サステナブルな買い物に必要なのは“愛着”。モノへの向き合い方を変えるブランド『lilo』

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「“道具へのカンシャ”を持つことこそが、真のサステナビリティにつながると思うのです。」

昨今、世界中の多くの人々がサステナビリティという言葉に関心を持つようになった。街には、使い終わったら土に還る商品や天然素材を使用した生分解性の商品、廃棄予定のモノをアップサイクルした商品など――人や環境に優しい方法でつくられたさまざまな商品が溢れる。

そんなエシカル消費が注目される今、「道具へのカンシャ」という価値観を提案するのが、滋賀県信楽町のライフスタイルブランド『lilo(リロ)』だ。2021年1月に立ち上がったliloは、現在ダッチオーブン(無水調理鍋)の販売を行う。メンバーは同社代表の堀勝通さん、信楽の陶器屋3代目の古谷阿土さん、信楽の折箱屋3代目の村田敦哉さんの3人だ。

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左から、堀さん、古谷さん、村田さん

「“道具へのカンシャ”を伝えたい。この想いから出発して、私たちはダッチオーブンの販売を始めました。」「思わず愛着の湧いてしまう道具をつくり出すことで、“人間の道具への態度”を変えたいのです。」

liloの3人が考える「思わず愛着の湧く道具づくり」「真のサステナビリティ」とは、一体どんなものなのか――。編集部がお話を伺った。

100年使いたいと思えるモノづくり

ブランド名でありダッチオーブンの商品名でもある『lilo』の由来は、一生ものを表す「Lifelong」や長く使うという意味が込められた「Live long」から来ている。「100年先まで使ってもらえる道具をつくりたい」というメンバーの想いからつけられた。

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身体にも安心の特殊な耐熱陶土が使用されたliloのダッチオーブン。高い遠赤外線効果により、野菜の甘さと水分をじっくりと引き出すため、素材の味を楽しむことができる。

「普段は使っていることを忘れるくらい生活に溶け込んでいるけど、ふと振り返ると、『liloがあることによって楽しい生活ができている』と思える、そんな道具になれば嬉しい。」そう話す道具デザイナーの古谷さん。

「高性能の家電や100円ショップに並ぶ安くて便利なモノ。――“売れる道具”が大量に生み出される現代社会で、私たちの身の周りはモノで溢れています。モノを買うときは、みんなわくわくすると思いますし、購入してしばらくの間は大事に使っていると思います。特に家電などは、5年、もしくはそれ以上長い間使用することも珍しくないでしょう。」

「だけど、同じモノを50年、100年も使い続けますかと尋ねられたら、おそらくほとんどの人が『イエス』とは言えないと思うのです。よっぽどその道具を気に入っていなければ、一つのモノをずっと使い続けることは難しい。」

「モノに溢れ、簡単に捨てられてしまう世の中だからこそ、私たちは、5年ではなく50年、100年先まで使ってもらえる道具づくりに挑戦したかったのです。今こそ、私たち人間は道具への態度を改め、意思のある生産と消費を行っていく必要があるのではないでしょうか。」

消費者に使い方をゆだねるliloのダッチオーブン

大量生産、大量消費の世の中で、人々は道具を大切にすることを忘れてしまっているのかもしれない。――そう考え、liloは長く使える道具づくりを目指し始めた。では、具体的にどのようにしてモノの寿命を延ばそうとしているのだろうか。そのカギを握るのは、「自由度の高さ」と「人」だと堀さんは言う。

「せっかく新しいモノを購入しても、戸棚にしまわれてしまうことってありますよね。liloがそうならないためにどうしたらいいかと考えたときに、『時短』とか『ボタンひとつ』ではなく、『自分なりに工夫できる』ということが必要だと考えたのです。」

「使用用途が無限であれば、liloを使っている人同士で『こんな使い方もあったよ』というようなコミュニケーションが生まれたり、一度調理を失敗しても『次はこうしてみよう』という工夫が生まれたりする可能性があります。つまり、自由度の高さが、その道具の周りに、人のコミュニティや工夫する楽しさをつくり出してくれるのです。それに気付いたとき、私たちは、“自由度の高い道具”をつくろうと決めました。」

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liloのダッチオーブンは、桐箱に入れられて購入者のもとに届く。村田さんの家業である折箱屋・村田容器が製造しており、桐箱にも愛着を持ってもらえるよう、こだわりを持ってつくられている。桐箱の表面にはギフト用に写真や文字を印刷することも可能だ。

「もちろん、ボタン一つで料理が美味しくできるような、便利な家電製品も素晴らしい。ですが、使用方法が定まり過ぎていない“ユーザーに使い方がゆだねられた道具”なら、使う人一人一人が工夫し、自分なりの楽しみ方を考えられます。そんな余白こそが、モノの息を長くすることにつながる気がします。」

不必要につくり過ぎない、責任のあるモノづくりを

liloの道具デザイナーであり陶器屋3代目の古谷さんが、モノづくりのあり方について考えるようになったのには、自身が陶器の仕事に従事していることも大きく影響していると言う。

「縄文土器がいまだに出土することがあるように、陶器は頑丈で長い間地球上に残るモノです。割れなければ数万年でも残り続けるのです。自分たちが生み出すモノが数百年、数千年先にまで影響を与えてしまうかもしれない。だからこそ、モノをつくることの意味を考えますし、責任を持って一つ一つ想いを込めた道具をつくりたいと思っています。」

liloのダッチオーブン

liloのダッチオーブン

「大量生産・大量消費が当たり前の現代社会では、つくられ過ぎたがゆえに捨てられるモノが沢山あります。それって“異常”だと思います。今のように市場にモノが余り、溢れている状態は、不必要にモノをつくり過ぎているから起こっているのではないでしょうか。」

「モノの作り手だからこそ感じることかもしれませんが、たとえサステナブルな商品であっても、大量につくり、それを売り続けることは環境に優しいとは言えないと思います。すでに生産されたモノが市場に余っていること、一人一人がすでに多くのモノを持っていること。作り手も消費者も、そんな現状を考慮した上で、責任を持ってつくったり買ったりするべきだと思うのです。だからこそ、人間と道具の正しい共生世界を目指すべき、そう強く感じます。」

信楽の魅力を伝えることも私たちの使命

モノをつくることの責任を意識しながら、人々がいつまでも愛することができる道具づくりを行うlilo。そんな彼らに、今後挑戦したいことを伺った。

「僕たちが育った信楽は、ゆったりとした雰囲気の中に鋭く尖った感性を持った人たちが生活している街。信楽の小中学校では、授業の一環で自由に土を触りながら、陶器をつくることができるんです。その中で創造力を養い、デザインやコーディネートのセンスを磨くため、実際にそのクリエイティビティを生かした仕事をしている人が多いように感じます。」

「田舎のスローなライフスタイルの中にアーティスティックなセンスがあり、伝統を尊重しながらも新しいモノを受け入れる。信楽という街を、そういった新しい人やモノが入り混じり、循環していくような場所にしていきたいです。」

信楽町

信楽の風景

信楽をアップデートしていくためにも、liloはチャレンジし続ける。これまではオンラインのみでの販売だったが、来春には信楽に店舗を設ける予定だ。そして、自分たちの畑で野菜づくりをしたり、全国の作り手を招いたイベントを開催したりすることも企画している。

「liloに興味を持ってくれた人や買ってくれた人など、みんなを巻き込み、信楽のゆったりとした雰囲気を感じてもらえる場をつくりたいです。自分たちで野菜を作っている様子を発信したり、お客さんと一緒にliloを使ってご飯を食べて、野菜の美味しさに気付いてもらったり……。ただ商品を提供するだけでなく、リアルな場をつくることでコミュニティができる。信楽という街を一緒に楽しむことで、liloのモノづくりへの想いは、より人々に伝わると思っています。」

直感を大事にした消費行動をしてほしい

liloが想いを込めてつくる道具を通して、コミュニティをつくり、信楽という街の魅力を伝えたい。そう話すliloの3人に、最後に読者に伝えたいメッセージを伺った。

「“道具へのカンシャ”が芽生える体験を届けていきたい。liloのブランド体験を通じて、少しでも道具への向き合い方が変わる人が生まれてくれたら嬉しいです。例えば、インクがなくなったペンを捨てるのではなく替えインクを買って長く使ったり、普段使いしなくなった衣類を捨てる前にアウトドア用に下ろしたり。そんな小さなことでも良いので、モノとの向き合い方を改めて考えてみてほしいと思います。」

「あとは、買い物をするとき、ビビっと来るような運命的な出会いを大事にしてほしいです。直感やシンパシーを大切に、心から欲しいと思ったモノ、大事にしたいと思ったモノを買ってみてください。それがliloの道具だったら嬉しいですが、そうでなくてもいいのです。愛着の湧いたものを長く大切にしていく。その想いが届いていたら嬉しいです。」

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liloのダッチオーブンを使った料理

編集後記

取材中、道具デザイナーの古谷さんは、手仕事の世界における課題を話してくれた。

「今、手仕事をする人たちは『後継ぎがいないから』という理由でやめていく人が多いのが現状です。手仕事=大変というイメージばかりが強調されて、後を継ぐ人がどんどんと減っているからでしょう。でも実際は、すごく楽しそうに仕事をしている職人さんたちが多くいますし、世間のイメージと現実にギャップがあると感じます。」

特に手仕事には、モノやそれを使う人のことを考え、手間暇かけてつくるからこそ込められる愛がある。そんな作り手の想いに触れるとき、人は心動かされ、モノを大事にしたいと思えるのだろう。作り手、使う人、使われる道具──この三者間で起こる“想いの循環”こそが、人間と道具の正しい共生世界の実現に必要なのではないだろうか。

昨今、「買い物は投票だ。」そんな言葉を耳にすることが増えた。

私たちは日常での消費行動を通して、企業や社会に「こんな社会にしたい」という意思を提示することができる。だからこそ、何かを買うときはできるだけ、地球環境や人、動物などに配慮されたモノを選択しよう。――そのようなメッセージが込められた言葉だ。

今回の取材を終えて思ったのは、そんな社会を良くするモノ選びの基準に、「製品が環境や社会に配慮されているかどうか」だけでなく、「心の底から魅力的だと感じたかどうか」を加えても良いのではないかということだ。もし、これから多くの人が運命的な出会いをしたモノだけを買い、まるで大切な人と接するかのように、愛を持ってモノを使うことができたら――これこそが、“真のサステナブルな世界”につながる秘訣のような気がしている。

liloが大事にしている「道具へのカンシャ」。たった一つの小さなモノを想うことが、他のモノや場所、自然など……自分を取り巻くさまざまな存在に想いを馳せることにつながる。そんな想いはまた、モノや場所を超え、自分の周りの人にまで広がっていき、地球上のあらゆるものを大切にすることにつながるかもしれない。そうなったとき、私たちは“真のサステナビリティ”、あるいは真の平和な世界さえも目撃できてしまうのではないか――。大げさでなく、そんな可能性を感じる取材だった。

【参照サイト】lilo

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