人が地球に恩恵をもたらすサイクルを創りたい。土に還るおむつDYCLEの循環型モデル【前編】

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使い捨ておむつをめぐる課題は年々高まってきている。使い捨ての紙おむつは、家庭系可燃ごみ排出量の6〜7%(重量⽐)と推計されている。また、紙おむつは⽔分多く含んでおり発熱量が⼩さいため、ごみ焼却における熱回収効率(発電効率)向上を妨げる要因の⼀つともされている。様々な素材を使ってつくられ、使用後はリサイクルも容易ではない紙おむつは自治体や企業を中心に解決の糸口を探っている。

「毎日の生活から生み出されるものから、自分を生かしてくれている地球の役に立ち、新しい価値を産めるシステムがあったらいいなと思っていました。」

そう話すのはベルリン発のスタートアップ、DYCLE(ダイクル)共同創業者の松坂 愛友美さん。「Diaper(おむつ)」と「Cycle(循環)」を合わせて名付けた「DYCLE」では、生分解性のおむつをサブスクリプションモデルで提供し、乳児の排泄物を堆肥化した土を使って木を植えるという循環を生み出している。

以前IDEAS FOR GOODでは、一般社団法人Ecological Memesが主催するグローバルオンラインフォーラム「Ecological Memes Global Forum 2021」のレポート記事の中で、「リジェネラティブ・ビジネス ー人と人ならざる生命の循環と再生ー」のセッションに登壇したDYCLEを紹介した。

今回は、松坂さんに設立の背景からDYCLEの循環する仕組みなどを伺い、サーキュラーエコノミーの視点も含め、DYCLEについてより詳細にご紹介する。

環境だけでなく人の循環も創り出す、DYCLEのサーキュラーな仕組み

DYCLEは、おむつ自体をも循環させるために、画期的なおむつの変革を起こした。DYCLEがどんな仕組みで循環をつくりだしているのかを紹介したい。

DYCLE循環の図

まずDYCLEのおむつは、地域の工場で出た麻の副産物を吸収剤の原料に使用している。100%堆肥化できるよう、従来のおむつが使用している化学製品は一切使用していない。DYCLEではおむつの中敷きを作っており、その中敷きを支えるおむつカバーとセットで使用する仕組みになっている。

その生分解性のおむつは使用後に、毎月同封される炭の粉を少量混ぜてバケツに入れるだけ。混ぜた炭の粉は微生物が含まれており、堆肥化する際の分解を促すという。そして1週間ほどでバケツが満杯になれば、地域の協力先である保育園やファミリーセンターへ家から持参する。

回収されたおむつ

回収されたおむつ

次に、地域の施設でおむつを集めたら、人糞堆肥を作る資格があるコンポスト会社へ運び、およそ1年ほどで上質な堆肥へと生まれ変わる。その堆肥は、DYCLEを使用した親またはおむつの収集に協力している施設や団体に提供したり、今後は有機農家や苗床を育てる会社へ販売したりすることで、果物などの木を植える際に使われる。そして数年後にその堆肥から育った木の実からジャムなどの食品を作り、販売することで地域のビジネスが育つのである。このようにおむつからアウトプットが生まれ雇用や売上創出につながる。結果、地域も好循環していく仕組みができあがる。

果物の木を植える様子

果物の木を植える様子

また、興味深いことにDYCLEを作るプロセス自体も人の循環の輪が作られている。

DYCLEではコアメンバーのほかに過去に累計約50人がプロジェクトに加わったり抜けたりしているそうだ。
「活動をしている中で、様々な夢や想い、スキルを持った人たちが自然と集まってくるので、それぞれの興味関心や得意なことを活かしてもらいながらプロジェクトを進めています。」

おむつのプロトタイプを作っているDYCLEメンバーの様子

おむつのプロトタイプを作っているDYCLEメンバーの様子

『あの時私がやっていたことが他の人が続けてくれたんだ』といった声、『自分がやっていたことから進化している!』などど久しぶりに戻ってきた人や今関わっている人同士も交流でき、一人一人の可能性を活かせる場づくりを行いながら、みんなで作り上げる楽しさを実感しているという。

「DYCLEが主軸をおくブルーエコノミーのなかに、『様々な人の利益に還元する』という思想があります。自分だけが利益を被るビジネスはいつか自然や人の健康を歪めてかもしれません。こうして様々な人を受け入れ、あらゆる人にとってメリットがある取り組みでありたいと考えています。」

コンセプチュアルアーティストの活動から始まった「土」づくりの追求

「我々が注力しているのは、生分解性のおむつづくりではなく、おむつと排泄物から作る土づくりです。」
そう話す松坂さんは、DYCLEはおむつを製造するためだけではなく、「土」づくりを追求するために存在する会社だと強調した。では、松坂さん自身が土に着目するまでにはどのような道を歩んできたのだろうか。

松坂さんは長年、コンセプチュアルアーティストとして海外を中心に市民参加型のアートプロジェクトを続けてきた。自然と関わるプロジェクトを手掛ける中で、堆肥への関心が湧いたのだという。

「地域で収穫されていない果物を活用してジャムを作り、地域の人へシェアするプロジェクトなど、自然から与えられためぐみを活用したアートプロジェクトをしていました。そんななか、フィンランドの森でプロジェクトを実施していた時にコンポストトイレを使用しました。そのコンポストトイレを掃除すると、トイレを頻繁に使っていた方が夏によくブルーベリーを食べていたことに目が留まったのです。そしてコンポストトイレからつくった堆肥を溜めていた場所にブルーベリーの木が実っているのを見て、人が口にして消化しきれない種が体内に残り、それが排出され、発芽して、ブルーベリーに育ったものを今私が食べているのではないかという感覚に陥ったのです。」

その時、本当に自分の体から出たものを使って土を作る事が出来るのかという疑問が残ったという。そこで、2010年から約1年半かけて、土の科学者と一緒に人間の排泄物から衛生的な堆肥を生み出す方法を研究を進めた。その研究の成果を活かし、自分たちの排泄物を堆肥化した土を使って野菜を育て、サラダを食べて排泄するといった『All My Cycle』という名のプロジェクトを開始するに至ったのだ。

松坂さんのプロジェクト

All My Cycleプロジェクトをしている松坂さん

人が自然とつながり、地球に恩恵をもたらすサイクルを創るためにDYCLEを設立

日々都市で暮らしていると自然から遠くなりがちだが、人は酸素を吸い、二酸化炭素を排出することに始まり、自然の一部として生かされているのである。自分の体内にあったものから土をつくる活動に対して「自然とリンクすることができるという感覚に魅力を感じました。」と松坂さんは目を輝かせた。

しかし、土づくりの追求を軸にアートプロジェクトを展開していた松坂さんはなぜ、おむつづくりにまで手を広げたのだろうか。当時を振り返り、松坂さんはDYCLE設立までの過去を振り返る。

「きっかけは、プロジェクトとして開催していたワークショップや展示で、おむつの廃棄量に課題意識を持つ親に多く出会ったことから始まりました。」

おむつを捨てる量に課題を持つ親がこんなにもいるのであれば、おむつごと堆肥化して安全な土を作りたいという思い至ったのだという。

「おむつは言わば、土を作る原料である排泄物を収めるためのパッケージです。そこで『循環するおむつ』というコンセプトで、ごみとして燃やしていたものを地球に還元できる仕組みを作りたいと思い、2015年にチームができあがりました。」

そこで立ち上がったDYCLEは、毎月1ヶ月分のおむつのインレイ(中敷き)と1週間分の排泄物を保管するバケツ、そして炭の粉を家庭に届けるサブスクリプションモデルを提供している。使用後のおむつを堆肥化する仕組みも作り、現在はベルリン市のフリードリヒスハイン=クロイツベルクという地域でそのサイクルを回しながら、日々改善を繰り返している。

 

DYCLEのセット

DYCLEのセット

大切なのは、ごみを「減らす」思考ではなく、ごみを資源と捉え、新しく「創る」思考

地域でゼロウェイストを目的とした活動を始める場合、どこから手をつけていいのか困っている人も多いのではないだろうか。「プラスチックなど、ごみを減らす取り組みも大切だと思いますが、『減らす』という意識は我慢大会になってしまいます。」そう話す松坂さんは、環境に良い活動を楽しく実践する方法を見いだすことの大切さを語った。

松坂さんは続ける。「私たちは、ごみを減らす方法を考えるのではなく、価値があるものを『作ろう』と打ち出しています。ごみを減らす努力をするよりも、ごみから新しく作りだせた方がうれしいのではないでしょうか。ベルリン市のこの地区は『ゼロウェイス』を掲げています。まずは生ごみから土を作ってはどうかと提案しました。しかし地区の方からは、成功するかわからないけど、おむつの堆肥化にぜひ挑戦したいという返答をいただきました。前例がなくチャレンジングかもしれないけれど、実現できたらより感動するほうを選びたかったんだと思います。」

ファイナンス面や環境のインパクトへの配慮も大切だ。しかし、行政が市民からの理解を得るには、関わる人が感動でき、共に手を動かしながら創造する取り組みも良いのではないかということだ。

「今私たちがやっているのは微々たるものですが、実際におむつから出来た土を見て『なにを植えようか?』と一緒に考え、みんなで植えると楽しいですよね。」

地域コミュニティだからこそ実現できる。土に還るおむつDYCLEの循環モデル(後編)へ

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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