうした広い視点での議論だけでは議論の展望に限界を感じる場面があるはずだ。その中で、実際にその問題が生じている場所や問題に直面している人々の声など、ミクロな「木」をしっかりと捉えていくことで、今まで注目していなかった視点に気づいたり自分の体感に根ざした展望が見えたりするのではないだろうか。

SNSなどでさまざまな情報が溢れ、個人でも多くの発信ができるようになった時代だからこそ、そのなかで拡散された情報だけを鵜呑みにせず、実際に問題が起こっている現地へ赴き、自分の五感に問いかけていくことも大切だと感じた。そして、すぐに答えを見つけようと焦らず、長い目で問題をじっくり捉えることで、持続的に社会問題に対して取り組むことができるはずだ。

(※アートを見て感じたことなどがあれば、ぜひTwitterやFacebookなどでコメントをお願いします。)

【参照サイト】UNKNOWN DIALOGUE ~この世界の分からないを分解する~

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