多様性ってそもそも何?その必要性を考える【ウェルビーイング特集 #21 多様性】

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多様性」、もしくは「ダイバーシティ」。この言葉に対し、あなたはどんなイメージを持っているだろうか。

「多様性のある社会をつくろう」「多様性を尊重しよう」──そんなフレーズが日々メディアや企業の広告などを通して耳に入ってくる世の中で、強い関心を持って自ら行動する人、それほど深くは考えたことはないけれどなんとなく気になっている人、あるいは何か早急に取り組まなければいけない“課題”のようなものだと感じている人など、それこそさまざまだろう。

今回は、そもそも多様性とは?という問いを出発点に、一見関係の遠そうな多様性とウェルビーイングがどのようにつながっているのか、そして、私たちはどのように多様性に向き合っていけば良いのかを、改めて考えていきたい。

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そもそも、多様性(ダイバーシティ)とは?

オックスフォード英語辞典によると、多様性(diversity)は、「互いに非常に異なる多くの人や物の集まり」と定義されている。例えば、自然界にあらゆる生物が存在することを「生物多様性」と言い、近年その喪失が環境の観点から問題となっている。

一方で、社会的な文脈で多様性という言葉に触れるときには、LGBTQ+や移民、障害を持つ人や女性といったマイノリティの人たちに関することが話題になっていることが比較的多い。それはつまり、これまでも社会に存在していたにもかかわらず、多くの人と異なる特徴を持っているために社会からの十分な理解を得られず苦しい思いをしてきた人たちに社会の目が向けられるようになってきということだ。

しかし、より深く考えてみると、私たちの持つ多様性の種類は、上記のような目立った特徴だけではない。具体的に例を挙げて見ていこう。

表層的ダイバーシティと深層的ダイバーシティ

障害や人種、性別といった、生まれ持った特徴で変えることができず、比較的わかりやすい特徴は、「表層的ダイバーシティ」と呼ぶことができる。一方で、考え方や価値観といった一見わかりにくいが重要な個人の内面的な特徴は、「深層的ダイバーシティ」と呼ばれるものだ。以下はそれぞれの例だ。

表層的ダイバーシティ

  • 性別
  • 人種
  • 国籍
  • 年齢
  • SOGI(性的指向・性自認)
  • 障害の有無

深層的ダイバーシティ

  • 価値観
  • 宗教
  • 経験
  • 嗜好
  • 第一言語
  • 受けてきた教育
  • コミュニケーションの取り方

上記はわかりやすいように分けて書いてあるが、物事の捉え方や価値観は育ってきた国や時代にも影響を受けるものなので、表層的ダイバーシティによる違いは、深層的ダイバーシティを生む要因になると考えることもできる。

個の多様性と関係性の多様性

さらに少し視点を変えて、私たち「個人」、そして人間同士の「関係性」に目を向けてみるとどうだろうか。

私たちの内面や人間性は、人生で出会った人や知識、積んできた経験など、さまざまなインプットによって形成されていく。結果、ひとりの人間の中にもいくつもの側面があることになる。これが、「個の多様性」だ。

そして、社会はそんな多様な個人がお互いに関係性を持つことで形成されている。例えば、家庭や地域、会社、趣味のコミュニティなど、私たちは人とのつながり方の種類も多様だ。これを、「関係性の多様性」と呼ぶ。

子供たち

Image via Sutterstock

このように、一言で多様性と言っても、さまざまな観点からその意味を考えることができる。このほか、性の多様性、食の多様性、働き方の多様性、美しさの多様性、といったように、特定の分野における多様性について挙げることもできる。

いずれにせよ、自分はわかりやすい特徴や、周りの人との大きな違いを持っていないと感じている人でも、上記の観点から自分をよく観察してみると、自分がオリジナルで多様なひとりの人間だということがわかるだろう。

つまり、多様性について考えるときに、この話題に無関係な人はこの社会に誰ひとりとしていないということだ。

多様性に関するさまざまな問題

上記で、私たちはみな多様な存在であると述べた。しかし、その多様さは現在の社会の中で十分に認められ、活かされているとは言えない部分がある。まず、実際に社会で起こっている多様性に関する課題を、いくつか例を挙げて見ていこう。

性の多様性が認められない場合

  • 性自認や性的指向をカミングアウトすることによって、差別や偏見を受けてしまう
  • 当事者の了承を得ずにその人の性的指向が他人に暴露されることで、精神的に追い込まれ自殺に至ってしまう
  • 就職活動や職場で、ストレート()を前提とした質問を受けてしまう
  • 同性カップルの公営住宅への入居が認められない
  • 同性パートナーが医療現場に運び込まれた場合、病状説明や面会が認められない

※身体的性と自分で認識している性が一致しており、かつ異性を愛するセクシュアリティのこと。

人種の多様性が認められない場合

  • 特定の国の出身者であること、又はその子孫であることを理由に、社会から追い出そうとされたり危害を加えられたりする
  • 受けられる教育機会に差が出てしまうことで、将来の収入の格差が生まれてしまう
  • 人種を理由に、教育機関への入学選考で不利になる
  • 外国人であることを理由に、住宅の賃貸契約が結べない
  • 移民であることを理由に、就職先の選択肢が少ない

働き方やキャリアの多様性が認められない場合

  • 女性は出産や育児を理由に退職せざるを得ない場合がある
  • 一度企業退職してしまうと子育てしていた期間をブランクと捉えられ、再就職が困難な傾向がある
  • 職場に男性が産休や育休を取りにくい雰囲気がある
  • 子育てのために転勤ができないことが理由で、能力があっても管理職になれない人がいる
  • 職場での服装や振る舞いにおいて、女性らしさや男性らしさを求められ、身体的に苦労する場合がある(女性へのパンプスの着用強制など)

多様性に関する問題の原因

こういった多様性に関する問題は、なぜ起こってしまうのだろうか。その大きな原因は、私たちの心理的要因、知識の不足、社会・経済のシステム的要因の3つに分けることができる。

心理的要因

私たちはときに、他人との違いを認め、受け入れることができず、排除しようとしてしまうことがある。例えば、上記の人種の多様性に部分で例に挙げた、「特定の国の出身者であること、又はその子孫であることを理由に、社会から追い出そうとされたり危害を加えられたりする」といった問題は、そういった心理的要因が種となっているのではないだろうか。

これには、過去の戦争や植民地化といった歴史的な背景、あるいはメディアや広告によってつくりあげられた特定のイメージが影響している場合も多い。この、多くの人に浸透している固定観念や思い込みのことをステレオタイプと言い、場合によっては偏見や差別につながってしまう。

これについて私たちが適切な対処を行うことができなければ、最悪の場合、更なる争いや民族の迫害を引き起こしてしまう可能性があるため、特に注意が必要だ。

知識の不足や無意識の偏見

多様性について寛容であると自認していても、世の中に存在する多様な人についての知識が足りないと、問題を引き起こしてしまうことがある。

例えば、上記の性の多様性の部分で例に挙げた「就職活動や職場で、ストレートを前提とした質問を受けてしまう」といった問題は、世の中には多様な性自認や性的指向を持つ人が存在するという事実を、個人や会社として認識できていないことから生じる問題ではないだろうか。

このように、相手を差別したり傷つけたりするつもりはなくても、結果的に相手の心にネガティブな影響を与えてしまう行動を、マイクロアグレッションと言う。

また、自分自身が気づいていないアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)がこういった問題を引き起こすことがある。私たちは、認知や判断を行うとき、自分自身の過去の経験や知識、価値観などを基準にするため、それが普段の何気ない言動として現れてしまうのだ。 

社会・経済のシステム的要因

社会のシステム的要因については見落とされがちだが、多様性に関するさまざまな課題を引き起こしてしまっている。

第二次世界大戦後、日本は高度経済成長期、世界全体でもグローバル化が進み、いわゆる「大量生産・大量消費」の時代がやってくる。経済の成長が最優先とされる中では、同じものを大量に生産し、効率を上げる仕組みをつくることが求められた。

それによって生まれてきたのが、終身雇用制の画一的な働き方や、一般的と考えられる家族構成や暮らし方に合わせた住宅、その仕組みに適合させることを目的とした教育の在り方などである。そこで最も重視されたのは画一性による効率であり、見落とされてしまってきたのが私たちが本来持っている多様性だ。

例えば、上記の働き方の多様性の部分で挙げた、男性に比べ女性が働きにくい仕組みが多いことや、勤務条件が合わないと能力があっても十分に働けないと言った問題は、このシステム的要因によるところが大きいのではないだろうか。

ダイバーシティ

Image via Sutterstock

多様性はなぜ大事なのか?

ここからは、上記の内容を踏まえて、多様性そのもの、そしてそれを尊重することが私たちの社会にとってなぜ大事なのかを考えていきたい。

誰もが安心して暮らせる社会に

まず、多様性を尊重することが社会にとってなぜ大事なのかを考えてみよう。

上記で挙げたように、多様性にかかわる問題はさまざまだ。しかし共通して言えるのは、多様性が認められない社会では、常に誰かが犠牲になり、狭い選択肢の中で肩身の狭い思いや苦しい思いをしてしまっているということだ。それは、もしかすると家族や友達といった自分の周りの大切な人かもしれないし、“明日の自分”の可能性だってあるのだ。

例えば、あなたの身体的特徴が変化して、今と同じ仕事をできなくなったとき。何かをきっかけに、今とは考え方が変わって、生活する場所を変えなければいけなくなったとき。そんなとき、多様性が何よりも尊重されている社会であれば、自分に合った生き方の選択肢を見つけることができるだろう。

多様性を尊重することは、私たちの生きる選択肢を増やすことであり、結果的にそれは、人生でどんなことがあっても生きていけるという安心感につながっていく。

個が活かされ、繁栄できる社会に

一方で、私たちの多様性そのものは、なぜ大事なのだろうか。

自然界には、動物や植物から細菌や微生物まで、文字通り多様な生き物が存在している。生態系という大きなシステムの中で、彼らは互いに補い合いながら生きていて、そこに役割を持たない生き物は存在しない。むしろ、一種でも失われるとそのバランスは連鎖的に崩れていく。

私たち人間の多様性も、この自然界の多様性と全く同じで、お互いが補い合って生きるために存在している。

人種や身体の特徴、感じ方や考え方、そして得意、不得意。これらがみな異なるからこそ、私たちは互いに助け合うことができ、新しいアイデアを生み出すことができ、結果的に種として繁栄することができる。つまり、私たちひとりひとりの多様さは、この社会全体にとって、必ず意味があり、不可欠なものなのだ。

それを踏まえると、私たちは上記で問題として述べた画一性と効率によって成長を求める社会や経済のシステムを、個人の多様性を活かし、誰ひとり取り残さず繁栄する社会や経済に転換させていく必要がある。自然界の中でも、寒冷地のように種の多様性が少ない、画一性を持った地域もある。しかしその在り方さえも、地球全体を通して見ると多様性のひとつであると考えると、私たちの社会全体にも同じような在り方が必要とされるのではないだろうか。

老夫婦

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多様性を尊重する世界の事例

ここからは、IDEAS FOR GOODが過去に注目してきた事例をいくつか紹介していこう。多様性を促進する新たな解決策から、ある行動が当たり前だと思っていたけれど実は多様性をおびやかしていたことに気づかせてくれる事例まで、さまざまだ。

1.人種や肌の色の多様性

世界的テニスプレーヤーのビーナス・ウィリアムズ氏が開発した、肌の色を問わず使える日焼け止め「EleVen」。白い跡が残りやすい日焼け止めは、肌の色の濃い人たちにとって長年の課題だった。EleVenは小麦色の肌にも白めの肌にも馴染み、さらにアルコールやサンゴ礁に影響を与える物質も使われていない。

また、LUSHは2018年に肌の色の多様性に配慮した40色ものファンデーションを販売した。多様な人種・民族のルーツを持つラッシュスタッフの肌で実験を行い、どんな肌タイプの人にも合う一色を見つけられるようにすることを試みた。

ファンデーション

Image via LUSH

2.性の多様性

2020年秋に台湾・台北で開催されたファッションウィーク。個性的なデザインが並ぶ中でひと際目を惹くのは、性別に関係なく着られる「ジェンダーフリー」な学校制服だ。

デザイナーのアンガス・ジャンと世界的な広告代理店のOgilvy台北が手がけた「Project UNI-FORM」は、学生たちの多様性と個性を尊重しようというメッセージを広めるためのプロジェクトだ。これは、2019年に台湾のNew Taipei Municipal Banqiao高校の生徒たちが、性別のステレオタイプを打ち破ろうと「異性の制服を着て」開催したイベントから着想を得ている。

性も、ファッションも自分で選ぶ。台湾の“ジェンダーフリー”な制服

3.体型の多様性

ファッションには時代に合わせた多様性がある。スニーカーを合わせたシンプルな服装やフリル付きの可愛らしい服装など、好みも人によってさまざまだ。しかしそんな服を「お手本」として店頭で着るマネキンたちの体型はいつも同じである。

そこに着目したのが、フランスのロボット技術に特化したファッションデザイン会社のEuvekaだ。同社は、30秒ほどで体型を変えられるロボットマネキンを開発。画一化された細い体型だけでなく、さまざまな体型、さらには車いす使用者の体型や、高齢者の姿勢にもフィットした衣服をつくることができ、服飾の世界に多様な視点をもたらしている。

ファッションに更なる多様性を。体型が自由自在に変えられるマネキン誕生

4.障害と才能の多様性

東南アジアのベトナムには、「子供の遊び心を100%活かす」ことをコンセプトに、ハンディキャップを持った子供が描いた絵をデザインに取り入れた雑貨を販売する企業がある。

ベトナム国内に多くの店舗を持ち、旅行者にも人気のプロダクトブランド「Tohe(トーへ)」だ。手足が不自由な子供や体は成熟していても精神に障害を抱えている子供などがアーティストとなり、美術の教育を受けると共に商品開発にかかわっている。

【ベトナム特集#8】デザインするのはハンディキャップを持つ子供たち。雑貨屋「Tohe」が伝える、遊び心の大切さ

日本では、三重県志摩市の「アトリエ・エレマン・プレザン」や、埼玉県川口市の「工房集」などがハンディキャップを持つ人々の創造性に着目したアート活動を行っている。

5.世代間の多様性

オーストラリアで複数の拠点を持つ人気の広告エージェンシー「Thinkerbell」が、8週間のインターンシッププログラムを立ち上げた。応募の条件は、「55歳以上であること」だ。

一風変わった取り組みの背景には、年齢差別(エイジズム)を是正したいという想いがある。デジタルに強い若者たちが働きがちな広告業界において、あえてこれまで受け入れられない傾向にあった人たちに門戸を開くことで、世代間の交流や新たな視点の導入、そして私たちの思い込みをほどいていく。

応募資格は「55歳以上」。豪・広告代理店で始まった有償インターン

日本でも、東京都港区にある体験型のミュージアム「対話の森」にて、70歳以上の高齢者が案内となって、参加者と共に歳をとることについて考え、世代を越えて生き方について対話する「ダイアログ・ウィズ・タイム」というプログラムがある。

6.企業での多様性

上記でも紹介したLUSHは、2013年にひとりのスタッフがロシアの反同性愛法に抗議したのをきっかけに会社全体でLGBT支援のためのキャンペーンを開始したり、会社人事制度を改定し同性パートナー登録制度を導入したり、LGBTの方への接客の仕方を研修したりと、社内、社外問わずさまざまな取り組みを行っている。

また、同社は「Freedom of Movement」(移動の自由)という信念を掲げ、個人の希望がない限り人事異動を行わない。また、この「Freedom of Movement」には、物理的な場所の移動だけでなく、「他者との違い」という壁も、「自分自身の可能性」への壁も越えていくことが含まれている。

このように、会社として、多様な「個」が自分らしく働き、その能力を発揮できる環境を整えている。

なぜ「多様性」が大事なのか?LUSHの取り組みが教えてくれたこと

編集後記

今回は、多様性をさまざまな観点から分解して考えてみた。身の回りの誰かを受け入れられない、もしくは自分が誰かに尊重してもらえない、などの多様性の問題に直面している人は、本記事の内容を理想論だと感じてしまったかもしれない。職場でのコミュニケーションひとつをとっても、多様な人がいればいるほど意見も多くなり、お互いが通じ合うためには労力や時間がかかる。

多様性を尊重するということは、まさに「言うは易く行うは難し」だ。

しかし、私たちがどう思おうとも、広い世界には、やはり自分とは異なる人々が存在する。その人たちを尊重するためには、まず自分自身の「個の多様性」を認め、尊重すること。そして、自分が苦手だと感じる人たちにも、それぞれに社会の中での役割があり、存在する意味があるという前提に立って対話を試みてみるのはどうだろうか。

そんなふうに、お互いの多様性を尊重しあったうえで多様な個がかかわり合えば、私たちの多様性はさらに価値のあるものとして社会の繁栄を後押ししてくれるだろう。

ウェルビーイング特集では、さまざまな多様性に向き合い、取り組みを実践している人や団体に話を聞く。読者それぞれが記事をきっかけに自分や社会の多様性について改めて考えるきっかけにしてみて欲しい。

「問い」から始まるウェルビーイング特集

環境・社会・経済の3つの分野において、ウェルビーイング(良い状態であること)を追求する企業・団体への取材特集。あらゆるステークホルダーの幸せにかかわる「問い」を起点に、企業の画期的な活動や、ジレンマ等を紹介する。世間で当たり前とされていることに対して、あなたはどう思い、どう行動する?IDEAS FOR GOODのお問い合わせページ、TwitterやInstagramなどでご意見をお聞かせください!

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